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高分子材料の解析におけるESRの活用

日本電子news Vol.50 No.4 仲山 和海
一般財団法人化学物質評価研究機構 東京事業所 高分子技術部

高分子材料を構成するポリマーには重合反応、架橋反応、劣化反応などラジカルが関与する反応が存在し、電子スピン共鳴(ESR)はラジカルを唯一直接観測できる手段である。故にESRを用いてポリマーのラジカル反応を解析する研究は数多く行われているが、種々の添加剤が添加されて最終製品になった高分子材料についてESRを用いて解析された報告は少ない。本稿ではまず、高分子材料をESRで解析する際の注意点を述べる。また、市場で使用され回収されたプラスチックの劣化評価を想定し、促進劣化試験を行った各種プラスチックの光劣化をESRで解析し、ポリマー種によって観測されるラジカル強度に差異があることを紹介する。さらには、加硫ゴムの老化防止剤の効果を解析する目的でESRを応用した内容を紹介する。

はじめに

高分子材料は、自動車、住環境、交通、電力、ガス、通信ネットワークなどの現在の利便性の高い生活には欠かすことができない材料で、ますますその役割は大きくなっていくと考えられる。ポリマーには重合、劣化、劣化防止、架橋、分解などのラジカルが関与する反応が数多く存在し、高分子材料においてラジカルの挙動は極めて重要である。電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance; ESR)は唯一ラジカルを直接検出できる手法であることから、ESRを用いた基礎研究が高分子材料の更なる展開に欠かすことができないと考えられる。これまでもESRはポリマーの重合や劣化などのメカニズムの研究に古くから活用され、高分子科学の発展に寄与したことは、枚挙にいとまがない。例えば、劣化に関してはポリエチレンに放射線を照射してアルキル型ラジカル−CH2−CH−CH2−、アリル型ラジカル−CH=CH−CH−CH2−が観測されている[1-4]。一方、機械的作用によって生成するポリエチレンのラジカルは切断型ラジカル−CH2−C・H2と切断型ラジカルから生成する二次的ラジカル−CH2−CH−CH2−がある[5,6]。ポリプロピレンに機械的作用によって生じるラジカルは真空中ではメチンラジカル−CH2−C(CH3)H−、酸素雰囲気下では過酸化ラジカル−CH2−C(CH3)H−OOが観測されている[7, 8]。これらの研究はポリマーの劣化メカニズムを考える上で大変有意義で興味深く、もちろんESRによって解析されている。日本電子、JEOL RESONANCEでは2017年にESR開発60周年を迎え、新たに高温でポリマーの劣化反応を生じさせ、その際に発生するラジカルを直ちに観測するための加熱ユニットを開発し、ポリマーの劣化の研究は更に進むものと期待される。一方、ポリマーを主成分とし種々の添加剤を加えて実用的製品とした 「高分子材料」 に関しては、ESRを用いて解析した報告は少ない。ポリマー単独の場合と異なり、高分子材料にESRを用いる場合、添加剤の影響やラジカルの寿命や多種のラジカルが含まれていることなど、考慮すべき要素が増える。本講では高分子材料のESRによる解析における注意点を述べ、ESRの活用例を紹介する。

1.ESRの基本

1.1 ESRの原理

ESRは常磁性物質の不対電子による吸収スペクトル法である。したがって、ラジカルや遷移金属が測定対象になり、不対電子を持たない反磁性物質についてはESR信号は観測されないため、測定対象にならない。Fig. 1に不対電子の磁場によるゼーマン分裂と共鳴吸収を示す。不対電子が磁場中に置かれると、スピンエネルギーの分裂(ゼーマン分裂)が生じ、電子は二つのエネルギー状態を持つようになる。このエネルギー差に相当する電磁波を照射すると、電子はエネルギーを吸収し遷移する。この現象を共鳴吸収と呼び、ESRの基本原理である。
ESRの波形は通常微分型で得られ、一般の分光分析などをはじめとして機器分析法で得られる吸収型のような対称なピーク形状と異なる。これは検出感度を上げるために磁場変調を加えて測定、信号検出を行うためである。
ESRスペクトルから得られる情報に超微細結合定数(Hyperfine Coupling Constant; hfcc)とg値がある。超微細結合定数は電子スピンと周囲の核スピンの相互作用によって決まり、シグナルの分裂から求められる。分裂の状況から不対電子の周辺の構造、例えば、1級炭素、2級炭素、3級炭素などがわかる。g値は不対電子の状態によって決定されるパラメーターで、ラジカル固有の値をとることから、ラジカル種がわかる。詳細なESRの原理は専門書を参照されたい[9, 10]。

