• 概要

日本電子news Vol.47 No.7 奥西 栄治1、佐々木 健夫1、沢田 英敬1,3、神保 雄1、岩澤 頼信2、宮武 耕志2、湯浅 修一1、大西 市朗1、箕田 政顕2、金山 俊克1、近藤 行人1

1日本電子(株)EM事業ユニット

2日本電子(株)EC事業ユニット

3日本電子(株)イギリス法人  (2015年8月より勤務)

GRAND ARM

 我々は加速電圧300kVの超高分解能電子顕微鏡GRAND ARM (JEM-ARM300F)を開発した[1]。(Fig.1) GRAND ARMは、新開発収差補正器(ETA Corrector、JEOL製)とそれをコントロールするCOSMOシステムや用途に応じた2種類の新開発ポールピース(FHP,WGP)、安定化された電気回路や機械機構、電子顕微鏡カラム、広い加速電圧に最適化されたSTEM検出器等多くの新開発部分と特徴を有している。
 Fig.1に示すGRAND ARMを用いることにより基本性能の一つであるSTEMの保証分解能は63 pmを実現し、装置最高の性能として50 pm以下の分解能を実現することも可能となった(Fig.2)。

GRAND ARM(JEM-ARM300F)
【Fig.1 View camera systemを搭載したGRAND ARM(JEM-ARM300F)の外観写真。】

種々の試料のダンベル構造*1の高分解能HAADF-STEM像
【Fig.2 種々の試料のダンベル構造*1の高分解能HAADF-STEM像。
(a) Si[110]、(b) Ge[112]、(c) Si[112]、(d) GaN[211]、(e) Ge[114]、(f) Si[114]。
*1材料を観察する方位を選択することで、投影像には、原子と原子がダンベルのように、0.1 nm付近もしくはそれ以下の非常に狭い間隔で2つ連なって見える。】

WGPの開発による電子顕微鏡の多機能化

 電子顕微鏡が多機能化し多くの研究開発用途に用いられるようになっている。すなわち顕微鏡に求められるのは像分解能だけでなく、EDSやEELSの分析性能や、その場観察等、ダイナミックな動的観察の用途も求められている。こういった多機能、高分解能を実現するためGRAND ARMはWGP(ワイドギャップポールピース)を選択し構成することが可能である。このポールピースは分解能よりもむしろ顕微鏡の多機能化を実現するために開発された。様々な要求に応えるために、試料の周りの空間は広く、その周りに配置されるEDS検出器が高い角度で近接に配置されるように設計されている。
 顕微鏡の分解能はよく知られているように、ポールピースの形状で決まる。超高分解能を得るためにはそのギャップは小さく、高い加工精度が要求される。この超高分解能を狙ったポールピースでは分解能を高く設定することが可能であるが、そのギャップの狭さから、試料傾斜角や選択できる試料ホルダーの種類に制約がある。またEDSの検出器も近づけることは難しく、その検出感度も低くなる。一方WGPでは分解能は超高分解能ポールピースには及ばないが、そのギャップは数倍広いので、多くの試料ホルダーを選択使用可能であり、試料傾斜角も高くすることが可能である。またEDS検出器の位置も試料に近い位置に設定できる。
 特に試料ホルダーは近年、液中観察、ガス雰囲気観察、加熱・冷却観察、カソードルミネッセンス用など多種多様な機能を備えたものが開発されており、それらを制限無く使用できるのは大きなメリットである。

超高感度EDSシステムの開発

 TEMに備えられる分析機能として、試料から放出される特性X線を検出することにより試料中の構成元素を同定するEDSは幅広く用いられている。Fig.3に示すように、X線検出器は検出立体角をできるだけ大きくとるために試料ホルダー近傍にセットされる。試料から放出される特性X線はほぼ等方的に球面方向に放射されるが、従来は検出器の配置が、対物レンズのポールピースや試料ホルダーによって制限されるために、通常は全体のうちのわずかしか検出することができなかった。一般にEDSではその検出立体角の数値は低く、検出感度はEELSに比べて小さい。これを改善するためには、検出器を試料に近づけるか、検出面積を大きくするのが有効である。現在では検出素子面積105 mm2という大きなTEM用の検出器も開発されている。1つの検出素子の大きさには制限があるので、大きな検出器を複数備えた検出システムが開発されている。GRAND ARMにも105 mm2の検出器を2個装備した新型高感度EDSシステムが開発された。この超高感度EDSシステムの特徴は、105 mm2検出器を2個装着していることである.一方の検出器(SDD1)の設置方向はホルダーの軸と90度の角度となるように設置し、もう1つの検出器(SDD2)は試料ホルダー挿入方向と対向方向の検出器を設置している。Fig.4にその模式図を示す。さらに、検出器と試料の距離のほかに、X線の取り出し角度が高く設定できるように、ポールピースと検出器部の形状を最適化してある。Fig.5に示すように従来はポールピース上極の形状によって、検出器を試料に近づけようとすると、X線の取り出し角は低くならざるを得なかった。しかしGRAND ARMのWGP構成ではEDS検出器の取り付け距離、角度を最適化し、近接でしかも25度以上の取り出し角が得られている。このようにポールピースと検出器の両者を新しく設計、開発することにより、Table 1に示すように、高い検出立体角と取り出し角を両立することを可能とした。これを見ると、検出立体角を2つの検出器をあわせて1.6 srとなり、およそπ/2の立体角でX線を検出することができていることになる。Fig.6はそれぞれの検出器から得られるNiO2膜のNi-Kα線の強度を同条件で測定し、比較したものである。このグラフからGRAND ARMではSDD2はSDD1のほぼ2倍の検出感度を持つことがわかる。
 Fig.7にSrTiO3の原子分解能元素マップの結果を示す。その高い感度から2.5分程度の分析時間で明瞭な各元素の分布像が得られている。またSDD2は試料ホルダーに向かい合う方向から挿入されるので、試料ホルダーのX傾斜に対して検出感度が影響を受けにくいことは容易に推測できる。このことはEDSを利用した3Dトモグラフィーに対してよい条件をもたらすことが期待できる。また検出感度の高さは、照射電流を低く押さえた場合にも有効であり、電子線によるダメージの影響を低減させて測定が可能である。
 

