• 概要

日本電子news Vol.50 No.9 會田 征德
日本電子株式会社 SE事業ユニト

電子ビーム描画装置(以下EBL)は、ユーザーが設計したデータを、シリコン基板やマスクブランクスへ転写できる装置である。用途によって電子ビームの形状は異なるが、ここではスポット型電子ビーム描画装置(以下SB)について述べる。SBは電子ビームの径が数nmの円形をしており、10 nm以下のパターンを加工することが可能である。また、レーザー測長系による高精度なステージ位置測定技術により、ステージの停止位置誤差を電子ビームの位置に補正することが出来る。このような特色を持つSBの用途は、これまでは次世代デバイスの研究開発が主な目的であったが、近年は車の衝突防止システムに使われるセンサーの生産や、第4世代移動通信システム(4G)の通信基地局に使われるDFB(Distributed Feedback)レーザーの生産にも使用されており、世界的にSBの需要は高まっている。これらの需要に応えるため、我々は新製品としてJBX-8100FSシリーズを開発した。本稿ではJBX-8100FSシリーズを紹介する。

はじめに

ユーザーはCADなどを用いて図形データを作成し、それをEBLが被描画材料へ転写することで微細加工が可能となる。半導体デバイスの製造は製品を小さくすることが目的の一つであるため、半導体製造装置メーカーはできるだけ加工寸法を小さくするような製品開発が必要になる。また、DFBレーザーなどの製造には0.1 nm以下の高精度のピッチ制御が必要になるため、高位置精度を実現しなければならない。ナノインプリントテンプレート作製の研究においては、前述の精度に加えて材料面内の位置精度が重要となる。ミリ波デバイスに使用されるトランジスタの製造においては、あらかじめ作製された材料上のパターンに高精度での重ねあわせが必要となる。以上のように、製造するデバイスの種類によって要求される精度は異なるが、我々はそのいずれにも対応したJBX-8100FS(Fig. 1)を開発した。JBX-8100FSの仕様(Table 1)は、最大加速電圧100 kV、最大走査スピード125 MHz、描画領域150 mm×150 mm、レーザー測長分解能0.6 nmを有している。High throughput modeとHigh resolution modeを搭載しており、生産から研究開発まで対応可能である。その性能は、High throughput modeのとき、最大フィールドサイズ1000 μm、最小ビーム径5.1 nm、データインクリメント0.5 nm、フィールド接合精度±20 nm以下、重ねあわせ精度±20 nm以下、最小線幅12 nm以下、電流安定度0.2%p-p/h以下、ビーム位置安定度60 nmp-p/h以下となっている。一方High resolution modeのときは、最大フィールドサイズ100 μm、最小ビーム径1.8 nm、データインクリメント0.05 nm、フィールド接合精度±9 nm以下、重ねあわせ精度±9 nm以下、最小線幅8 nm以下、電流安定度0.2%p-p/ h以下、ビーム位置安定度10 nmp-p/h以下となっている。また、通常時の消費電力が3 kVAであるため、コスト的にも導入しやすい仕様となっている。

Fig.1 JBX-8100FS外観

JBX-8100FS外観

パネル内部に電源、冷却水循環装置、ドライポンプ以外の全てのユニットを収めた。

Table 1 JBX-8100FSの主な仕様(エントリーモデル)

Items JBX-8100FS(G1) Entry model
Acceleration voltage 100 kV
Field size 1,000 µm × 1,000 µm (HT), 100 µm × 100 µm (HR)
(HT; High Throughput Mode / HR: High Resolution mode)
Minimum data increment 0.5 nm (HT), 0.05 nm (HR)
Scan speed 125 MHz
Scan speed modulation 256 rank / resolution 0.05 nsec ~
Positioning DAC / Scanning DAC 20 bit / 14 bit
Beam diameter 5.1 nm (HT), 1.8 nm (HR)
Minimum line width <12 nm (HT), <8 nm (HR)
Field stitching accuracy ≦ ± 20 nm (HT), ≦ ± 9 nm (HR)
Overlay accuracy ≦ ± 20 nm (HT), ≦ ± 9 nm (HR)
Beam current stability 0.2%p-p /h (@2 nA, HT)
Beam position stability ≦ 60 nmp-p/h (@2 nA/HT), ≦ 10 nm/hp-p (@2 nA/HR)
Operating system Linux, (‘Data preparation program’ can work on Windows 8.1 and 10)
Writing area 150 mm × 150 mm
Substrate size Full 6 inch wafer, 8 inch wafer loadable, small piece, 6 inch Mask
Maximum stage speed 25 mm/sec
Laser measurement resolution 0.6 nm
Electric requirements 3 kVA (Main console 2 kVA, cwc 1 kVA, Normal)

