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DARTイオン化におけるメチル誘導体化の活用 [DART Application]

MSTips No.237 日本電子株式会社 MS事業ユニット

はじめに

Direct Analysis in Real Time(DART) は、アンビエントイオン化法の一種で、大気圧下、開放系で気体・液体・固体など様々な形態の試料を前処理なしに直接分析できるため、簡便で迅速なイオン化法として、いろいろな分野で活用されている。DARTイオン化(Fig.1)は、加熱したヘリウムガスにより試料を揮発させ、励起ヘリウムにより生成した水クラスターイオンとのプロトン移動反応により試料がイオン化される。その特徴の一つとして、疎水性物質から親水性物質まで、様々な物性の試料を測定することができる。しかし高極性の試料などは揮発しづらいため、測定が難しい場合もある。  今回、我々はDARTイオン化法の活用の幅を広げるべく、その簡便さを損なわない誘導体化処理とその効果を検討した。本報告では、L-citrullineのメチル誘導体化について報告する。
Fig. 1 DART ion source

Fig.1 DART ion source

実験

L-citrulline のメチル誘導体化をFig. 2に示す。誘導体化試薬としてTMS-ジアゾメタンを用いた。メチル誘導体化は、サンプルと誘導体化試薬各1μLをガラス棒上に続けて滴下して行った(Fig. 3)。滴下後、直ちにイオン源に導入してDARTイオン化測定を行ったため、誘導体化の時間は数秒である。装置および測定条件をTable 1に示す。

Fig. 2  Methyl derivatization of L-citrulline

Fig. 2 Methyl derivatization of L-citrulline


ガラス棒をプレート固定用サンプラーにセット

試料と誘導体化試薬、各1μLをガラス棒先端に続けて塗布(滴下)
→ガラス棒上で誘導体化反応が起こる

DARTイオン源に導入
→試料をDARTイオン化

Fig. 3 Procedure for derivatization

Table1 HPLC and MS conditions

装置

質量分析計

JMS-T100LP "AccuTOF™"シリーズ

イオン源

DART SVP

 
測定条件

イオン化モード

DART(+)

Heガスヒーター温度

350°C

オリフィス1電圧

30V

結果

L-citrulline のDART-MS測定を計6回行った。前半3回(#1~3)は誘導体化処理なし、後半3回(#4~6)はメチル誘導体化処理を行った。未変化体 ([M+H]+, m/z 176)および14Da増のメチル化体([M+H]+, m/z 190)のイオン強度推移をFig. 4に示す。メチル誘導体化処理を行った後半3回については、メチル化体を観測することができた。メチル化体は、未変化体と比較して、より早く短時間のうちにイオン化が行われており、メチル誘導体化により揮発性が向上したためと考えられる。このようにイオン強度推移においてシャープなピークが観測できると、S/Nの向上により高感度化も期待できる。誘導体化処理有無によるマススペクトルの違いをFig. 5に示す。メチル誘導体化処理後は、プロトン付加分子の安定性の向上により、フラグメントイオンが少なく、よりシンプルなマススペクトルとなっている。

まとめ

DART-MS測定において、簡便なメチル誘導体化手順を加えることにより、より質の高い高感度なマススペクトルを得られることが期待でき、イオン化可能な化合物の幅が広がると考える。また、容易にメチル誘導体化の有無が確認でき、カルボン酸の存在などの化学合成品の確認、同定および構造解明などの一助となると期待できる。


LC-MS results using SALNAC cartridge.

Fig. 4 Variation of ion intensity of L-citrulline (m/z 176) and methylated L-citrulline(m/z 190)

(a)サンプルのみ

LC-MS results using SALNAC cartridge.

(b)メチル誘導体化

LC-MS results using SALNAC cartridge.

Fig.5  DART mass spectra of L-citrulline (a) and methylated L-citrulline(b)

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