超超微細構造の測定−脱酸素の効果−
ER060003
有機ラジカルの測定をする場合に、構造式から予想されたスペクトルよりもブロードな信号になることがあります。この原因の一つに溶媒中の溶存酸素があります。溶媒が水の場合、約250μmole/l の酸素が溶存しています。酸素はラジカルですから、溶液中の試料濃度が薄い場合でも、試料の持つ不対電子(スピン)と酸素のスピンが磁気双極子相互作用を起こし、線幅の広がりを生じます。このため、試料の構造を正確に反映したスペクトルを測定する場合は、脱酸素処理を行う必要があります。脱酸素処理は通常、試料を入れた試料管を真空ラインに接続して行いますが、窒素ガスを通気するだけでもある程度の効果が認められる場合もあります。
ここでは脱酸素処理により、安定ラジカルであるTEMPOL(Benzene溶液)の超超微細構造を観察した例をご紹介します。

図1

図2 脱酸素前(Mod.width:0.1mT)

図3 脱酸素後(Mod.width:0.1mT)
TEMPOLの構造を図1に示しました。スピンが局在するN-Oの両側のCにメチル基が計4つ結合していますが、酸素飽和した溶液では図2のように、これらのメチル基のHによる分裂は観察されません。これを真空ラインを用いて脱酸素すると、図3に示したスペクトルのようになりました。脱酸素により磁気双極子相互作用による線幅の広がりが抑えられたため、線幅がシャープにかつ信号が大きくなっています。ここで、磁場変調幅(Mod.width)を0.1mTから0.01mTに変更すると、over-modulation現象が解消され、図4のような分裂が観測されました。低磁場側のグループ(図中の□内)を図5に拡大表示しました。

図4 脱酸素後(Mod.width:10μT)

図5 脱酸素後の分裂の拡大図
このように、微細な分裂を示すと予想される試料の場合は、線幅が広がるために微細な分裂が隠れてしまうことがありますので、脱酸素処理を行っての測定をお勧めします。また、図2と図3の比較で明らかなように、信号強度が増大するというメリットもあります。
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