強磁性薄膜とスピン流 (1) - FMRで垣間見えるスピン流効果 -
ER190002
強磁性薄膜は、磁気テープやハードディスクに代表される情報記憶素子として広く利用されてきた。近年では、例えば、Spin Transfer Torque Random Access Memory (STT-RAM)といった、『スピン流』を動作原理とした新しい記憶素子の開発にも注目が集まっている。
『スピン流』とは、電子の持つ重要な二つの物理量である『電荷』と『スピン』のうち、向きのそろったスピン角運動量の流れ(JS)を意味し、電荷の移動を伴うスピン偏極電流と、電荷の移動を伴わない純スピン流とに大別される。とりわけ純スピン流は、電荷の移動、つまり電流(JC)を伴わないため、低消費電力素子への応用が期待されている。
強磁性薄膜をスピン流の供給源とするスピン流発生の効果は、強磁性体の磁気共鳴である強磁性共鳴(Ferromagnetic resonance : FMR)を測定することで、観測することができる。FMRスペクトルは、通常のESR装置を用いて、比較的簡単に測定することができる。
試料と方法
純スピン流を生成することのできる素子は、スピン流の供給源である強磁性薄膜とスピン軌道相互作用の大きな非磁性金属箔が2層構造となったものが、その代表例である(写真1左上の挿入図参照)。
強磁性層としてNiFe合金(Py)を用いた単層膜と写真1に示したPyとパラジウム(Pd)の2層膜のFMRスペクトルを測定した。
写真1.Py/Pd金属2層薄膜*
スピン注入効果
図1に示すスペクトルは、Pd箔のないPy単層膜および、 Py/Pd 2層膜のFMRスペクトルの比較であり、どちらも強磁性体であるPyのFMR信号である。 Py単層膜のFMRスペクトルと比べて、Py/Pd 2層膜はその線幅が著しく増大していることが分かる。これは、Pyから非磁性のPdへのスピン注入によるスピン流生成効果と考えられる[1]。

図1.Py単層薄膜とPy/Pd金属2層薄膜のFMRスペクトル
Set Parameters & Conditions
Sample | Py(Ni78Fe22) |
Py(Ni78Fe22)/Pd | |
Angle [deg.] | Bo // 薄膜面 |
Temperature [°C] | 26.5 |
NW Frequency [MHz] | 9441.689 |
MW Power [mW] | 4 |
Bo [mT] | 122 - 222 |
Mod. Width [mT] | 0.5 |
Mod. Freq. [kHz] | 100 |
Mod. Phase [deg.] | 0 |
Sweep Time [s] | 30 |
Accumulation | 4 |
Amp. Gain | 2.5 |
Tc [s] | 0.03 |
参考文献
[1] Y. Tserkovnyak, A. Brataas, and G. E. W. Bauer, Phys. Rev. Lett. 88(2002), 117601.
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