GC-MS Application: 窒素をキャリアガスに使用したヘッドスペース-GC/MS法による水中の揮発性有機化合物の分析

  • 概要

MSTips No.291

概要

GCのキャリアガスとして広く使われているヘリウムは、様々な事情により、一時的な価格の上昇やその供給状態の不安定化等の問題を抱えることがあり、供給の遅滞等が発生した場合には一時的に代替ガスとして別種キャリアガスの使用の検討を迫られる場合がある。ヘリウムの代替ガスとしては主に水素と窒素が検討されており、特に水素は、最適な分離を行える線速度域が広く、GCのキャリアガスとしては適している。しかし、一方で水素は、可燃・爆発の恐れから扱いに注意を要するため、安全性を重視した場合、窒素ガスの方が既存のGC/MSへの導入が比較的容易である。
今回ヘリウムの代替として窒素をキャリヤーガスに使用して、ヘッドスペース(HS)-GC/MS法により、水質基準に関する省令により定められている水道水質基準および水質汚濁に係る環境基準において基準値が定められている揮発性有機化合物(VOC)の測定を試みた。その結果、各種法規制に基づくVOCの分析を前提として、十分な検出感度で再現性良く測定が可能であることを示すデータが得られたので報告する。

実験

測定対象とする揮発性有機化合物は、Table.1に示した25成分で、該当成分のうち1,4-ジオキサンは1、2、4、10、20、40、100 ppb、それ以外の成分は0.1、0.2、0.4、1、4、10 ppbとなるように水溶液を調整し、測定試料とした。尚、各測定試料には、内部標準物質として、フルオロベンゼンおよびp-ブロモフルオロベンゼンを2.5 ppb、1,4-ジオキサン-d8を20 ppbの濃度で添加した。

Table1. Target VOC list

Benzene Dibromochloromethane trans-1,2-Dichloroethylene 1,4-Dioxane 1,1,1-Trichloroethane
Bromodichloromethane p-Dichlorobenzene Dichloromethane MTBE 1,1,2-Trichloroethane
Bromoform 1,2-Dichloroethane 1,2-Dichloropropane Tetrachloroethylene m-Xylene
Carbon tetrachloride 1,1-Dichloroethylene cis-1,3-Dichloropropene Toluene o-Xylene
Chloroform cis-1,2-Dichloroethylene trans-1,3-Dichloropropene Trichlorethylene p-Xylene

各測定試料は、10mL当たり3gの塩化ナトリウムを添加した後、Table2.に示した測定条件下で測定し、検量線を作成した。また、各種法規制において必要とされる定量下限として1,4-ジオキサンは5ppb、それ以外のVOCは0.1ppbという濃度が設定されている。今回測定した測定試料のうち定量下限に近しい濃度として、1,4-ジオキサンは4ppb、それ以外のVOCは0.1ppbの測定試料を試行回数n=5で連続測定し、定量値の変動係数(C.V.)を算出した。

Table2. Measurement condition

Head Space
Sample Block temperature 70°C
Sampling mode Trap (Number of samplings = 3)
Heating and shaking time 30min
GC
Column InertCap AQUATIC  length 60m, inner diameter 0.32mm, film thickness 1.4μm
(GL Sciences Inc.) 
Injection mode Pulsed split (1/5)、Pulsed time = 3min
Column oven temperature 40°C (3min) →5°C/min → 100°C → 10°C/min → 200°C (5min) 
Carrier gas Nitrogen, 1mL/min (26.796cm/sec)
MS
Ion source temperature 250°C
Interface temperature 200°C
Acquisition method SIM

測定結果

各測定試料を測定し、作成した検量線をFigure1.に示した。また、各種法規制の定量下限に近しい測定試料(1,4-ジオキサンは4ppb、それ以外のVOCは0.1ppb)を連続測定した際の変動係数および先の検量線の決定係数をTable.3に示した。

Figure1. Calibration curve of each VOC

Figure1. Calibration curve of each VOC

Table3. C.V. and coefficient of determination (r2) of each VOC

Compound name C.V. r2 
1,1-Dichloroethylene 0.5% 0.9999
Dichloromethane 2.2% 0.9999
MTBE 1.3% 0.999
trans-1,2-Dichloroethylene 0.5% 0.9999
cis-1,2-Dichloroethylene 0.9% 0.9999
Chloroform 0.7% 0.9989
1,1,1-Trichloroethane 1.1% 0.9996
Carbon tetrachloride 0.8% 0.9997
1,2-Dichloroethane 2.9% 0.9999
Benzene 0.6% 0.9999
Trichlorethylene 0.8% 0.9999
1,2-Dichloropropane 1.8% 0.9998
Compound name C.V. r2
Bromodichloromethane 2.5% 0.9997
1,4-Dioxane 2.0% 0.9997
cis-1,3-Dichloropropene 3.9% 0.9991
Toluene 2.8% 0.9997
trans-1,3-Dichloropropene 1.6% 0.9989
1,1,2-Trichloroethane 1.1% 0.9984
Tetrachloroethylene 2.6% 0.9999
Dibromochloromethane 2.1% 0.999
m,p-Xylene 1.6% 0.999
o-Xylene 1.6% 0.999
Bromoform 1.7% 0.9989
p-Dichlorobenzene 0.7% 0.9999

検量線の決定係数については、全てのVOCで0.999以上であり、良好な直線性が得られている。また、定量下限付近の濃度における変動係数も全てのVOCで5%以下であり、各種法規制が必要とする20%以下の値を十分に満たす結果が得られている。

下限値付近の測定試料を連続測定した際の1回目における各VOCのEICをFigure2.に示した。最も感度を得るのが難しい成分の1,4-ジオキサンにおいても、EIC上で十分な強度で検出されていることがわかる。

Figure2. EIC of each VOC at concentration near the lower limit of quantification

Figure2. EIC of each VOC at concentration near the lower limit of quantification

結論

窒素をキャリアガスに使用して、HS-GC/MS法によりVOCの測定を試みた。各種法規制に基づく水中VOCの測定に関して、通常必要とされる定量下限濃度は、1,4-ジオキサンは5ppb、それ以外の成分は0.2ppbとされているが、今回それらを十分に満たす結果が得られた。

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