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PIイオン源を用いた熱分解 GC/MS法による発泡スチロールの分析 [GC-QMS Application]

MSTips No.257

はじめに

電子イオン化法(EI:Electron Ionization)は、GC-MSで最も広く使用されているイオン化法である。EI法は有機化合物のイオン化エネルギーよりも過剰なエネルギーを与えるハードなイオン化法であるため、多くのフラグメントイオンが観測される。観測される各イオンの相対強度の再現性は高く、データベースに収録されたEIマススペクトルとパターン比較することで容易に定性分析することが可能である。
それに対し、光イオン化法(PI: Photo Ionization)は、8~10eV程度の光エネルギーを試料分子に与えてイオン化する方法である。一般的な有機化合物のイオン化エネルギーが8~11eVであることから、PI法はイオン化の際に発生する余剰エネルギーが低く、フラグメントイオンの生成が抑えられ、分子イオンが検出されやすい点が特徴である。
両イオン化法のデータから相補的な情報が得られるため、従来のEI法のデータベース検索のみを用いた場合よりも定性分析の確度を向上することができる。
今回は、材料化学分野の研究開発や品質評価での使用を想定して、モデルとして発泡スチロールと発泡スチロールにUV照射したものを試料とした。 これらの試料について、PIイオン源を用いた熱分解(Py:Pyrolysis)/GC/MS法にて定性分析を行ったので報告する。

測定条件

UV照射後の試料は、東芝社製O3殺菌用UVランプ(波長:253.7nm, 紫外線出力:1.6W)を用いて、発泡スチロールと光源の距離を約10cmとして10日間照射した。照射後、変色した発泡スチロールの表面部分を削り取り、UV照射後の試料とした。

  • 試料量:
    • UV照射前:0.31mg (EI), 0.35mg (PI)
    • UV照射後:0.32mg (EI), 0.36mg (PI)

熱分解/GC/MS条件をTable 1に示す。

Table 1 Measurement conditions

Pyrolysis temp. 500°C
GC Column ZB-1 (Phenomenex),
30m x 0.25mm, 0.25μm
Oven temp. 50°C(1min) → 10°C/min → 340°C(10min)
Inlet mode Split 20:1
Mass Spectrometer JMS-Q1050GC
Ionization mode EI+: 70eV, 50μA
PI+: 10.8eV

PIイオン源

PIイオン源は、大気開放及び部品交換を一切せずに、EIフィラメントのON/OFF、PI光源のON/OFFを行うだけでEIとPIの切り替えが可能である。
極めて簡便にGC/EIとGC/PIを切り替えて測定できる。
Fig.1にPIイオン源の模式図を示す。イオン化室にはEI用フィラメントと、PI用の重水素ランプが取り付けられており、これらのON/OFFにより容易にEIとPIを切り替えられる。
EIもしくはPIにて生成されたイオンは、ただちに質量分析部へ送られ、順次質量分離され検出される。
同じソフトなイオン化法である化学イオン化法(CI:Chemical Ionization)と違い、可燃性もしくは劇物の試薬ガスが不要で、取り扱いがシンプルで容易な点も特徴の一つである。

