DARTイオン化におけるメチル誘導体化の活用 [DART Application]
MSTips No.237 日本電子株式会社 MS事業ユニット
はじめに
Fig.1 DART ion source
実験
L-citrulline のメチル誘導体化をFig. 2に示す。誘導体化試薬としてTMS-ジアゾメタンを用いた。メチル誘導体化は、サンプルと誘導体化試薬各1μLをガラス棒上に続けて滴下して行った(Fig. 3)。滴下後、直ちにイオン源に導入してDARTイオン化測定を行ったため、誘導体化の時間は数秒である。装置および測定条件をTable 1に示す。
Fig. 2 Methyl derivatization of L-citrulline
ガラス棒をプレート固定用サンプラーにセット
試料と誘導体化試薬、各1μLをガラス棒先端に続けて塗布(滴下)
→ガラス棒上で誘導体化反応が起こる
DARTイオン源に導入
→試料をDARTイオン化
Fig. 3 Procedure for derivatization
Table1 HPLC and MS conditions
装置 | |
---|---|
質量分析計 |
JMS-T100LP "AccuTOF™"シリーズ |
イオン源 |
DART SVP |
測定条件 | |
---|---|
イオン化モード |
DART(+) |
Heガスヒーター温度 |
350°C |
オリフィス1電圧 |
30V |
結果
L-citrulline のDART-MS測定を計6回行った。前半3回(#1~3)は誘導体化処理なし、後半3回(#4~6)はメチル誘導体化処理を行った。未変化体 ([M+H]+, m/z 176)および14Da増のメチル化体([M+H]+, m/z 190)のイオン強度推移をFig. 4に示す。メチル誘導体化処理を行った後半3回については、メチル化体を観測することができた。メチル化体は、未変化体と比較して、より早く短時間のうちにイオン化が行われており、メチル誘導体化により揮発性が向上したためと考えられる。このようにイオン強度推移においてシャープなピークが観測できると、S/Nの向上により高感度化も期待できる。誘導体化処理有無によるマススペクトルの違いをFig. 5に示す。メチル誘導体化処理後は、プロトン付加分子の安定性の向上により、フラグメントイオンが少なく、よりシンプルなマススペクトルとなっている。
まとめ
DART-MS測定において、簡便なメチル誘導体化手順を加えることにより、より質の高い高感度なマススペクトルを得られることが期待でき、イオン化可能な化合物の幅が広がると考える。また、容易にメチル誘導体化の有無が確認でき、カルボン酸の存在などの化学合成品の確認、同定および構造解明などの一助となると期待できる。
Fig. 4 Variation of ion intensity of L-citrulline (m/z 176) and methylated L-citrulline(m/z 190)
(a)サンプルのみ
(b)メチル誘導体化
Fig.5 DART mass spectra of L-citrulline (a) and methylated L-citrulline(b)
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