強磁性薄膜とスピン流 (2) - 逆スピンホール効果の測定 -
ER190003
強磁性体と非磁性金属からなる2層薄膜素子は、単層の強磁性薄膜素子と比べて、異なる強磁性共鳴(FMR)スペクトルの線幅を示す。これは、強磁性薄膜のスピン角運動量がFMRによって2層界面上で接触している非磁性金属に伝達されるという『スピン注入』が起きて、純スピン流が非磁性金属中に流れ出た効果であると考えられている[1] 。
では、この純スピン流はどのように検出すればよいのか?よく知られている検出方法の一つは、ESR装置を用いるものである[2]。
図1に示すように、薄膜素子が静磁場(B0)に置かれた状況で、紙面垂直下向きにスピン流(JS)が流れると、強磁性の磁化σ(B0と平行)とJSの両方向に直交した方向に電流(JC)が生じる。これを逆スピンホール効果(Inverse spin-Hall effect : ISHE)という。薄膜に電流が流れて末端に生じた電位差(VISHE)を計測することで間接的に純スピン流を計測することができるようになった[2]。
図1.逆スピンホール効果の模式図
試料と方法
アプリケーションノート[ER190002]にて使用したのと同じ、NiFe合金(Py)とPdの2層膜を試料として、Pd箔両端の起電力(Vemf)とFMRスペクトルを同時測定した。
FMRと逆スピンホール効果(VISHE)
図2に示すように、FMRと同じ共鳴磁場で起電力(Vemf )スペクトルが観測された。このVemfスペクトルの線型、角度変化、マイクロ波パワー依存性などの解析から、逆スピンホール起電力( VISHE )の情報を抽出し、素子に流れるスピン流の性質を理解することが可能となる。

図2.Py/Pd金属2層薄膜のFMRスペクトルとVemfスペクトル
Set Parameters & Conditions
Sample | Py(Ni78Fe22)/Pd |
Angle [deg.] | Bo // 薄膜面 |
Temperature [°C] | 27 |
NW Frequency [MHz] | 9435.45 |
MW Power [mW] | 64 |
Bo [mT] | 115 - 265 |
Mod. Width [mT] | 1 |
Mod. Freq. [kHz] | 100 |
Mod. Phase [deg.] | -60 |
Sweep Time [s] | 30 |
Accumulation | 64 |
Amp. Gain | 10 (CH1:FMR) |
105 (CH2[CN107]:VISHE) | |
Tc [s] | 0.01 |
参考文献
[1] Y. Tserkovnyak, A. Brataas, and G. E. W. Bauer, Phys. Rev. Lett. 88(2002), 117601.
[2] E. Saitoh, M. Ueda, H. Miyajima and G. Tatara, Appl. Phys. Let. 88(2006), 182509.
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