新型ガスクロマトグラフ/高分解能飛行時間型質量分析計JMS-T200GC “AccuTOF GCx”

  • 概要

日本電子news Vol.47 No.6 生方 正章
JEOL USA, INC.

 今日、質量分析計(MS)が使用される科学分野は多岐にわたり、その用途・アプリケーションに応じて様々なMSが市販されている。他の理化学機器と比較した時、MS最大の特長はその高感度にあると言える。市販装置の中にはfg(10-15g)オーダーの極微量成分をも容易に検出し分析することが可能なものもある。また高質量分解能(HR)・高質量精度な質量スペクトルが得られる飛行時間型質量分析計(TOFMS)や磁場型質量分析計などでは、検出されたイオンの精密質量情報から、その元素組成を正確に知ることが可能である。以上のことから、MSは極微量成分の定量分析・定性分析が可能な分析機器として、様々な分野で活用されている。
 弊社では、2004年秋に国産初となるガスクロマトグラフ/高分解能飛行時間型質量分析計(GC/HR-TOFMS)、JMS-T100GC “AccuTOF GC”を上市し、これまで多くのお客様にご愛顧頂いている。このたび、従来機種に比べて高感度化、高質量分解能化を達成した第4世代のGC/HR-TOFMS、JMS-T200GC “AccuTOF GCx”を開発し、発表した。本稿では従来機種と比較しながらAccuTOF GCxの装置概要と基本性能について紹介する。

装置概要

 装置外観写真をFig.1に示す。使用可能なイオン化法は従来機種と同じく、電子イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、電界イオン化(FI)法、及び専用の直接試料導入プローブを用いる脱離電子イオン化(DEI)法、脱離化学イオン化(DCI)法、電界脱離イオン化(FD)法である。
 Fig.2に低加速イオン輸送部と、直行加速型(oa)-TOFMS部の模式図を示す。低加速イオン輸送部では二分割されたレンズ2及びデフレクタの電位差を利用し、GCキャリアガス由来のHeliumイオンをoa-TOFMS部の手前で99%以上排除している。これにより検出器の長期寿命化に成功している。oa-TOFMS部はイオンの加速機構とリフレクトロンを備えており、加速機構によってイオンビームを空間収束させ、さらにリフレクトロンによって時間収束させることで、常時高質量分解能動作を実現している。oa-TOFMS部については従来からの大きな変更点はないものの、各パラメータについて再検討し最適化することで質量分解能の向上を達成した。イオン源及びイオン輸送部とoa-TOFMS部の間には隔離バルブが装備されており、これによりoa-TOFMS部の高真空を保ったまま、イオン源とイオン輸送部のみを大気開放しメンテナンスすることができる。
 検出器のイオン検出部や電子回路を改良・最適化することで、高分解能化と高感度化を同時に達成した。データ検出システムにはADC 4GHz-digitizerを採用しており、充分なデータポイントをもって質量スペクトルを得ることができる。これは、得られるイオンピークの質量精度(質量スペクトルの横軸)と、強度(質量スペクトルの縦軸)の再現性向上に寄与している。
 装置サイズは従来機種と全く同じでありながら、AccuTOF GCxでは3倍の高感度化、2倍の高質量分解能化を達成している。

JMS-T200GC “AccuTOF GCx” Low-acceleration ion transfer system and oa-TOFMS system
【Fig.1 JMS-T200GC “AccuTOF GCx”】 【Fig.2 Low-acceleration ion transfer system and oa-TOFMS system】

基本性能

 AccuTOF GCxの基本性能は以下のとおりである。

  • Ionization mode: EI, CI, FI, DEI, DCI and FD
  • GC/EI Sensitivity: OFN 1pg, S/N>300
  • Mass Resolution: >10,000(FWHM)
  • Mass Accuracy: <1.5 mDa or 4 ppm(RMS)
  • Mass Range: m/z 4 to 6,000
  • Spectrum Recording Speed: up to 50 spectra/sec