Fig.1 不対電子の磁場によるゼーマン分裂と共鳴吸収

不対電子の磁場によるゼーマン分裂と共鳴吸収

1.2 高分子材料のESR

ESRスペクトルはラジカルの種類によって波形が変化するが多くの高分子材料の場合、特に製品のESRスペクトルにおいてはラジカルの同定は簡単ではなく明確に同定できないケースも少なくない。同定できるケースとしては、極低温下でラジカルの安定性を高めて、放射線や紫外線照射しながら測定した場合や、スピントラップ法で生成した特定のラジカルを長寿命化し測定した場合などが挙げられる。ESRは先に述べたように唯一ラジカルを検出できる手法であることから、高分子材料の解析においても極めて重要であるがその難しさも理解したうえでデータを解釈しないと誤りを招く。以下に著者が考える高分子材料を用いた製品のESR測定において、解析が難しくなる要素を挙げる。

  • ポリマーのESRスペクトルは緩和時間などの問題により一般に線幅が広いことが多く、超微細構造が観測されない。
  • ラジカルは1種ではなく複数存在し、重なったピークになる。
  • ラジカルは一般に不安定であり寿命が短く観測できない。観測できるのは比較的安定なラジカルである。
  • 無機充塡剤やカーボンブラックが配合されている製品が多く、それら由来のピークが有機ラジカルのピークと重なる。

Fig. 2の上段にはポリ塩化ビニル(PVC)製成形品のESRスペクトルを示す。PVC製成形品は無機充塡剤として炭酸カルシウムが配合されている。通常有機ラジカルはこの波形の中央付近の数mTの範囲で観測されるが、その領域を超える広範囲でMn2+由来と考えられるピークが強く観測されており、有機ラジカルピークはほぼ観測されていない。天然鉱物のESRスペクトルには必ずといってよいほど、Fe3+、Mn2+などの不純物に由来するピークが観測される。このように測定対象の含有成分まで把握しておくと、ESRスペクトルを正しく解釈することができ、また、有機ラジカルを観測するために、添加剤を除く前処理を検討する必要性に気づくことができる。また、参考のためにプラスチック充塡剤用に用いられる合成炭酸カルシウムのESRスペクトルをFig. 2の下段に示す。この際の測定試料量はPVC成形品に含まれる炭酸カルシウム量に合わせており、縦軸のスケールも同一である。合成炭酸カルシウムでは炭酸カルシウム充塡剤由来のMn2+によるピーク強度がかなり弱いことが確認され、用いられている炭酸カルシウム充塡剤の素性によって不純物由来のピーク強度も異なる点にも注意が必要である。また、炭酸カルシム充塡剤の異同に関する情報が得られることもESRの特長である。

Fig.2 炭酸カルシウム含有PVC成形品と合成炭酸カルシウムのESRスペクトル

炭酸カルシウム含有PVC成形品と合成炭酸カルシウムのESRスペクトル

2.ポリマーの劣化とESR

高分子材料に劣化が生じると、外観変化(変色、変形、ひび割れ、表面荒れなど)、機械的強度の低下、機能性の低下などの様々な不具合が生じる。通常高分子材料には劣化を防止するために、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などが添加されており、使用初期にはこれら添加剤の作用によって、機能が損なわれるほどの劣化は生じない。一定期間使用し酸化防止剤などの添加剤が減少してくると、ポリマーに生じる劣化反応も著しくなり、徐々に性能低下が認められ次第にトラブル発生領域に達し、その後使用不能域に達する。ポリマーの劣化メカニズムはポリマー種や劣化因子の違いに応じて変わるが、ラジカル反応で劣化が進行する場合が多い。ここではESRによる劣化解析の対象となる劣化因子について簡単に述べる。