試料ホルダーと対物レンズポールピース周辺のEDS検出器の配置
【Fig.3 試料ホルダーと対物レンズポールピース周辺のEDS検出器の配置。】
新型EDSシステムにおける検出器配置の簡易模式図



【Fig.4 新型EDSシステムにおける検出器配置の簡易模式図。SDD1の設置方向は試料ホルダーの軸と90度、SDD2の設置方向は試料ホルダーの挿入方向と対角。 SDD2の方がSDD1よりも試料に近く配置できる。】
 

対物レンズポールピースとEDS検出器の(光軸に沿った)断面図
【Fig.5 対物レンズポールピースとEDS検出器の(光軸に沿った)断面図。(1)Position (high)ではX線の取り出し角が大きくなるが、検出器の試料からの距離が長くなる。(2)Position(Low)では検出器を試料により近く配置できるが、取り出し角が小さくなる。】

【Table 1 GRAND ARMのEDS検出器(3種類)の、検出立体角と取り出し角の関係】
GRAND ARMのEDS検出器(3種類)の、検出立体角と取り出し角の関係

GRAND ARMのEDS検出器の構成に応じたX線取得量(Ni-Kカウント)の比較
【Fig.6 GRAND ARMのEDS検出器の構成に応じたX線取得量(Ni-Kカウント)の比較。】

原子分解能EDSマップの例
【Fig.7 原子分解能EDSマップの例。 試料: SrTiO3

応用例1

 Fig.8に高感度X線検出systemを用いて取得したZrO2多結晶セラミクスのEDSによる元素マップを示す。512×512ピクセルの多画素でも30分程度の分析時間で明瞭な各元素の分布像が得られている。通常セラミクス等にはその材料特性改善のために微量に添加元素が加えられる。材料解析ではこの添加された元素がどのように材料中に存在するかを知ることが、その材料特性改善の現象を探る上で重要となってくる。EDSマップの結果を参照すると、主元素のZr、 Oに加えて、SiやY、Alといった元素が検出されている。特にそれらの元素は粒界に存在していることがわかる。特に粒界の3重点には多量に偏析しているのがわかる。さらに粒内を見て見るとYは粒内にも分布を持つことがわかる。その分布は粒内の結晶欠陥と思われるコントラストの位置と良く一致している。結晶欠陥部分には元素偏析が起こる可能性が高いのでその様子がとらえられているものと推測される。

ZrO2多結晶セラミクスのEDSマップ
【Fig.8 ZrO2多結晶セラミクスのEDSマップ。Y、Al、Siが粒界の3重点に偏析している。Yはさらに、結晶粒内の欠陥上にも偏析している。】

応用例2

 Fig.9に粒径約17 nmのPd/Auコアシェル微粒子から取得したEDSマップを示す。このような微粒子は電子線照射によるダメージを受けやすく、照射電流の高い状態での測定では粒子の形状や構成元素の分布が変化する恐れがある。そのため本実験では加速電圧を160 kVに照射電流を30 pA設定にして測定した。取得されたEDSマップを見ると各元素の分布が明瞭に観察されている。特にシェル部分を構成するPdはAuのコアの周りに非常に薄い層として存在しているのがわかる。またFig.10に示すとおりマップ前のSTEM像とマップ後のSTEM像に大きな違いは無く、試料が受けたダメージが無視できるほど小さいことが分かる。取得されたPd層はマップ像から得られたX線強度プロファイルから、その幅が約0.6 nmであることがわかる。これは原子層に換算すると約3原子層に相当する。
 このように今回新開発した検出システムを用いることにより、検出感度を非常に高くすることが可能となり、低照射電流条件でも十分なX線信号量が得られた。そのため、数原子層の非常に狭い領域に対しての明瞭な元素分布像を電子線のダメージを非常に小さくして得ることができた。

低照射電流で取得したPd/Auコアシェル微粒子のEDSマップ
【Fig.9 低照射電流で取得したPd/Auコアシェル微粒子のEDSマップ。】
 

 (a) Before mapping
(a) Before mapping
【Fig.10 EDSマップ前後のSTEM-HAADF像の比較。】
 (b) After mapping (18 min later)
(b) After mapping (18 min later)
 

まとめ

 我々は加速電圧300kVの収差補正電子顕微鏡GRAND ARMに取り付け可能な高感度X線分析システムを開発した。このシステムはX線検出器だけでなく、検出器と干渉する対物ポールピースの形状等も含めて開発を行い最適化を行った。X線の検出立体角は1.6 srである。この新型システムを用いることにより、従来型のシステムと比較して、2倍以上の感度で測定を行うことが可能である。このため原子分解能での元素マップが非常に高速に得ることが可能である。また感度が高いため、試料に照射される電子線の電流量を小さくしても十分な感度で分析することが可能である。これらのことは材料開発において非常に大きなアドバンテージとなる。
 このように今回開発した新型X線分析システムを用いることにより、従来は電子線ダメージの影響により測定が困難であった試料への応用や、またスループットの向上が可能である。

参考文献

  1. H. Sawada et al.; Super high resolution imaging with atomic resolution electron microscope of JEM-ARM300F. JEOL News , 49, No.1, 51-58 (2014).

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