• 概要

MSTips No.308

はじめに

ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、脂溶性、難分解性、絶縁性等の物理的・化学的特性から電気機器の絶縁油やノンカーボン紙など様々な用途で利用されてきた。しかし、昭和43年のカネミ油症事件をきっかけにその毒性が社会問題となり、製造や輸入が禁止となった。その後、平成13年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(通称:PCB措置法)」が施行され、PCB廃棄物の保管事業者は令和9年3月末までにPCB廃棄物を処分することが義務付けられた。
PCB廃棄物は、その濃度によって高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物に分けられる。低濃度PCB廃棄物は、PCBを使用していないはずの電気機器の絶縁油から検出される「微量PCB汚染電気機器等」と、PCB濃度5,000 mg/kg以下の「低濃度PCB含有廃棄物」を合わせた総称である。
低濃度PCB廃棄物を分析する手法としては、「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法」が環境省より示されている。令和元年10月に公表された第4版では、測定対象を塗膜くず(塩化ゴム系塗料や塩素系顔料)とする場合、ガスクロマトグラフ(GC)の検出器として使用できるものは質量分析計(タンデム型を含む)のみとなった。これは、塗膜くずが試料そのものに塩素を多量に含むため、電子捕獲型検出器(ECD)等では適切な分析が困難となる場合が多いからである。
今回は、日本でのPCB汚染の主な原因とされるカネクロール(KC)をガスクロマトグラフ四重極型質量分析計JMS-Q1500GCにて測定し、ダイオキシン分析プログラム「DioK(ダイオック)」を用いてクロマトグラムの形状確認、および検出されたピークの209種類の異性体に対するピークアサインを行った。

Qualitative analysis flow

Fig.1 Gas chromatograph quadrupole mass spectrometer “JMS-Q1500GC”

実験

測定試料には、100 µg/mLカネクロール混合液(KC-mix、ジーエルサイエンス社製)をヘキサンで5 µg/mLに希釈したものを用いた。測定条件は、「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3版)」を参考に設定した(Table 1)。また、一塩化ビフェニル(M1CB)から十塩化ビフェニル(D10CB)のSIM測定における定量イオン(Quantitation ion)と確認イオン(Confirmation ion)をTable 2に示した。

Table 1 Measurement condition

GC
Column DB-5ms(Agilent Technologies, Inc.)
30 m×0.25 mm I.D., df=0.25 µm
Injection port temp. 250°C
Oven temp. program 100°C(1 min)→20°C/min→160°C→3°C/min →220°C(3 min)→ 6°C/min→295°C(5min)
Injection mode Splitless
Carrier gas He, 1.2ml/min (Constant Flow)
MS
Ion source temp. 230°C
Interface temp. 280°C
Ionization mode EI
Ionization energy 70 eV
Ionization current 50 µA
Measurement mode SIM
Relative EM Voltage 700 V

Table 2 Selected ion of each target PCB substance

M1CB D2CB T3CB T4CB P5CB H6CB H7CB O8CB N9CB D10CB
Native
(m/z)
Quantitation ion 188.0 222.0 256.0 289.9 325.9 359.8 393.8 429.8 463.7 497.7
Confirmation ion 190.0 224.0 258.0 291.9 323.9 361.8 395.8 427.8 461.7 499.7
Internal
Standard
(m/z)
Quantitation ion 200.1 234.0 268.0 302.0 337.9 371.9 405.8 441.8 475.7 509.7
Confirmation ion 202.1 236.0 270.0 304.0 335.9 373.9 407.8 439.8 473.7 511.7

結果

一塩化ビフェニル(M1CB)から十塩化ビフェニル(D10CB)までの同族体について、Table 2に示したNativeの定量イオンと確認イオンの平均クロマトグラムを Fig.2 に示した。良好なクロマトグラムを得ることができ、構造異性体が分離している様子が確認できた。各同族体において緑色のピークがPCBの構造異性体である。DioKを用いると、定量イオンと確認イオンの面積比の理論値との許容差(レシオチェック)やリテンションタイムから構造異性体を識別することができる。これより、本データからは合計で130種の構造異性体を確認することができた。

Qualitative analysis flow

Fig.2 SIM chromatograms of each PCB homolog

参考文献

「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法(第4版)」. 環境省 環境再生・資源循環局 廃棄物規制課 ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理推進室. 令和元年10月.
「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3版)」. 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課. 平成23年5月.

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