分野別にみるEPMA分析手法~凹凸試料から微量炭素分析まで~

  • 概要

日本電子news Vol.47 No.8 森 憲久
日本電子(株)SA事業ユニット

 電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)は、高い分析能力をもつことから様々な分野で活用されている。分析目的に応じてアタッチメントを追加することでより高度な分析やより効率的な分析が可能となる。EPMAの応用分野を、鉄鋼・非鉄金属、自動車、電子部品・半導体、化学、資源エネルギー、地質の6分野に分け、各分野において有効なアタッチメントをまとめた。今回まとめたアタッチメントのうち近年開発した新しい分析手法であるマルチハイトマップ、コンタミネーション対策、多結晶加算プログラムについて紹介する。

はじめに

 電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)(Fig.1)は、検出感度の高い元素分析能力と金属や酸化物、樹脂と様々な材料を取り扱うことが可能であることから広い分野で用いられている。それぞれの分野においてEPMAの分析手法は、様々な形で発展している。これに伴い、EPMAに数多くの分析機能やアタッチメントが採用されている。
 本稿では、EPMAが用いられている主要な分野を6つに分類し(Fig.2)、それぞれの分野で用いられている機能をまとめた。さらに、新機能であるあらゆる形状の凹凸試料を簡便に分析可能とするマルチハイトマップ、微量C分析の前処理をより確実に実施するコンタミネーション対策、多結晶同時分析により高感度分析を高速化する多結晶加算プログラムを紹介する。
 

JEOL製 JXA-8230 電子プローブマイクロアナライザー
【Fig.1 JXA-8230】
6つのEPMAの応用分野
【Fig.2 6つのEPMAの応用分野】

EPMAの応用分野と応用事例

 Table 1は、EPMAが利用されている分野を6つのカテゴリーに分類し、応用例を紹介したものである。この分類は、EPMAの活用状況を元に分けたため、材料と製品の分類が混在したものとなっている。EPMAの応用分野は広いためこのカテゴリーに入らない領域でも様々な活用がなされている。このカテゴリーに入らない例としては、材料ではコンクリートやガラス、セラミックスなどを上げることができる。
 今回は、この6つのカテゴリーを元にオプション機能を紹介する。

【Table 1 EPMAの応用分野と応用事例】
EPMAの応用分野と応用事例

鉄鋼・非鉄金属

 日本におけるもっともEPMAの活用事例の多い分野が鉄鋼である。EPMAの高い感度や良好な位置再現性、そして安定度を生かした応用分野が鉄鋼には数多くあることによる。EPMAの特徴を生かした応用例としては、EPMAの高い検出感度を生かした、ppmオーダーの面分析、検量線法による1%以下のCの定量や線分析、広域のステージスキャンを生かした中心偏析や薄板鋼鈑のステージマッピングなどがある。
 非鉄金属の分野でも微量な濃度変化や析出物、粒界偏析の分析にEPMAは用いられている。特に近年、レアアース、レアメタルの問題の拡大に伴い、複雑な波形と多くのピークの重なりを生じる可能性の高い希土類などの重金属の分析において波長分解能の高いWDSが活躍している。Table 2に、この分野の代表的な応用例と関連するオプション機能を示す。

【Table 2 鉄鋼・非鉄金属分野における代表的な応用例とオプション機能】
鉄鋼・非鉄金属分野における代表的な応用例とオプション機能

自動車

 産業として大きいため、独立した分野を設けたが、自動車にはあらゆる材料が用いられている。このためEPMAの応用としては、地質を除く4つのカテゴリーすべての分野が含まれることになる。自動車におけるEPMAの応用事例としても金属が最も多いことから、 Table 3の内容の多くがTable 1と共通である。
 金属以外でも電子部品やガラス、発光材料、ラジアルタイヤなどが分析対象となる。中でも排気ガス用の触媒分析やブレーキパッドなどもその組成が非常に複雑であるためEPMAを用いることが多い。

