生細胞が生成する活性酸素のESR測定
ER140005
近年、活性酸素は生体内で生成して疾病の原因となったり、食品をはじめとする多くの製品中で生じて品質の劣化を引き起こすとして、マイナス面が取沙汰されることが多いですが、一方で生体防御の役割を担うというプラスの面も持っています。良く知られているのが、外部から侵入した細菌に対して、白血球が活性酸素を発生させて無毒化するというものです。
白血球はPMA等の試薬で刺激すると、膜内酵素であるNADPHオキシダーゼが活性化されて、活性酸素の一つであるスーパーオキシド(O2・-)を生成することが知られています1)。
ここでは、白血球の一種である好中球が生成する活性酸素をESRで測定する例をご紹介します。
試料 | ブタ好中球細胞 (常法1) により単離してHBSS中に懸濁; 1×107 cell/ml) |
スピントラップ剤 | DMPO (2.24M) |
刺激 | PMA(phorbol myristate acetate) (100μg/ml) |
緩衝液 | HBSS(HEPES buffer-Saline Solution, pH7.5) |
①DMPO: | 10μl |
②HBSS: | 168μl |
③好中球懸濁: | 20μl |
④PMA: | 2μl |
合計 | 200μ |
↓
上記試薬を混合後、水溶液セル(ES-LC12)に移して37℃に温度調節したキャビティにセットし、ESR測定を行います。
磁場: | 335.764±5 mT |
掃引時間: | 1 min |
時定数: | 0.03s |
変調磁場幅: | 0.08 mT |
マイクロ波出力: | 10mW |
図に示したように、PMA刺激開始1分からDMPO-O2-の形成が確認され、2分後に最大となり、3分後では減少に転じました。これは O2・-生成が非常に速やかに起きることと、DMPO-O2-の寿命が短いことと、測定セル内の溶存酸素が枯渇しO2・-の発生が継続できなくなるためと考えられます。 DMPO-OHおよびDMPO-CH3が時間経過と共に増加することから、これらのラジカルはO2・-の二次生成物であると考えられます。 O2・-はDMPOとの付加反応速度が遅いため、ここで用いたDMPO濃度で捕捉しきれなかったO2・-の一部が不均化反応によりH2O2を形成します。 H2O2は徐々に分解してHO・を生じます。
HO・は、すみやかにDMPOアダクトを形成するほか、PMAの溶媒であるDMSOと反応してCH3・を解離しDMPO-CH3を形成させると考えられます。DMPOは生細胞に毒性を示す場合があるため、濃度を変更する場合は注意が必要です1)。
生体内の重要な防御機能を備える白血球のラジカル生成をモニターすることで、病態解明や新規薬剤開発を目的とした炎症メカニズムの研究2)等が行われています。
参考文献
1) Ueno, I., Kohno, M., Mitsuta, K., Mizuta, Y., and Kanegasaki, S. (1989) J. Biochem. 105, 905-910
2) 柿沼カツ子、千葉 司、藤井博匡、 ESRとフリーラジカル121-124 日本医学館 (1989)