このほかオプションとして12枚カセットオートローダーや50 kV/25 kV加速電圧切替も可能である。

性能検査結果

JBX-8100FSの性能において、最小線描画、フィールド接合精度、重ねあわせ精度、フィールド面内寸法精度を測定した。

最小線描画結果

JBX-8100FSの性能評価描画においては、ZEP520A(日本ゼオン社製)レジストをシリコン基板に厚さ50 nmで塗布し、電流100 pA、最小ビーム1.8 nmの条件で、8 nm以下の最小線幅を保証している。今回はさらに微細な構造を得るために、特殊な現像を用いた。微細構造を得る方法としては、一般的に低温現像が知られている[1]。 ZEP520Aレジストを現像温度2.8℃で現像した結果、最小線幅4.2 nmのデータが得られた(Fig. 2)。

Fig.2 最小線断面写真(×200 k)

最小線断面写真(×200 k)

ZEP520A 40 nm厚のとき、低温現像を用いることで4.2 nmの線幅が達成できた。

フィールド接合精度

JBX-8100FSはレーザービームコントロール(以下LBC)と呼ばれるステージ位置測長およびビーム位置補正システムを使用することで、高精度のビーム位置補正を行っている。さらに弊社独自の材料歪補正と偏向歪補正を加えることで精度を保証している。なお、フィールド接合精度の測定には、光学座標測定システムを使用している。描画は各フィールドのコーナーにL字マークを配置し、4×4フィールドを描画する。各フィールドのコーナーが交わる点のL字マークの座標を測定し、その位置精度を評価した。ここでは1000 μmフィールドの結果を述べるが、仕様値±20 nm以下に対して、+11.5 nm/-9.8 nmが得られた(Fig. 3(a))。フィールドコーナーに配置された分解能8 nmのバーニアパターンでも目視により確認したが、こちらも同様の結果が得られている(Fig. 3(b))。

Fig.3 フィールド接合精度の測定結果

フィールド接合精度の測定結果

(a) 測定エリアは10 mm間隔で4×4点(30 mm×30 mmエリア)で、フィールド接合精度を測定した。保証値±20 nm以下に対して、実測値は+11.5 nm/-9.8 nmが得られた。図はその一部である。
(b) 同様に、分解能8 nmのバーニアパターンでSEM観察した結果、同様の値が観測された。

重ね合わせ精度

EBLの特徴として、あらかじめパターンが形成されている材料に、パターンを重ね合わせる直接描画機能がある。装置にはマーク検出機能が搭載されており、描画材料上に形成されたアライメントマークを検出し、その座標を求めることが出来る。アライメントマークの座標から描画するパターンの位置を登録すると、そのズレ量を計算して描画する。性能評価では1層目、2層目ともにEBLを用いた。描画エリアは30 mm×30 mm(10 mm間隔で4×4点)、測定はそのうちの1箇所を1 mm間隔で4×4点(3 mm×3 mmエリア)で重ね合わせ精度を測定した。保証値±20 nm以下に対して、実測+4.1 nm/-6.7 nmが得られた(Fig. 4(a))。同様に、分解能8 nmのバーニアパターンでも測定した結果、X, Yともにほぼ中心で重ねあわせされていることが確認できた(Fig. 4(b))。

Fig.4 重ねあわせ精度実測値

重ねあわせ精度実測値

(a) 描画エリアは10 mm間隔で4×4点(30 mm×30 mmエリア)、測定エリアはそのうちの1箇所を1 mm間隔で4×4点(3 mm×3 mmエリア)で重ね合わせ精度を測定した。保証値±20 nm以下に対して、実測+4.1 nm/-6.7 nmが得られた。
(b) 同様に、分解能8 nmのバーニアパターンでSEM観察した結果、X, Yともにほぼ中心で重ねあわせされていることが確認できた。