【Table 3 自動車分野における代表的な応用例とオプション機能】
 自動車分野における代表的な応用例とオプション機能

*オプショナルアタッチメント

電子部品

 子部品のもっとも代表的な応用例は、めっきとはんだやボンディングワイヤの反応層などで生成する金属間化合物の解析である。 EPMAの1~0.1μm程度の空間分解能と高い定量精度が複雑な相図をもつ金属間化合物の解析に有効である。
 セラミックコンデンサの焼結助剤や発光材料中の希土類の分析では、粒界や粒内の微量な元素分布の分析を対象とするためP/B比の良いWDSが有効である。電子部品の腐食の原因を調べるには、腐食成分が微量である場合やハロゲンによる汚染の場合、ピークオーバーラップやバックグラウンドの影響が大きいことからWDSを用いる分析が効果的である。Table 4に、この分野の代表的な応用例と関連するオプション機能を示す。

【Table 4 電子部品分野における代表的な応用例とオプション機能】
電子部品分野における代表的な応用例とオプション機能

*オプショナルアタッチメント

化学

 化学分野では、WDSの軽元素の感度が高いことを生かしたNやFなどの分析ニーズが大きい。Liイオン電池や燃料電池のF分布の分析はその代表例である。
 脱硫触媒など化学プラント用の使用済み触媒もEPMAの重要な分析対象の一つである。多孔質の球形や円柱状の使用済み触媒をリサイクルするための分析であり、1mm程度の広域の面分析を行う場合が多い。
 EPMAの得意とする分析は定量分析であるが、化学分野では化学結合状態の解析を重視するため低エネルギーの特性X線を用いた状態分析も多く用いられている。Table 5に、この分野の代表的な応用例と関連するオプション機能を示す。

【Table 5 化学分野における代表的な応用例とオプション機能】
化学分野における代表的な応用例とオプション機能

*オプショナルアタッチメント

資源エネルギー

 日本国内における最も多い資源エネルギー関連のニーズはプラント建設のための材料開発や重機関連部品の素材開発である。鉄鋼材料、鋳物の分析、これら材料の高温腐食やめっきなどの分析が主なEPMAの応用例となる。中でも原子力関連では、Beや超重元素の分析に強いEPMAの担う役割は大きい。
 太陽電池の開発では、電池に用いる半導体に対して湿式の分析が困難であるためEPMAを用いた定量分析を用いる場合がある。また、資源探査における鉱物の分析にも用いられる。Table 6に、この分野の代表的な応用例と関連するオプション機能を示す。

【Table 6 資源エネルギー分野における代表的な応用例とオプション機能】
資源エネルギー分野における代表的な応用例とオプション機能

*オプショナルアタッチメント

地質

 地質分野において鉱物の全元素の定量分析は、一般的にEPMAが用いられる。天然の鉱物は、微小であり、微量元素を多く含み複雑な組成を持っているためWDSを用いた定量分析が重要となる。
 EPMAを用いた地質の分析では年代測定のためのジルコンのゾーニングの観察に対するニーズが高い。このためにパンクロカソードルミネッセンスシステム(PCL)を用いたCL像の観察が行われる。Table 7に、この分野の代表的な応用例と関連するオプション機能を示す。

【Table 7 地質分野における代表的なオプション機能】
地質分野における代表的なオプション機能

*オプショナルアタッチメント

新しい分析手法

凹凸試料分析を可能にするマルチハイトマップ法

 EPMAに搭載されているローランド円を用いた波長分散型分光器は、試料、分光結晶、X線検出器の3つが集光条件を満たす位置に配置される必要がある。このため、EPMAは試料の高さ(Z方向)を正確に合わせたうえで分析を行う。よって、凹凸のある試料の分析には、高さ補正を行う必要がある。
 従来の元素マップにおける凹凸の補正方法には、4点の座標入力による傾斜補正、マス目状に座標を入力するガイドネットマップ法、任意の点の座標を入力する任意曲面マップ法がある。これらは、EPMAの面分析のために傾斜面の座標を登録し、傾斜面にそってステージを駆動する手法である。複雑な形状の試料では、多数の座標を入力する手間が必要とされた。
 マルチハイトマップ法は、高さを変えた複数枚のカラーマップを解析し、集光条件を満たした分析結果と同様な結果を得ることができる。本手法は、試料の最も高い点と低い点の2か所を入力するのみでどのような複雑な形状の試料も分析可能となる[1]。
 Fig.3にマルチハイトマップ法の原理を示す。WDSを用いてX線を測定する場合、試料の高さを変えるとさまざまな集光条件でのX線を測定することになる。このとき、各試料高さのX線強度を積分することにより、集光条件を満たした分析結果と同様な結果を得ることが可能である。このとき求められるX線強度は、1回のスキャンのマップに比べて2~3倍程度になる。このためマルチハイトマップ法の一つの高さの測定時間は、通常のマップの半分程度で十分である。マルチハイトマップに必要な分析枚数は、分光結晶によって前後するが、高さの変化1mmあたり数枚で十分な分析精度を得ることができる。
 また、マルチハイトマップは、この計算の際にX線強度を度数分布として高さの平均値を求めることで試料の形状の変化を求めることが可能である。
 Fig.4は、直径2mmのネジにマルチハイトマップ法を適応した例である。このデータに示すようにマルチハイトマップは、高さの差が1mmの凹凸試料を数枚のマップ測定により高さ変化の影響のない元素マップを作ることが可能である。

