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JMS-S3000 SpiralTOF™によるオンプレートアルカリ分解法とFraction base KMD法を組み合わせた高分子量 Poly(3-hydroxybutyrate)の分析 [MALDI Application]

MSTips No. 283

はじめに

高分子量ポリマーは、マススペクトル上にピークが観測できないか、観測できたとしても低分解能で解析が難しいことが多い。オンプレートアルカリ分解法は、分子量の大きい工業用ポリエステルをMALDI-TOFMSで高分解能解析が可能なオリゴマー領域にまで切断する手法である[1]。 このようにしてできたオリゴマーシリーズが検出される複雑なスペクトルは、Kendrick mass defect (KMD) プロット [2]を用いて解析した。オーバーラップのあるピークシリーズを分離するために用いたFraction base KMD 解析は、通常のKMD解析の分解能が向上するよう繰り返し単位Rを整数Xで割ったFraction base unitを新たな繰り返し単位としてKMD解析を行うものである (Fig. 1) [3].

Fig. 1. Calculation methods of fraction base KMD.

Fig. 1. Calculation methods of fraction base KMD.

実験

Poly (3-hydroxybutyrate) (P3HB, Mn = 2.6 × 105 g/mol, ĐM=2.7) は、Sigma-Aldrich (St. Louis, MO,USA)より購入した。他の試薬は富士フイルム和光純薬より購入した。P3HBのテトラヒドロフラン (THF)溶液 (1 mg/mL) 1 μLをディスポーザブルプレートの上に滴下し、薄膜を作成した。その薄膜の上に、水酸化ナトリウムメタノール溶液 (10 mg/mL) 1 μLを滴下し5分間風乾したのち、蒸留水で洗浄した。乾燥後、2,4,6-trihydroxyacetophenone (THAP, Protea Biosciences, West Virginia, USA) のTHF溶液 (20 mg/mL ) 1 μLを、マトリックスとして滴下した。マススペクトルは JMS-S3000 SpiralTOF™ で取得した。KMD解析は、msRepeatFinder 3.0 を用いて行った。

結果

オンプレートアルカリ分解後、解析に十分なピーク強度でP3HBのオリゴマーシリーズがマススペクトル上に観測され (Fig. 2A)、末端基の異なる6系列であると帰属できた (Fig. 2B)。 しかし、得られたマススペクトル全域においてこれらのすべての系列を帰属し、マススペクトル上で示すことは時間がかかる上に直観的に理解しにくい。

Fig. 2. (A) Mass spectrum of a high molecular weight P3HB following its on-plate degradation (inset: zoom shot with assignments). (B) P3HB ion series noted I-VI.

Fig. 2. (A) Mass spectrum of a high molecular weight P3HB following its on-plate degradation (inset: zoom shot with assignments). (B) P3HB ion series noted I-VI.

KMDおよびFraction Base KMDプロット

得られたマススペクトルをmsRepeatFinderを用い、繰り返し単位C4H6O2を選択しKMDプロットに変換した結果、水平方向に点が並んだ クラウド状の分布となった(Fig. 3A)。 これは、オリゴマー系列の同位体組成および末端基組成の違いによるKMDの差異が小さく、KMDプロットの限られた範囲内に密集しているためで、詳細な解析のためには系列間の差分を大きくする必要がある[4]。 しかしプロットを単に拡大しただけでは、6系列からなるはずが、大きく2つのクラスターとしてしか分離しなかった (Fig. 3B)。

Fig. 3. Full-scale regular KMD plot from the mass spectrum of P3HB with C4H6O2 as base unit using msRepeatFinder.

Fig. 3. Full-scale regular KMD plot from the mass spectrum of P3HB with C4H6O2 as base unit using msRepeatFinder.

そこで、msRepeatFinderの "Fraction Base KMD" を選択し、Xの値を86 (通常のKMDと同じ) から 85に変化させると、プロット上の系列の間隔が広がり、6つのオリゴマー系列として分離できた(Fig. 4A)。 さらにXの値を84にすると、同一の系列内の同位体分布も分離できた (Fig. 4B, X=84)。この場合、各クラスター (図中で色分けして示した) の下から1番目の列がモノアイソトピックピークを示し、下から2番目の列は13Cを1つ含む同位体の系列に相当する。このように重複したピーク系列もFraction Base KMDに入力する値を変化させることで着目する系列を分離することができた。

Fig. 4. Full scale fraction base KMD plots computed with the fractional base units (A) 3HB/85 and (B) 3HB/84 using msRepeatFinder.

Fig. 4. Full scale fraction base KMD plots computed with the fractional base units (A) 3HB/85 and (B) 3HB/84 using msRepeatFinder.

Fraction Base KMDを用いたポリマーシリーズの選択的抽出

msRepeatFinderの "grouping mode" を用いて、KMD プロット上のクラスターを選択すると、それぞれのポリマー系列ごとに色分けすることができ (Fig. 5A)、マススペクトル上でも同じ色が付き対応させることができる(Fig. 5B)。 Fraction Base KMD (繰り返し単位C4H6O2, X=84) を用いれば、さらにモノアイソトピックイオン (Fig. 5中では黄緑色)と、それ以外のピーク (Fig. 5中では濃緑色) とを識別することもできる。msRepeatFinderでは、グループ化したピーク群およびそれ以外のピーク群の表示/非表示も切り替えられるため、目的のシリーズのみを抽出し、解析を容易に行うことができる。

Fig. 5. (A) Fraction base KMD plot computed with the fractional base unit 3HB/84 in grouping mode to label the series in the mass spectrum (B).

Fig. 5. (A) Fraction base KMD plot computed with the fractional base unit 3HB/84 in grouping mode to label the series in the mass spectrum (B).

まとめ

KMD解析では、プロット上でのピーク系列間の分離を向上させる「Fraction base KMD法」を用いれば、より詳細な解析が可能になる。繰り返し単位を割る整数値 (X) を減少または増加させることで、同位体組成、末端基または付加イオンの異なる各ポリマーシリーズを適切に分離することができる。

謝辞

本データは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 機能化学研究部門 佐藤浩昭氏、Thierry Fouquet氏、中村清香氏との共同研究の成果です。

References

[1] S. Nakamura, T. Fouquet, H. Sato. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2019, 30, 355.
[2] H. Sato, S. Nakamura, K. Teramoto, T. Sato. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2014, 25, 1346.
[3] T. Fouquet, H. Sato. Anal. Chem. 2017, 89, 2682.
[4] S. Nakamura, R. B. Cody, H. Sato, T. Fouquet. Anal Chem. 2019, 91, 2004.

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