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SpiralTOF™によるアクリル系接着剤の分析~Kendrick Mass Defect プロット法の適用~ [MALDI Application]

MSTips No.220 寺本 華奈江
日本電子株式会社

 分子量が大きく、分子量分布が広い合成高分子などの構造解析に適用できる高分解能MALDI-TOFMS JMS-S3000 (SpiralTOF)のデータ処理法の一つとして、Kendrick mass defect (KMD)プロット解析法が注目されている。1, 2)ここでは、シアノアクリレートを主要成分とする市販のアクリル系接着剤をSpiralTOFで測定し、KMDプロット法による解析を試みた。 

実験

 アクリル系接着剤を10mg/mlとなるようにアセトンで溶解して測定に供した。マトリックス剤にはDHBを、カチオン化剤にはヨウ化ナトリウムを用いた。測定にはJMS-S3000を用いた。

結果と考察

 Fig.1aに、アクリル系接着剤のm/z 300-1700におけるMALDIマススペクトルを示す。m/z 400-700の範囲に、44 Da間隔のピーク群が観測され、高分解能測定結果から、C2H4Oを繰り返し単位にもつポリエチレンオキシド(PEO)であると推測し、C2H4Oを基準にKMDプロット用ソフトmsRepeatFinderを用いてKMDプロットを作成した。その結果、黒色で囲んだ範囲の一群がx軸に対して平行にプロットされたため、これらが末端基が異なるPEOであると考えられた(Fig.1b)。PEOの他に、赤色で囲んだ範囲と、青色で囲んだ範囲に、2つの系列のポリマーが観測されていると考えられた。
 まず、青色で囲んだ4つのグループのプロット群から、4つの反応開始点をもつ多分岐化合物の存在が示唆された。次に,マススペクトル上でのピーク間隔から、赤色で囲んだ範囲のプロットは、本試料の主要成分であるシアノアクリル酸エチル(C6H7NO2: 125.047)を繰り返し単位にもつポリマー由来であると考えられた。そこで、C6H7NO2を繰り返し単位として指定して、KMDプロットを作成した。
 Fig.1bのKMDプロットで赤色で囲んだプロット群が、x軸に対して平行に配列されたことから、本試料に含まれるシアノアクリレートは、瞬間接着剤に含まれることが一般に知られているシアノアクリル酸エチルであると考えられた。
 このように、KMDプロット解析法を適用することにより、ピーク強度が比較的弱く、繰り返し単位の関連を見出すことが困難な成分についても、分布を明瞭に示すことができる。なお、msRepeatFinderの“Grouping Mode”を利用すれば、KMDプロット上で選択したプロットと、それに相当するピークとが連動して同じ色に変換される(Fig.2b)。これにより、KMDプロット上のプロットとマススペクトル上のピークとを容易に関連付けることができる。

【Fig.1 MALDI mass spectrum of an acrylate adhesive(a) and KMD plot of the adhesive using a mass scale based on EO unit(b). 】

【Fig.2 KMD plot of the adhesive using a mass scale based on C6H7NO2 unit (a) and MALDI mass spectrum of an acrylate adhesive (b). Peaks and dots corresponding to cyanoacrylic acid ethyl ester were indicated in the red color.】

まとめ

 ここでは、市販のアクリル系接着剤をJMS-S3000で測定し、KMDプロット解析法を適用した。その結果、膨大なピーク群の中に埋もれた比較的弱いピーク強度で観測されているピーク群であっても、KMDプロット図から構造別に情報を抽出し、ポリマー群の分布情報を視覚的に得られることが示された。KMDプロット解析法では、ピークの帰属を行わず、繰り返し単位の指定により作成することができるため、迅速かつ簡易に化学構造が異なる同族体の分布解析が可能になる。複数種類の材料が混合された市販製品のキャラクタリゼーションに高分解能MALDI-TOFMS JMS S3000とKMDプロット解析用ソフトmsRepeatFinderが有効であることが示された。

文献

1) Sato,H. et al., Structural characterization of polymers by MALDI spiral-TOFMS combined with Kendrick mass defect analysis,
  J. Am. Soc. Mass Spectrom., 25, 1346 (2014).
  (Open access: http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs13361-014-0915-y)
2) Zheng, Q. et al., Molecular composition of extracts obtained by hydrothermal extraction of brown coal, Fuel, 159, 751 (2015).

謝辞

 本資料は、国立研究開発法人産業技術総合研究所環境管理研究部門佐藤浩昭研究グループ長のご協力により作成したものです。

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