2.1 自動酸化反応

高分子材料は種々の環境下に曝される間に、光、熱、放射線、電気的作用、機械的作用、微生物、薬品、大気汚染物質、水分、金属、塩素、酸素などが劣化因子となり、劣化を受ける。中でも酸素はこれらのほとんどの劣化因子に関与しており、その役割は大きい。Fig. 3に示す自動酸化反応により、ポリマーラジカルが発生しながら連鎖的にポリマーの劣化が進行する。

Fig.3 ポリマーの自動酸化反応

ポリマーの自動酸化反応

2.2 ポリマーの劣化因子

前述のとおり高分子材料の使用環境には劣化因子が多数存在し、複合的に作用するためポリマーの劣化メカニズムは極めて複雑で、予期しがたいトラブルも生じてくる。Table 1に各種劣化因子と劣化によって生じる現象の例を示す。

Table 1 使用環境における劣化因子

現象 原因・要因
熱劣化 高温、酸素
光劣化 太陽光、人工光、酸素
放射線劣化 電子線、X線、γ線、β線、中性子線
微生物劣化 微生物、添加剤(栄養源)、水分、親水性官能基
機械的劣化 外部応力、繰返し応力
電気的劣化 アーク・コロナ放電、過電圧、過電流、電界
薬品による劣化 漂白剤、溶剤、酸、塩基
大気汚染物質による劣化 SOx、NOx(自動酸化反応の促進)
オゾン劣化 オゾン、NOx(光化学反応)
主鎖に二重結合を有するゴム
水分による劣化 雨、雪、湿気
金属害 特に銅製品、真鍮製品
塩素による劣化 水道水中の残留塩素
酸化劣化 酸素
=ほとんど全ての劣化に関与
複合的劣化 複数の原因が関与して、複雑なメカニズムで劣化

2.3 各種プラスチックの光劣化に伴うラジカルのESRによる観測

光劣化はポリマーにラジカルを発生させ自動酸化反応で劣化反応が進行する劣化現象である。ESRを用いて光劣化の解析を行うことは劣化メカニズムの研究において興味深い。光劣化時に発生するラジカルをESRで測定可能にする紫外線照射装置が市販されており、また、ラジカルの寿命を長期化できる低温測定ユニットも市販されている。これらのESRと関連装置によってポリマーの劣化の研究が展開され、各種ポリマーの劣化反応の解析ができるのはESRの特長である。
ここではプラスチック製品の回収品についてESR測定を行って得られる結果の一例を紹介する。劣化因子、ポリマー種、酸化防止剤などの添加剤によってラジカルの構造や挙動が変わるため、測定試料によって得られる傾向が変わることもあることは注意されたい。

2.3.1 プラスチック試料の光劣化処理とESR測定

低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)について、酸化防止剤をメタノールでソックスレー抽出後にキセノンウェザーメーターで促進劣化処理を行った。促進劣化処理条件はTable 2のとおりである。処理時間は1日、3日、7日とし、ESR測定を日本電子製 JES-FA200により室温下で行った。また、併せてゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)で分子量及び分子量分布を測定し、劣化によるラジカル発生量と分子量変化を比較した。

Table 2 各種プラスチック試料の光劣化処理条件

項目 条件
試験規格 JIS B 7754:1991「キセノンアークランプ式耐光性及び耐候性試験機」
処理装置 スガ試験機製
キセノンウェザーメーター NX75
ブラックパネル温度 63°C
相対湿度 50±5%RH
水噴霧条件 なし
照射照度 120±10W/m2(300~400nm)
インナーフィルタ 石英
アウターフィルタ #275

