• 概要

MSTips No.234 日本電子株式会社 MS事業ユニット

はじめに

GC-MS のソフトイオン化法としては化学イオン化(CI)法が広く知られているが、CI法を有効に使うには、適切な反応ガスを選択しなければならず、また反応ガスの種類によっては付加イオンが生成し得られるマススペクトルの解釈が複雑になるなど、いくつか乗り越えなければならない障壁がある。これに対して電解イオン化(FI)法や光イオン化(PI)法では、イオン化に際するパラメータが単純な上に得られるマススペクトルもシンプルであることが知られている。弊社では既に、GC-QMS 用、及び GC-TOFMS 用オプションイオン源として光イオン化イオン源を販売している。今回は、包括的2次元ガスクロマトグラフ(GCxGC)法と、GC-TOFMS システムのPIイオン化法を組み合わせた測定例を紹介する。
GC-TOFMSに PI イオン源を搭載したシステムの特徴は以下の通りである。なお、GCxGC法は、直列に接続した分離モードの異なる2種類のキャピラリカラムと、1段目のカラムと2段目カラムの間に設置されたクライオトラップシステム(モジュレータ)により構成されており、一度の測定で2種類の分離モードでの分離分析を行うことが可能となり、複雑な混合系の測定対象サンプルをより詳細にクロマト分離することができる。

  • 重水素ランプを使用。放射波長115 - 400 nm (10.8 eV@115 nm)
  • 試薬ガスを使用しないため、CIより簡便
  • EI/PI共用イオン源として使用可能
  • GC測定専用 (GCxGC測定可能)
  • 精密質量測定可能

原油に含まれるバイオマーカーの分析は、原油起源となっている有機物の分析や、原油の変質状況の分析など、数多くの石油化学アプリケーションで用いられている。本 MSTips では GCxGC-PI-TOFMS システムを用いた測定例として原油留分中の成分分析について報告する。

測定方法

測定条件を Table 1 に示す。テストサンプルは原油留分A及びBの2種を用いた。測定にはEI/PI共用イオン源を使用した。

   

Table 1 Measurement condition

Instrument AccuTOF™ GCv 4G
ZX2 thermal modulator (ZOEX社製)

1st column

BPX5, 30m x 0.25mm, 0.25μm

2nd column

BPX50, 3m x 0.1mm, 0.1μm

Modulator period

6 sec

Inlet pressure

350 kPa (Out flow: 1.75mL/min)

Inlet mode

Cool on column, Oven track mode 1μL inj.

Oven temparature

50°C(2min) -> 10°C/min -> 250°C

Ion source

EI/PI combination ion source

Ionization mode

PI+: D2 lamp: 115-400nm

m/z range

m/z 35-700

Spectrum recording speed

25 spectra/sec

結果

Fig.1に原油留分AのGCxGC/PI TICクロマトグラムを示す。GCxGCの高分離能により、n-AlkanesやCycloalkanesから分離してSteranes、Triterpenesといったバイオマーカーを検出することができた。 Triterpenesは極性が高く、C33H58成分は2次元目カラムの保持時間(クロマトグラム縦軸)0秒で溶出を開始している。これはGCxGC測定におけるラップラウンド現象と呼ばれ、極性が高く2次元目カラムでの溶出に時間がかかる成分が、1回のモジュレータピリオド間隔(今回は6秒)内にMSに到達できない場合に起こる現象である。
MSTips No.230では幾つかの化合物のPIマススペクトルを紹介しているが、 Steranes、Triterpenesといったバイオマーカー成分においては、PI法で容易に分子イオンを得ることができる。そのため、分子イオンの精密質量に応じた抽出イオンカレント(EIC)クロマトグラムを作成することで、バイオマーカーの各成分を確認することができる。Fig.2上段にはC19H34, C27H48, C30H52のEICクロマトグラムを、下段にはCnH2n-4, CnH2n-6, CnH2n-8における各成分の合算EICクロマトグラムを示す。2次元TICクロマトグラムにおいても各バイオマーカーの確認は可能だったが、2次元EICクロマトグラムではさらに容易に目的成分のみを確認できた。
Fig.3に原油留分BのGCxGC/PI TICクロマトグラムを示す。GCxGC測定を行うことで、n-AlkanesやCycloalkanesから分離してAdamantanes、Iceanes、Diamantanesを検出することができた。Fig.4上段にはC10H16, C12H18, C14H20のEICクロマトグラムを、下段にはCnH2n-4, CnH2n-6, CnH2n-8における各成分の合算EICクロマトグラムを示す。AdamantanesとIceanesは類似した構造を有しており、2次元目カラムでの分離挙動に大きな差はなかった。そのため、幾つかの成分は共溶出しており、2次元TICクロマトグラム上で各成分を確認することは困難であった。このような場合においても、各分子イオンの精密質量に応じたEICクロマトグラムを作成することで、目的成分を確認することが可能であった。

まとめ

本MSTipsではGCxGC/PI測定例として、原油留分中のバイオマーカー分析について報告した。PI法はソフトなイオン化法であり、炭化水素化合物の分子イオンを容易に検出することができる。そのためPI法は石油試料中のバイオマーカーの分子イオン確認に適した手法であると言える。GCxGC法による高分離能と、ソフトイオン化法PIによる分子イオン検出を組み合わせることで、目的成分をより簡単に確認することができる。

GCxGC/PI TIC chromatogram of a Crude oil A
Fig.1 GCxGC/PI TIC chromatogram of a Crude oil A
GCxGC/PI EIC chromatograms of a Crude oil A
Fig.2 GCxGC/PI EIC chromatograms of a Crude oil A
GCxGC/PI TIC chromatogram of a Crude oil B
Fig.3 GCxGC/PI TIC chromatogram of a Crude oil B
GCxGC/PI EIC chromatograms of a Crude oil B
Fig.4 GCxGC/PI EIC chromatograms of a Crude oil B

謝辞

本MSTips作成にあたり、試料を提供していただいたLiège大学 Dr. Jean-François Focant教授に感謝致します。

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