フィールド面内線幅精度

DFBレーザーなどに代表されるグレーティング描画を行い、その線幅精度を求めた。ラインアンドスペースパターンを1000 μmフィールドの中心とコーナーに配置し、線幅100 nm、ピッチ200 nmの描画を行った。その結果、最大100.6 nm、最小99.5 nmで線幅精度1.1%p-pであった(Fig. 5)。

Fig.5 フィールド面内線幅精度

フィールド面内線幅精度

ラインアンドスペースパターンを1000 μmフィールドの中心とコーナーに描画した。線幅は100 nm、ピッチは200 nmの描画で、線幅は最大100.6 nm、最小99.5 nmで線幅精度1.1%p-pであった。

安定度

安定度は24時間稼動が基本のEBLにとっては重要な性能である。本装置には専用の空調機を搭載することが可能であり、それによってより安定性を得ることが可能である。100 kV high throughput modeの2 nAで安定度を測定した結果、電流安定度は0.08%p-p/h、ビーム位置安定度はXが9.5 nmp-p/h、Yが10.8 nmp-p/hであった(Fig. 6)。

Fig.6 安定度

安定度

100 kV high throughput modeで1時間の安定度測定を行った。電流2 nAの条件で、電流安定度は0.08%p-p/h、位置安定度はXが9.5 nmp-p/h、Yが10.8 nmp-p/hであった。

描画時間

SBはビームの形状が小さいため、可変成型方式のEBLと比較すると描画時間は低下する傾向がある。近年では前述のような生産に用いられているため、描画時間短縮にも着目して開発を行った。描画時間は、ステージ移動時間、ステージ移動後静定時間、補正時間、データ転送時間、電気系静定時間およびビーム照射時間の項目に分けられる。これらの項目でJBX-8100FSにおける改善点を述べる。

  • ステージ移動時間
    ステージ移動の最高速度に依存するが、短い距離ではその加速度も重要となる。各パラメータの最適化により従来に比べて10%~20%改善した。
  • データ転送時間
    図形を転送し描画するまでに要する時間。従来よりも1/3 ~ 1/5に改善した。
  • 副偏向アンプの静定時間
    データ転送から描画開始までに要する時間。転送時間に比べて無視できるほどに短縮した。
  • ビーム照射時間
    スポットビーム1点あたりのビーム照射時間は、以下の式で与えられる。
    ビーム照射時間の式
    t:ビーム照射時間[sec] Q:レジスト感度[C/cm2] p:ショットピッチ[cm] I:ビーム電流[A]

JBX-8100FSではt の最小値は8 nsec(周波数であらわすと125 MHz)であり、従来に比べて2倍以上高速にスキャンすることが可能となった。
以上の改善を行った結果、総描画時間としてはウエハー面積に対して描画面積が10%程度のパターンで、30%~40%改善することが出来た。

消費電力

製品を導入した後に課題となるのがその維持費である。特にEBLは安定度を得るために、描画していない間も通常と同じ電力を供給しておく必要がある。JBX-8100FSは電気ユニットと動力部のコンパクト化を行い、通常時の消費電力を3 kVAまで削減した。これにより従来製品の約1/3の電力で稼動させることが可能となった。

まとめ

次世代デバイスの研究開発や製造は多岐にわたり、要求される機能や精度もそれぞれの分野で異なるが、どの分野でも高精度、高速で使用でき、さらに消費電力も削減した電子ビーム描画装置JBX-8100FSを開発した。今後はさらなるスループット改善、および材料ハンドリング方法の改善を図っていく予定である。

謝辞

本製品の開発に協力、助言をいただいたプロジェクトメンバーに謝意を表する。

参考文献

  • T. Okada, J. Fujimori, M. Aida, M. Fujimura, T. Yoshizawa, M. Katsumura, and T. Iida: "Enhanced resolution and groove-width simulation in cold development of ZEP520A" J. Vac. Sci. Technol. B 29 (2011) 021604.

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