2.3.2 光劣化後プラスチック試料のESRによる劣化評価

Fig. 4にポリカーボネートの光劣化処理前後のESRスペクトルを示す。図中の両側に観測されているピークがマンガンマーカーによるものでg値の計算に用いられる。中心付近に観測されているピークが有機ラジカルによるピークで、一般にg値が2.003で炭素ラジカル(C)、2.004でアルコキシラジカル・フェノキシラジカル(CO)、 2.005でペルオキシラジカル(COO)やニトロキシラジカル(NO)である。Fig. 4で観測された信号(g=2.004)は、フェノキシラジカルに由来する。処理日数が0、1、3、7日と経過するとg=2.004付近のピークが増大し、劣化の進行過程でラジカルが発生、蓄積されていることがわかる。試料の誘電損が大きくなるとピーク強度は低下するため、標準試料のMnマーカーの強度を基準として定量的扱いを行うのが望ましい。ラジカル量を次式により相対ラジカル量として計算し、各種プラスチック試料の光劣化処理によるラジカル量の変化を比較した。結果をFig. 5に示す。

相対ラジカル

Fig.4 ポリカーボネートの光劣化処理前後のESRスペクトル

ポリカーボネートの光劣化処理前後のESRスペクトル

Fig.5 各種プラスチック試料の光劣化処理によるラジカル量の変化

各種プラスチック試料の光劣化処理によるラジカル量の変化

光劣化処理日数の経過とともにラジカル量が顕著に増加したのはPCとPSで、LDPE、PPではほとんど増加は認められなかった。 PCとPSではラジカルを生じやすく、その他はラジカルが生じにくいということではなく、測定試料中に存在するラジカル量の差異があらわれている。すなわち、PCやPSでは生成したラジカルが比較的安定な構造であることを示している。
Fig. 6に各種プラスチック試料の光劣化処理による数平均分子量の変化を示す。ラジカル発生量の増加が顕著であったPC、PSの低分子量化は確認できるが、その他のプラスチック試料でも低分子量化は進行しており、また、PCとPSの低分子量化が特別に著しい状況でもない。このように必ずしも複数の劣化分析法が同傾向を示すものではない。これはそれぞれの劣化分析法で観測する劣化現象が異なるためである。この測定例について詳しく述べると、GPCはラジカルが発生した後に生じる分子量の変化を観測しているが、ESRでは発生したラジカルの蓄積状況を観測しており、分子量の変化とラジカルの蓄積が1対1で生じるものではない。劣化時に生じている現象を正しく理解するためにはひとつの測定や解析では不十分で、正しい理解のためにはESR測定による解析を併用することが重要で欠かせない。

Fig.6 各種プラスチック試料の光劣化処理による数平均分子量の変化

各種プラスチック試料の光劣化処理による数平均分子量の変化

2.4 加硫ゴムの熱劣化とESR

ゴム製品はゴム分子鎖同士が硫黄や有機過酸化物などの架橋剤によって架橋し、三次元網目構造を形成することで、弾性体としての性質を発現している。しかし、原料ゴムと架橋剤だけでは実用に耐えるゴム製品の加工性能、製品性能、耐久性は得られず、多種の化学薬品(配合剤と呼ぶ)が配合されている。3 ~ 5種の配合剤で最低限の物性を有するゴムは得られるが、実用的なゴム配合では10種類以上、場合によっては20種類もの配合剤が用いられている。ゴム製品のESR測定においてはポリマー以外の配合剤中の不対電子も測定対象になり、特にカーボンブラックと無機充塡剤の影響は無視できないことも多いため、プラスチック製品以上に配合物の把握が重要である。