 GC/EI感 度仕様値は、Octafluoronaphthalene(OFN)1 pgでS/N300以上となっている。Fig.3にOFN 1 pgの分子イオンm/z 271.9867の抽出イオンクロマトグラム(EIC)と、EI質量スペクトルを示す。EIC、EI質量スペクトルともに高いS/Nをもったデータが得られている。Fig.4にOFN 100 fg 8回連続測定で得られた分子イオンのEICと、それらのピーク面積値、相対標準偏差、及びそこから計算される装置検出限界(IDL)を示す。100 fgという極微量成分量にも関わらず、相対標準偏差は5.2%と高い安定性を示している。これらのピーク面積値の繰り返し精度をもとに、一定の信頼度を仮定して統計的に計算されたIDLは16 fgであった。このようにAccuTOF GCxは極微量成分の測定においても、高感度でかつ高い安定性を両立したGC/MSシステムとなっている。
 Fig.5にはGC/MS用質量較正物質として広く使われているPerfluorokeroseneのフラグメントイオンC6F11+と、GCカラム由来のバックグラウンドイオンとして観測されるC7H21O4Si4+の、AccuTOF GCxと従来機種における質量分離挙動を示している。これらのイオンは非常に近い質量を有しており、従来機種では充分な質量分離が得られなかった(Fig.5下段、質量分解能: 5,105、ピーク半値幅: 55 mDa)。AccuTOF GCxの分解能仕様値は10,000であり、近接したこれらのイオンピークも充分に分離して観測することができた(Fig.5上段、質量分解能: 10,476、ピーク半値幅: 27 mDa)。
 質量分解能向上に伴い質量精度も向上しており、その仕様値は1.5 mDaもしく4 ppm以下である。全てのイオン化法において高い質量精度をもった質量スペクトルが容易に得られるので、ソフトイオン化法であるCIやFIで観測される分子イオンやプロトン付加分子の精密質量情報から対象化合物の分子式を、ハードイオン化法であるEIで観測されるフラグメントイオンの精密質量情報から対象化合物の構造式を推定することができる。Fig.6にAllyl(tert-butyl) dimethylsilaneのEI及びFI質量スペクトルと、観測されたイオンの元素組成推定結果を示す。EI質量スペクトル中には僅かに分子イオンm/z 156が観測されているが、その強度は著しく低かった。EIは最もハードなイオン化法であり、分子イオン以外に多くのフラグメントイオンが観測される一方、分子イオンが全く観測されないこともしばしばある。未知試料の場合、EI質量スペクトルだけでは、観測された最も質量数の高いイオンが分子イオンなのか、それともフラグメントイオンなのか、その判別は非常に難しい。FIはソフトなイオン化法の1つであり、他のソフトイオン化法と比較し、分子イオンの検出を最も容易に行うことができる。Allyl(tert-butyl)dimethylsilaneのFI質量スペクトル中でも、分子イオンm/z 156は相対的に最も高い強度で観測されている。FI質量スペクトル中に観測された分子イオンm/z 156の精密質量情報から、このイオンがもつ元素組成はAllyl(tert-butyl)dimethylsilaneの分子式と同じC9H20Siであると推定された。またEI質量スペクトル中に観測されたフラグメントイオンの精密質量情報から、Allyl(tert-butyl)dimethylsilaneの構造式の断片を示す元素組成情報が得られた。このように、複数のイオン化法で得られた元素組成情報を組み合わせることで、信頼性の高い定性分析を行うことができる。
 AccuTOF GCxのもう一つの大きな特徴は測定可能な質量範囲の広さであり、その質量範囲はm/z 4-6,000となっている。通常のGC/MS、特にEIを用いた測定ではm/z 600程度までが質量範囲として使用される。一方、FDを用いた測定では合成高分子や有機金属錯体のような比較的質量数が大きい試料を対象とすることが多い。AccuTOF GCx の質量範囲m/z 6,000はこのような試料の分析を可能とする。(Fig.7)このFD測定は専用の直接試料導入プローブを用いるDirect MS測定手法の1つであるが、一般的な市販GC/MSがGC/MSにほぼ特化しているのに対し、AccuTOF GCx ではこの他に2つの直接試料導入プローブ(Direct Exposure Probe、 Direct Insertion Probe)を用いたEI及びCI測定も可能である。
 スペクトル記録速度は、最高50スペクトル/秒を実現している。高速ガスクロマトグラフィー(Fast GC)や、包括的二次元ガスクロマトグラフィー(GCxGC)といった、非常に早いスペクトル記録速度が求められる測定手法においても、AccuTOF GCxはその検出器として使用可能である。
 AccuTOF GCxは、高感度・高質量分解能・高質量精度・高質量範囲・高速スペクトル記録速度を併せ持つ、次世代のGC/MSシステムである。