Schematic of the PI ion chamber

Fig.1 Schematic of the PI ion chamber

結果

EGA法によるガス分析を実施すると、UV照射前と比較してUV照射後は低温度発生成分の割合が増加したことから低分子量化が示唆された。
そこで、サンプリング温度を詳細に決めることができ、クロマト分離分析も可能なシングルショット法によるPy/GC/EI-MS分析を行った。
その結果、UV照射後の試料において増加・減少した成分ピークや照射後にのみ特異的に検出された成分ピークが観測された。
芳香族化合物のようなイオン化エネルギーが低い化合物は、比較的、PI法での検出感度が高い傾向がある。ポリスチレンの熱分解生成物には、芳香族化合物が多く含まれるため、本試料はPI法に適している。 Py/GC/PIMS分析の結果、UV照射前、及び照射後の試料のTICC上に置いて、(リテンションタイムが最も早いピークを除く)EIデータとほぼ同じ成分ピークが検出された(Fig.2)。EIおよびPIにて検出された成分ピークのEIマススペクトルのベースピークとNISTライブラリ検索結果とその候補の分子量、そして、PIマススペクトルのベースピークの一覧をTable 2に示す。
EIマススペクトルのNISTライブラリ検索候補の分子量を示す分子イオンが、PIマススペクトルではベースピークとして観測された。このように、NISTライブラリ検索結果を補強したり、候補の絞り込みにPIマススペクトルは有効である。例として、UV照射後の試料の特異的なピーク(TICC上の★印)に注目してみると、EIのライブラリ検索とPIの分子イオンピークの情報により、それぞれ1-PropenylbenzeneとAcetophenoneと推定することができた(Fig.3)。
また、NISTライブラリ検索では一致度が低く推定できなかった3成分 (RT 21:35、25:10、25:29の各成分)のPIマススペクトルでは、RT21:35ではm/z 286、 RT 25:10と25:29ではm/z 312のイオンがベースピークとして観測された。このことからこれら3成分は分子量286, 312の化合物だと推測される。サンプルが発泡スチロールということと、EIマススペクトルのベースピークがm/z 91であったこと、そして他の検出成分が芳香族化合物であることから、これら3成分も芳香族化合物だと考えられる。

Py/GC/EI and Py/GC/PI TIC chromatograms
Py/GC/EI and Py/GC/PI TIC chromatograms

Fig.2 Py/GC/EI and Py/GC/PI TIC chromatograms

Table 2 NIST Library search results and PI base peaks

記号 R.T.(PI) EIベースピーク(m/z) NISTライブラリ検索結果 分子量 PIベースピーク(m/z)
00:47 44 Carbon dioxide 44 -
02:22 91 Toluene 92 92
03:27 91 Ethylbenzene 106 106
04:14 104 Styrene 104 104
04:52 117 Benzene, 2-propenyl- 118 118
05:24 118 BENZENE, (1-METHYLETHENYL)- 118 118
06:12 117 1-Propenylbenzene 118 118
07:12 105 Acetophenone 120 120
12:12 167 Diphenylmethane 168 168
15:00 92 Benzene, 1,1'-(1,3-propanediyl)bis- 196 196
15:52 91 BENZENE, ETHENYL-, DIMER 208 208
16:03 194 1,2-Diphenylcyclopropane 194 194
17:00 117 Benzen, 1,1'-(1-butene-1,4-diyl)bis-,(Z)- 208 208
18:47 220 1,3-PENTADIENE, 1,5-DIPHENYL-,(E,E)- 220 220
21:35 91 ? - 286
23:05 91 BENZENE, ETHENYL-, TRIMER 312 312
25:10 91 ? - 312
25:15 91 Benzene, [3-(diphenylmethylene)cyclopentyl]- 310 310
25:29 91 ? - 312
25:38 91 Benzene, [3-(diphenylmethylene)cyclopentyl]- 310 310
26:53 306 1,1':3',1''-Terphenyl, 5'-phenyl- 306 306
Mass spectra for 1-Propenylbenzene and Acetophenone

Fig.3 Mass spectra for 1-Propenylbenzene and Acetophenone

まとめ

  • PIイオン源はEI法、PI法をシームレスに測定可能で、両イオン化法のデータから相補的情報が得られることから、確度の高い定性分析が可能。
  • UV照射前後の発泡スチロール試料をPIイオン源を用いてPY/GC/MS測定したところ、EIのNISTライブラリ検索結果の推定化合物候補の分子量とPIのベースピークが一致しており、EIの推定結果を補強する結果が得られた。
  • NISTライブラリ検索では一致度が低く推定できなかった化合物においても、PIマススペクトルから分子量情報を得ることができた。
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