2.4.1 老化防止剤配合加硫ゴムのESRによる解析例

一次老化防止剤は劣化過程でラジカルを捕捉し、構造が変化していく。老化防止剤が構造変化を起こす前はもちろん劣化を防ぐ機能を有しているが、ポリマーラジカルを捕捉し自身がラジカルになり、さらにその後の変化が生じた後も劣化を防ぐ機能を有している可能性も考えられる。そこで、構造変化が生じた老化防止剤を含むゴムを調製して、劣化防止効果が発現するかを検討した。その詳細は割愛するが、構造変化した老化防止剤を含むゴムの硬化劣化速度は、対照試料と比較して有意差が認められず、構造変化した老化防止剤からは実質的な劣化防止効果は確認されなかった[11]。その過程でESR測定を行い、劣化に伴うゴム中のラジカルの発生挙動の推移を測定した結果を紹介する。
二種類の一次老化防止剤N -(1, 3-ジメチルブチル)-Nʼ-フェニル -p -フェニレンジアミン(6PPD)または2, 2’-メチレンビス(4-エチル-6-t -ブチルフェノール)(MBETB)を配合したエチレンプロピレンゴム(EPDM)を未加硫のまま120℃で熱劣化処理を行い、老化防止剤の変化物を含んだEPDMを作製した。これらに新しいEPDMと加硫剤類を混練し加硫EPDMを得た。それぞれの名称を6PPD-EPDM-B、MBETB-EPDM-Bとする。比較のために、これらのEPDM中に少量残留する未劣化の老化防止剤を定量分析後、同量の未劣化老化防止剤を含む加硫EPDMを作製した。それぞれの名称を6PPD-EPDM-C、MBETB-EPDM-Cとする。さらに、老化防止剤を添加しないEPDMも作製した(AO-free-EPDM)。なお、 6PPD-EPDM-C、MBETB-EPDM-Cに添加された老化防止剤はそれぞれ0.05 wt%、0.08 wt%で、硬度劣化を軽減できるほどの添加量ではない。
これらの老化防止剤配合EPDMを120℃で熱劣化処理を行いESRスペクトルの変化を測定した結果をFig. 7に示す。劣化により構造変化した老化防止剤を含まないAO-free-EPDM、6PPD-EPDM-C、MBETB-EPDM-Cは熱劣化処理時間の経過とともにラジカル量が増大し、劣化の進行が確認された。これに対して、老化防止剤の変化物を含んだ6PPD-EPDM-B、MBETB-EPDM-Bは熱劣化処理前のラジカル量が多く、熱劣化処理により初期に減少するが、その後は老化防止剤の変化物を含まない試料と同様緩やかに増大する挙動が確認された。これは老化防止剤の変化物中にラジカル状態の老化防止剤が初期に多量に存在し、熱劣化処理とともに老化防止剤ラジカルが減少し、その後劣化反応が進行していることを示唆している。また、各試料から観測されたラジカルのg値は2.004であったことから、観測されたのはゴムポリマーが酸化されて生成したアルコキシラジカルや、老化防止剤由来のフェノキシラジカルと考えられる。老化防止剤の配合割合を系統的に変化させて同様の実験を実施することにより、各ラジカル種の寄与やメカニズムの解析を更に進めることができると考えられる。

Fig.7 老化防止剤配合EPDMの熱劣化処理によるESRスペクトルの変化

老化防止剤配合EPDMの熱劣化処理によるESRスペクトルの変化

おわりに

ポリマーの劣化反応や劣化防止反応はゴム、プラスチック材料を扱う上で避けて通れないものである。いずれもラジカルが関与した複雑な化学反応である。ラジカルは活性が高いが故にその反応自体が複雑であることに加えて、ポリマー種や配合剤、劣化因子などの多様性も重なって、発生するラジカルとその挙動が変化する。高分子材料を用いた製品のESR測定においては、材料の知識と別の手法での解析も併せなければ正しくESRデータを解釈できないこともあるものの、ラジカルを直接観測できるのはESRだけである。それ故に、ラジカルの挙動の解析にはESRが不可欠で、ESRを用いることで従来の手法だけでは解き明かすことができないことを解明に導くことも可能になる。本講が高分子材料へのESRの活用と製品開発につながれば幸いである。

参考文献

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  • J. Sohma, M. Sakaguchi, Adv. Polym. Sci., 20, 109 (1976).
  • M. Sakaguchi, J. Sohma, J. Polym. Sci. Polym. Phys. Ed., 13, 1233 (1975).
  • 大矢博昭、山内淳、電子スピン共鳴、講談社サイエンティフィック (1989).
  • 山内淳、磁気共鳴-ESR−電子スピンの分光学−、サイエンス社 (2006).
  • 仲山和海、渡邊智子、大武義人、日本ゴム協会エラストマー討論会要旨集、22 (2009).
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