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TG-MSによる酸化防止剤の熱分解挙動の検討 ーTG-TOFMSシステムによる精密質量解析例のご紹介ー [GC-TOFMS Application]

MSTips No.250

はじめに

熱重量分析(Thermogravimetry: TG)は、試料加熱における重量変化を測定し試料の熱物性を得ることができる手法である。TGと質量分析計(MS)を接続することで、重量変化時に発生する有機物の定性分析を行うことが可能になる。TG-MSとしては小型汎用機である四重極型質量分析計(QMS)が用いられることが多いが、QMSは質量分解能が低く、精密質量測定による観測イオンの組成演算は行えない。
今回、高分解能で精密質量解析が可能な飛行時間型質量分析計(TOFMS)を用い、TG-TOFMSによる酸化防止剤の熱分解挙動について検討した。

測定条件

今回使用したTG-TOFMS概観写真をFig.1に示す。
TGはNETZSCH社製 熱重量/示差熱同時分析装置STA2500Regulusを用い、TOFMSは日本電子製 飛行時間型質量分析計JMS-T200GCを用いた。今回の測定条件をTable1に示した。なお、GCオーブンは恒温槽として用い、その温度は350°C固定とした。

TG TOFMS system

Fig.1 TG-TOFMS system

Table1 Measurement condition
[ TG-TOFMS condition ]

System JMS-T200GC (JEOL), STA2500Regulus(NETZSCH)
Furnace temp. 50°C→10°C/min→ 650°C
Transfer line temp. 400°C
Atmosphere gas flow He, 100mL/min (open-split system)
Ionization mode EI+: 70eV, 300μA
PI+: D2 lamp: 115 - 400 nm (10.8eV@115nm)
m/z range m/z 35-1,200

結果

市販の酸化防止剤のTG-EI-TOFMS測定結果をFig.2に示す。Fig.2上段に示すTICでは経過時間38分付近を頂点とするブロードなピークが観測された。TG温度としては350~450℃程度になり、この温度域において今回測定した酸化防止剤の熱分解が起こることが分かった。
次に熱分解によって生じる化合物の定性分析を試みた。Fig.2下段にEIマススペクトルを示す。クロマトグラム分離のないTG-MSデータでは複数成分が同時にイオン化されており、且つ EI法はハードなイオン化法ゆえに分子イオンとフラグメントイオンが多数観測されてしまうため、このままでは熱分解生成物の解析は困難であった。そこで今回はフラグメントイオンがEI法に比べて少なく、分子イオンが観測されやすいソフトイオン化法PIを用いて、酸化防止剤の熱分解生成物の解析を試みた。TG-PI-TOFMS測定結果をFig.3に示す。
PIマススペクトルはEIマススペクトルに比べてフラグメントイオンが少ないシンプルなマススペクトルであった。PIマススペクトル中で高強度で観測された3つのイオン(Fgi.3中の★印)の精密質量解析結果をTable2に示す。 PIで観測されたm/z 166、222、278は精密質量解析の結果から、それら成分の組成はC、H、Oから成り、不飽和数5の化合物であることが推定された。以上の結果から、これらは酸化防止剤の主構造の一部分が外れて低分子化した構造を有していると推測された。予想される構造式をFig.4に示す。
酸化防止剤のTG/DTA曲線と、PIマススペクトルで観測されたm/z 166、222、278のEICクロマトグラムをFig.5に示す。 m/z 166は420.6°C、m/z 222は399.7°C、m/z 278は382.1°Cでピークトップが観測されていた。質量の大きい成分は低温で、小さい成分は高温で検出されていることが分かった。

TG EI TOFMS data:TIC chromatogram and EI mass spectrum

Fig.2 TG-EI-TOFMS data:
TIC chromatogram and EI mass spectrum

TG PI TOFMS data:TIC chromatogram and PI mass spectrum

Fig.3 TG-PI-TOFMS data:
TIC chromatogram and PI mass spectrum

Table2 PI Accurate mass analysis result

Mass Formula Calculated Mass Mass Difference [mDa] DBE
166.0625 C9 H10 O3 166.0625 0.1 5
222.1250 C13 H18 O3 222.1251 -0.1 5
278.1875 C17 H26 O3 278.1877 -0.1 5
Suggested structure formula for m/z 166, 222 and 278.

Fig.4 Suggested structure formula for m/z 166, 222 and 278.

TG/DTA curves and EIC chromatograms for three ions in PI mass spectrum

Fig.5 TG/DTA curves and EIC chromatograms for three ions in PI mass spectrum (Fig.3,★)

まとめ

クロマトグラム分離がないTG-MSにおいては、TOFMSの特徴であるソフトイオン化法と精密質量解析を組み合わせることで、同時に観測される複数成分の定性分析を行える。合成高分子の母材や添加剤などの詳細な熱分析・解析を行う上で、TG-TOFMSは強力な分析ツールになると考えられる。

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