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マルチビーム型の電子顕微鏡手法を新たに開発
-少ない測定点から高精細像を短時間で構成することが可能-

公開日: 2026/04/10

東京科学大学
日本電子株式会社

ポイント

  • マルチビーム電子顕微鏡と圧縮センシングを融合した新たな顕微鏡観察手法を開発

  • 高速・低線量での観察が可能となり、電子線に弱い材料や分析計測に有効

  • EDS・EELS・CLなど分析系への応用が期待され、電子顕微鏡計測の高速化に貢献

概要

東京科学大学(Science Tokyo)物質理工学院 材料系の三宮工教授と日本電子株式会社の安原聡博士、東京大学 大学院情報理工学系研究科の堀﨑遼一教授らの研究チームは、走査透過電子顕微鏡において複数のビームを同時に照射するマルチビームを用いることで、少ないスキャンピクセルで高解像度な画像を再構成することに成功しました。
従来の走査透過電子顕微鏡では、1点ずつ走査するため取得速度が遅いという課題がありました。また、電子ビームによる試料の損傷が生じるため、測定対象が制限されていました。
本研究では、複数孔の開口絞り(用語1)によりマルチビームを生成する新たな機構を構築し、得られる重ね合わせ像から圧縮センシング(用語2)のアプローチにより、超解像の像再生を可能としました。構造観察だけでなく、特に長時間の像取得が必要となる各種分析計測において有用であり、電子顕微鏡計測の高速化・低線量化に向けた新たな基盤技術となることが期待できます。
本成果は、3月15日付の「Ultramicroscopy」誌にオンライン掲載されました。

背景

走査透過電子顕微鏡は、物質の構造や組成、電子状態を原子スケールで可視化できる強力な手法であり、材料科学や半導体研究など幅広い分野で不可欠なツールとなっています。しかし、その基本原理は微小電子ビームを試料上で1点ずつ走査するもので、高解像度像を得るためには高密度なサンプリングと長い測定時間が必要となります。このため、測定時間が長くなるだけでなく、電子線による測定試料の損傷が問題となり、特に有機材料やナノ構造などの観察や、長時間の分析に制約がありました。この課題に対し、コヒーレント(用語3)な電子波の干渉を利用する電子線タイコグラフィーなどの手法が提案されていますが、電子線励起のX線や可視光、非弾性散乱電子(用語4)を検出に用いた元素分析や状態分析には適用できませんでした。
このような背景のもと、より簡便な検出系で高速化と低線量化を両立できる新しい電子顕微鏡イメージング技術の開発が求められています。

研究成果

本研究では、複数の電子ビームを同時に生成するマルチビーム照射と、圧縮センシングに基づく画像再構成を組み合わせた新しい走査透過電子顕微鏡手法を開発しました。具体的には、ランダムに配置した複数の開口を持つ開口絞りを用いてマルチビームプローブを形成し、デフォーカス(用語5)制御によりビーム分布を調整し、試料上に構造化された照明を与えつつ、従来より粗いサンプリング(用語6)でデータ取得を行いました(図1)。

 

 

得られた信号は複数(マルチ)ビームの重ね合わせ(低解像多重イメージ)として観測されますが、既知のプローブ形状を利用し、全変動正則化(用語7)を含む最適化問題として再構成を行うことで、高精細な像を復元できることを示しました。

図1  マルチビームを用いた走査透過電子顕微鏡法の模式図

 

実験では、サンプリング点数を大幅に削減した場合でも、金ナノ粒子の画像再構成に成功しました(図2)。1/4~1/10程度のサンプリング密度においても構造が再生できており、測定時間の短縮と電子線照射量の低減を同時に達成できることが明らかとなりました。また、この手法は検出信号を空間分解せずに信号の総量だけを測る検出(バケット検出)に基づくため、構造のイメージングだけでなく各種分析マッピングにも適用可能である点が大きな特徴です。

 

図2  マルチビームを用いた金ナノ粒子像再生の例

社会的インパクト

本研究により、電子顕微鏡観察における「高解像度・高速・低線量」のトレードオフを大きく緩和できる可能性が示されました。特に、電子線に弱い材料や動的現象の観察において、これまで困難であった測定の実現につながります。また、エネルギー分散X線分光(EDS)や電子エネルギー損失分光(EELS)、カソードルミネセンス(CL)などの分析手法にも適用可能であることから、材料の化学状態や電子状態の高速マッピングにも展開可能であり、半導体開発やエネルギー材料研究の高度化に貢献することが期待されます。

今後の展開

ビーム配置やデフォーカスの最適化、さらには動的にビーム形状を制御する技術との統合により、さらなる性能向上が期待でき、また、高倍率・原子分解能領域への応用や、リアルタイム再構成技術の確立により、次世代電子顕微鏡の基盤技術としての発展が見込まれます。

付記

本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号JP23K26567JP23H05444JP24H00400JP25K22227)および JST 創発研究(課題番号JPMJFR213JJPMJFR2448)、JST CREST(課題番号JPMJCR25I3)、旭硝子財団、セコム科学技術財団の支援のもと実施されました。

用語説明

  • 開口絞り:電子線の通過する範囲を制限するための絞り。電子ビームの広がりや形状を制御し、ビーム形状に影響を与える。

  • 圧縮センシング:少ない測定データから元の情報を復元する信号処理技術。元の情報がある表現空間で疎に記述できることを仮定して、高精度な再構成を可能にする。

  • コヒーレント:波の位相がそろっている状態を指す。電子顕微鏡では、電子波同士が干渉できる性質を持つことを意味する。

  • 非弾性散乱電子:試料と相互作用してエネルギーを失った電子のこと。元素情報や電子状態など、材料の性質に関する情報を含むが、コヒーレントではなくなる。

  • デフォーカス:焦点が試料面からずれている状態。電子ビームの広がりやコントラストを調整するために意図的に利用されることもある。

  • サンプリング:一定の間隔で点を選んで測定すること。走査像において「粗い」サンプリングは、試料上の位置を間引いてデータを取得することを指し、測定点の数や間隔が画像の解像度や精度に影響する。

  • 全変動正則化:画像の急激な変化(エッジ)は保ちつつ、ノイズを抑えるための数学的手法。画像再構成において、滑らかで自然な結果を得るために用いられる。

論文情報

掲載誌:Ultramicroscopy
論文タイトル:Compressive multi-beam scanning transmission electron microscopy
著者:Akira Yasuhara, Takumi Sannomiya, Ryoichi Horisaki
DOI:10.1016/j.ultramic.2026.114353

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