OFN 1 pg: EIC of m/z 271.9867 and EI mass spectrum
【Fig.3 OFN 1 pg: EIC of m/z 271.9867 and EI mass spectrum】

OFN 100 fg: EICs of m/z 271.9867 and IDL
【Fig.4 OFN 100 fg: EICs of m/z 271.9867 and IDL】

Comparison of mass resolution and ion peak shape
【Fig.5 Comparison of mass resolution and ion peak shape】

EI and FI mass spectra of Allyl(tert-butyl)dimethylsilane
【Fig.6 EI and FI mass spectra of Allyl(tert-butyl)dimethylsilane】

 Polystyrene 5200 FD mass spectrum
【Fig.7 Polystyrene 5200 FD mass spectrum】

EI/FI/FD共用イオン源

 EI/FI/FD共用イオン源はその名の通り、1つのイオン源で異なる3つのイオン化法での測定(GC/EI、GC/FI、FD)を行うことが可能なオプションイオン源である。イオン化モードの変更は専用プローブを交換するだけでよく、イオン源の交換は不要である。専用プローブはイオン源を大気開放することなく交換できるため、イオン化モード変更における装置のダウンタイムは極めて少ない。このユニークなEI/FI/FD共用イオン源は、第2世代のAccuTOF GCvで初めて搭載可能となり、その利便性の高さから多くのお客様にご使用頂いている。上述したようにTOFMS本体において高感度化、高質量分解能化を達成しているため、このEI/FI/FD共用イオン源を使用した測定においても、従来よりも高感度・高分解能な質量スペクトルが得られる。

新ソフトウェア“msAxel”

 AccuTOF GCx の商品化を期に、装置制御用、及びデータ解析用ソフトウェア “msAxel”を新規に開発した(Fig.8)。msAxel では、より使い易いユーザーインターフェースを実現するために、一画面の中で必要な情報にアクセスできるよう画面構成を一新している。また装置を最適な状態に調整するチューニングアシスタント機能は、従来ソフトウェアよりそのまま継承している。このチューニングアシスタント機能は、これまで通りすべてのイオン化モードで使用可能である。
 msAxel 最大の特長は、データ処理を行うにあたっての各種の操作が単一画面で素早く行うことが可能になった点である。質量分析計のデータ処理に欠かせない以下の処理内容は、あらかじめ設定された条件のもと質量スペクトルが作成されると同時に実行される。

  1. イオンピーク検出
  2.  イオンピークの重心位置の確定
  3. 精密質量、イオンピーク強度/面積値の算出
  4. 上記情報を元にしたイオンピークリストの作成
  5. 質量較正又はドリフト補正

 さらに、msAxel では従来のソフトウェアとは異なり上記の処理の中で作成したピークリストを元に、NISTライブラリデータベース検索や元素組成推定を実行する。プロファイル型のマススペクトルを保持したままこれらの処理が可能となるため、処理操作が簡便になるばかりではなく、近接したイオンピークの質量分離状態を確認しながらデータの処理が可能となっている。

msAxel Main view msAxel Data Processing view
【Fig.8 msAxel:msAxel Main view】 【Fig.8 msAxel:msAxel Data Processing view】

おわりに

 2004年に第1世代のAccuTOF GCを販売開始して以来、AccuTOF GCシリーズは多くのお客様にご使用頂いている。第4世代のAccuTOF GCxは、ハードウェア、ソフトウェアを飛躍的に進歩させた最新のGC/HR-TOFMSシステムである。GC/MSの汎用的な用途には勿論のこと、TOFMSならではの元素組成推定や、最新のガスクロマトグラフ技術であるFast GCやGCxGC測定、ならびに直接試料導入プローブを用いるDirect MSとしての用途にも十分応えることができる。今後AccuTOF GCxが、様々な分野、アプリケーションにおいてますます活用され、科学技術発展の一助となることを期待する。

関連製品 RELATED PRODUCT