マルチハイトマップの原理
【Fig.3 マルチハイトマップの原理
マルチハイトマップ法の原理図。本手法は、高さを変えて測定した複数の面分析結果からX線強度と試料表面の高さを算出する。】

マルチハイトマップによる分析例
【Fig.4 マルチハイトマップによる分析例
マルチハイトマップによる直径2mmのネジ表面のCrの分析例。左の数枚の画像をマルチハイトマップ法で演算し、右の1枚の画像を作製した。】

微量分析を高速化する多結晶加算プログラム

 高感度な分光結晶を搭載したEPMAを用いてもppmオーダーの微量元素を分析する面分析では、たとえ大照射電流を用いても分析時間が数時間に及ぶことが少なくない。このため微量元素分析では分析時間の短縮はEPMA分析における重要な課題の一つである。
 分析目的の元素が明確であるならば、有効な時間短縮手段として複数の分光器を用いて分析する手法を挙げることができる。仮に3チャンネルの分光結晶を同時に使用して分析を行えば、三分の一の測定時間で分析が可能となる。従来、複数の分光器で測定したデータの加算は、手動で行う必要があった。このため、データの管理が煩雑であり、標準試料を用いた濃度化に対応できなかった。ここで取り上げる多結晶加算プログラムは、面分析や線分析において複数の分光器よる同時測定とデータ処理を行うことができる。さらに加算したデータを検量線法により濃度化することに対応している(Fig.5)。

多結晶加算プログラムによる分析例
【Fig.5 多結晶加算プログラムによる分析例
鉄鋼中のPの偏析を測定した結果。分光結晶1枚のデータa)と3枚のデータb)をPの濃度を揃えて表示した。多結晶加算プログラムを使用することで高いS/Nの測定結果を得ることができる。】

コンタミネーション対策の課題と解決策

 鉄鋼中の微量Cの分布の分析は、EPMAの特徴的な分析の一つである。鉄鋼中の微量Cを分析する場合、コンタミネーションの影響をいかに低減するかが信頼性の高い結果を得るために重要なポイントとなる。最も重要な点は、試料前処理である。日本電子のアプリケーション部では、ダイヤモンドペースト1μmまで機械研磨を行った後、Cを含まないアルミナにて最終研磨を行っている。さらに、超音波洗浄を数回繰り返した後、ヒートガンでサンプルを加熱するなどの処理も併せて行っている。これらの前処理を実施することでコンタミネーションの影響を抑えることが可能である。しかし、これらの前処理は、ノウハウに属するものであるため担当者の技量によって差が生じることになる。近年、ノウハウに寄らないコンタミネーション対策が求められている。
 さらに、微量C分析もこれまでより微小な領域に対するニーズが高まってきている。浸炭試料の線分析のような広域の分析であるならば、先の手順で作製することによりコンタミネーションの影響は十分抑えることが可能である。しかし、1μm以下の領域のCのマッピングの場合、照射電流密度が高くなるためEPMAの真空環境下では完全にコンタミネーションの影響をなくすことはできない。このような分析領域での微量C分析のためのコンタミネーション対策もまた重要である。
 以上の点より、求められるコンタミネーション対策のポイントは以下2点である。

