熱分解/GCxGC/高分解能TOFMSによる成型ポリマー (ニトリルゴム:NBR) 中添加物のEI, FIイオン化による同定 [GC-TOFMS Application]
MSTips No.289
はじめに
ポリマー製品に求められる材料特性は添加物によるところが大きく、特性に応じて、様々な添加物が低重合樹脂に加えられている。
ポリマー材料の代表的分析手法として一般的に熱分解 (PY)/GC/MSが用いられるが、PY/GC/MSでは、添加物や熱分解物のクロマト分離が不十分なケースがあり、化合物の帰属・同定が困難な場合がある。
一方、包括的二次元ガスクロマトグラフー高分解能飛行時間質量分析計 (GCxGC-HRTOFMS) は、2つの異なる極性を持ったGCカラムによる高分離クロマトグラムと精密質量測定による組成推定情報が得られる質量分析装置であり、PY と組み合わせることにより従来の PY/GC/MS を用いた手法より、より詳細な解析が可能となることが期待できる。
本アプリケーションノートにおいては、Py/GCxGC/HRTOFMS法を用いて、市販の成型ポリマー内の種々添加物を同定した結果について報告する。
実験
市販の市販のニトリルゴム (NBR) 製Xリングを1mmの薄膜とし、その一部を約0.5mgの小片にしたものを試料として、前処理せずにPY/GCxGC/HRTOFMS測定を行った。質量分析計には、JMS-T200GC "AccuTOF™ GCv 4G"を 、GCxGCシステムに、KT2006 (ZOEX社製)、熱分解装置に、PY-2020iD (フロンティア・ラボ社製) を用いた。詳しい測定条件を、以下に示す (Table 1)。
Table 1 Measurement Conditions
Instrument | JMS-T100GCV "AccuTOF™ GCv 4G" (JEOL ltd.) KT2006 (GCxGC module , ZOEX社製) PY-2020iD (フロンティア・ラボ社製) |
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Pyrolysis conditions | |
PY temp. | 600°C |
PY-GC-ITF temp. | 350°C |
GCxGC conditions | |
Inlet temp. | 350°C |
Inlet mode | Split mode (200 : 1) |
1st Column | BPX-5 (30m x 0.25 mm, film thickness 0.25 μm, Trajan SGE) |
2nd Column | BPX-50 (2m x 0.1 mm, film thickness 0.1μm, Trajan SGE) |
Oven temp. program | 50°C (3min) → 5°C/min → 360°C (3min) |
Carrier gas flow | 1.33mL/min (He, Constant flow) |
Modulation period | 10 sec |
MS conditions | |
Ionization mode | EI(+): 70eV, 300μA, FI(+): -10kV, Carbon emitter |
Interface temp. | 300°C |
Ion source temp. | EI: 280°C, FI: OFF |
Spectrum recording interval | 50Hz (0.02sec/spectrum) |
m/z range | 30 – 600 |
Drift compensation | m/z 207.0329 (C7H21O4Si4) |
Fig. 1 2D map (EI, TICC) for x-ring
Fig. 2 2D map (FI, TICC) for x-ring
Fig. 3 EI Mass spectra
Fig. 4 FI Mass spectra
結果
EI法による2DTICCマップはFig.1に、FI法による2DTICCマップをFig.2に示した。2Dマップの横軸は沸点による分離を示し、縦軸は極性による分離を示している。 2Dマップ中の[a]~[d]のEIおよびFIマススペクトルを、それぞれFig.3と4に示す。 EIマススペクトルのNISTライブラリ検索により、 [a]~[d]は添加物のBenzothiazole (Fig. 3 [a])、 Phthalic anhydride (Fig. 3 [b])、 N,N-dimethyl dodecanamide (Fig. 3 [c]) 、 Diisooctyl phthalate (Fig. 3 [d])とそれぞれ同定された。1stカラムのみの一次元のGCで分析すると、benzothiazoleはNBR熱分解物と同時に溶出するため、極微量であるBenzothiazoleの同定はion suppressionにより非常に難しくなる。しかし、 2ndカラムを加えたGCxGC法では、 Benzothiazoleと熱分解物とがクロマトグラム上で容易に分離することができ、同定可能であった。
Diisooctyl phthalateのEIスペクトルにおいて分子イオンは検出されなかった。一方、FIスペクトルでは分子イオンが良好なS/Nで検出された (Fig. 4[d]) 。検出された分子イオンの精密質量数から組成推定を行うと、EIのライブラリ検索の結果と一致した。さらに、EIにおけるフラグメントイオンの組成推定結果もまた、分子イオンで帰属した組成の結果を支持するものであり、 Diisooctyl phthalateと同定された。
結論
- ポリマー材料中のbenzothiazoleのような一次元のGCでは夾雑物質と重なってしまう添加物も、GCxGC法により容易に分離可能。
- EIマススペクトルのライブラリ検索の検証とFIマススペクトルによる分子イオンの組成推定は、添加物の定性解析に有効である。
- ポリマー材料中の添加物において、PY/GCxGC/HRTOFMSシステムを用いることにより、信頼性の高い定性解析が可能である。
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