ディーゼル排気ガス中微粒子が体内で生成するラジカル
ER150007
最近、中国都市部のPM2.5を含む大気汚染が問題になっています。日本では公害大国といわれた1970年代以降、大気汚染問題について様々な角度から検討されており、現在では環境先進国として、世界に貢献できるまでになってきました。ここでは、国立環境研究所を中心に行われたディーゼル排気ガス中微粒子(DEP)成分の生体影響の研究に、著者が参加し体内で酵素反応的に生成するラジカルを評価した例1)をご紹介します。
研究チームはDEPを投与した動物の肺障害が、Superoxide Dismutase投与により軽減されたことから、Superoxide(O2・-)が障害の一因であると推測しました2) 。そして、DEP抽出成分のO2・-生成がP450 reductase (P450red)系により増強されることをESR-スピントラップ法により示しました。
下記のように試料および試薬を調整してin-vitroでのP450red反応系を再構成しDEPの反応を評価しました。
- DEPのメタノール抽出物(Tween20 solution): 20 mg
- ICRマウスより単離精製したP450 red: 0.006 unit
- NADPH: 0.1 mM
- DMPO: 876 mM
- りん酸緩衝液(pH7.7): 0.1 M
反応混液は25℃で4分間反応させてESR測定を行いました。
P450red系にDEP抽出成分を添加したところ、図のようにO2・-およびHO・のDMPOアダクトが検出されました。反応系のいずれの成分が欠けてもこのようなラジカル生成は認められなかっ たことから、DEPはP450red系によりO2・-およびHO・を生成することが示されました。呼吸によりDEPが肺内に取り込まれた場合、肺障害を引き起こす原因になると推測されました。
図.DEP抽出成分が酵素反応により生成した活性酸素
DEPにはベンツピレンをはじめとした多くの有害物質が含まれていますが、その一部が生体内酵素により代謝活性化されて活性酸素を生成することで、肺障害が起きる可能性が示唆され ました。こうした健康影響に関する研究成果を背景に、2003年には首都圏の八都県市でディーゼル車規制が開始されました。中国でも大気汚染物質の危険性が再認識され、解消に向けた取り組みが加速することが期待されます。
参考文献
1) Kumagai, Y. et al Free Rad. Biol. Med. 22:479-487;1997
2) Sagai, M. et al Free Rad. Biol. Med. 14:37-47;1993