1.誰でも実施可能。ノウハウによらない。
2.従来の手法よりより高い空間分解能にも耐えうる。

 これらの点を踏まえ、現在、JXA-8230/8530Fシリーズで採用しているコンタミネーション対策を紹介する。

液体窒素トラップ

 液体窒素トラップは、試料と対物レンズの間に液体窒素で冷却したフィンを設置することでコンタミネーション成分をトラップする機構である。Fig.6の液体窒素トラップの一回の液体窒素の供給での使用可能時間は10時間以上であり、長時間の面分析にも対応可能な仕様になっている。Fig.7は、液体窒素トラップ使用時と未使用時にステンレス鋼のCのマップを示しており、CのX線強度が質量濃度で0.1%の違いを生じている。
 液体窒素トラップは、鉄鋼中の微量C分析やコンタミの影響を受けやすい高倍率の分析で用いられている。

液体窒素トラップ(LNT)
【Fig.6 液体窒素トラップ(LNT)】

 
ステンレス鋼分析におけるLNTの有無
【Fig.7 ステンレス鋼分析におけるLNTの有無
ステンレス中のCのマッピング結果。マトリクス中のCの分析結果にLNTの有無で0.1%の質量濃度差が生じている。】

エバクトロン

 EPMAの場合、エバクトロンは、Fig.8のように試料交換室に取り付けられ、分析前に試料と試料ホルダーを酸素プラズマで洗浄することで付着しているハイドロカーボンを減少させることを目的としている。
 Fig.9は、エバクトロンのクリーニング効果を確かめるため、長年使用した試料ホルダーを用いてコンタミの成長量をクリーニング前とエバクトロンによるクリーニング後で比較したものである。横軸は電子線の照射時間、縦軸は加速電圧10kVでCのX線強度を測定しKレシオに換算した値である。エバクトロンによるクリーニングによりホルダーや試料に付着したハイドロカーボンが減少し、コンタミネーションの成長速度が数分の一となった。
 エバクトロンによるクリーニングは、ユーザーによる試料洗浄の技量の差を低減する効果がある。また、クリーニングは試料交換室で行われるため洗浄後の試料の取り扱い方の影響などを受けにくい手法と言える。

エバクトロン
【Fig.8 エバクトロン】
プラズマクリーニングの効果
【Fig.9 プラズマクリーニングの効果
長期使用し汚れた試料ホルダーにてエバクトロン使用と未使用でコンタミの成長を比較したところ数倍の差が生じた。】

アルゴンイオン銃

 機械研磨を用いた場合、試料表面に最終研磨粒子の二分の一から三分の一程度の深さのキズや研磨ひずみが入る。これらのキズやひずみ中に含まれるC成分は、エバクトロン等を用いても取り除くことが困難である。EPMA用イオン銃(Fig.10)は、Fig.11に示すように試料交換室にて試料表面の研磨ひずみの厚さ相当分をイオンにより削ることで試料そのものから発生するコンタミネーションを低減する。このような効果をもつEPMA用イオン銃は、研磨による技量差を低減する役割を担っている。

EPMA用イオン銃
【Fig.10 EPMA用イオン銃】
 
イオン銃の効果


【Fig.11 イオン銃の効果
バネ材中のCの線分析結果。イオン銃を使用した分析結果は、通常の線分析結果より0.2%ほど質量濃度が低い結果となり、機械研磨時のコンタミネーションの影響を低減した効果と考えられる。】

まとめ

 EPMAが広く用いられる分野を6つに分類し、EPMAの応用事例やオプション機能について解説した。EPMAの応用分野の裾野が広いことからここで述べた以外にもさまざまな応用例があり、技術や分析手法の進歩に伴い新たな分析技術が開発されている。今回は、新しい分析手法のうち。凹凸試料分析を可能にするマルチハイトマップ法、微量分析を高速化する多結晶加算プログラム、コンタミネーション対策であるエバクトロンとアルゴンイオン銃について紹介を行った。これらの新機能を活用することで高い元素分析能力をもつEPMAをさらに活用することが可能となる。

参考文献

  1. 第69回日本顕微鏡学会学術講演会 予稿集 藤田慎也、神山亮太、本田繁、森憲久

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