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DioKを用いたポリ塩化ビフェニル(PCB)の定量解析 [GC-QMS Application]

MSTips No.310

はじめに

ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、昭和43年のカネミ油症事件をきっかけにその毒性が社会問題となり、製造や輸入が禁止となった。その後、平成13年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(通称:PCB措置法)」が施行され、PCB廃棄物の保管事業者は令和9年3月末までに低濃度PCB廃棄物を処分することが義務付けられた。
低濃度PCB廃棄物を分析する手法としては、「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法」が環境省より示されている。令和元年10月に公表された第4版では、測定対象を塗膜くず(塩化ゴム系塗料や塩素系顔料)とする場合、ガスクロマトグラフ(GC)の検出器として使用できるものは質量分析計(タンデム型を含む)のみとなった。これは、塗膜くずが試料そのものに塩素を多量に含むため、電子捕獲型検出器(ECD)では適切な分析が困難となる場合が多いからである。
ダイオキシンやPCBといったダイオキシン様化合物は数多くの異性体を有するため、GC-MSにおける定量分析ではピークのアサインメントに特別な知識や経験を必要とする。また定量に際しては同じ塩素数の同族体ごとに相対感度係数(RRF:Relative Response Factor)を計算し、定量値を算出する。このようなGC-ECDにはない複雑な定量処理は、当社が販売しているダイオキシン分析プログラム「DioK(ダイオック)」を用いることで簡便に処理することができる。今回はDioKを用いたPCB定量解析の流れをDioKの機能・特徴とともにご報告する。

実験

検量線作成用の標準溶液としてはPCB標準液OIL-CVS-B(Wellington Laboratories製)を用い、疑似的な定量対象試料としてはカネクロール混合液(KC-mix、ジーエルサイエンス社製 100 μg/mL)をヘキサンで5 μg/mLに希釈した溶液を用いた。Table 1左にOIL-CVS-Bに含まれる異性体(Native)とその濃度を示す。
本検量線溶液(CS1-B~CS6-B)には、Table1 右に示したように、塩素数の異なる同族体ごとに少なくとも1種類の異性体の13Cラベル化体が、内部標準物質(Internal Standard: 以下単に「IS」と表記する)として40 ng/mLの濃度で含まれている。測定にはガスクロマトグラフ四重極型質量分析計JMS-Q1500GCを使用し、測定条件は「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3版)(以下単に「マニュアル」と表記する)」を参考に設定した(Table 2)。
また、一塩化ビフェニル(M1CB)から十塩化ビフェニル(D10CB)のSIM測定における定量イオン(Quantitation ion)と確認イオン(Confirmation ion)をTable 3に示した。なお、OIL-CVS-Bについては各濃度の標準溶液を連続3回測定し、KC-mix希釈溶液については1回のみの測定とした。解析には全てDioKを用いた。

Table 1  Concentration of calibration solutions

Native Internal Standard
Homologue IUPAC CS1-B
(ng/mL)
CS2-B
(ng/mL)
CS3-B
(ng/mL)
CS4-B
(ng/mL)
CS5-B
(ng/mL)
CS6-B
(ng/mL)
IUPAC CS1-B~CS6-B
(ng/mL)
M1CB 3 0.5 2 10 40 200 1000 3L 40
D2CB 8 0.5 2 10 40 200 1000 8L 40
T3CB 28 0.5 2 10 40 200 1000 28L 40
T4CB 52 0.5 2 10 40 200 1000 52L 40
P5CB 101 0.5 2 10 40 200 1000 101L 40
P5CB 118 0.5 2 10 40 200 1000 118L 40
H6CB 138 0.5 2 10 40 200 1000 138L 40
H6CB 153 0.5 2 10 40 200 1000 153L 40
H7CB 180 0.5 2 10 40 200 1000 180L 40
O8CB 194 0.5 2 10 40 200 1000 194L 40
N9CB 206 0.5 2 10 40 200 1000 206L 40
D10CB 209 0.5 2 10 40 200 1000 209L 40

Table 2 Measurement condition

GC
Column DB-5ms(Agilent Technologies, Inc.)
30m×0.25mm I.D., df=0.25µm
Injection port temp. 250°C
Oven temp. program 100°C(1min)→20°C/min→160°C→3°C/min
→220°C(3min)→ 6°C/min→295°C(5min)
Injection mode Splitless
Carrier gas He, 1.2mL/min(Constant Flow)
MS
Ion source temp. 230°C
Interface temp. 280°C
Ionization mode EI
Ionization energy 70eV
Ionization current 50µA
Mesurement mode SIM
Relative EM Voltage 700V

Table 3 Selected ions of each target PCB substance

M1CB D2CB T3CB T4CB P5CB H6CB H7CB O8CB N9CB D10CB
Native
(m/z)
Quantitation ion 188.0 222.0 256.0 289.9 325.9 359.8 393.8 429.8 463.7 497.7
Confirmation ion 190.0 224.0 258.0 291.9 323.9 361.8 395.8 427.8 461.7 499.7
Internal Standard
(m/z)
Quantitation ion 200.1 234.0 268.0 302.0 337.9 371.9 405.8 441.8 475.7 509.7
Confirmation ion 202.1 236.0 270.0 304.0 335.9 373.9 407.8 439.8 473.7 511.7

DioKによる定量解析の流れ

DioKの解析フロー

Fig. 1にDioKによるPCBの定量解析の主な流れを示す。DioKはあらかじめ作成したテンプレートをもとに、自動的に定量解析を行う。まず、解析対象のデータを読み込み、クロマトグラムのスムージングとベースライン補正を行う。次に、ピーク検出と検出されたピークに対して定量対象化合物(異性体)のアサインメントを行う。そして、検量線作成用のPCB標準液のデータでRRFを算出し、このRRFを用いて定量対象試料のデータ中でアサインされたピークの面積値から定量値を算出する。
PCBの測定・定量処理をGC-MSで行う場合、前述のRRFの計算および定量値の算出は同族体ごとに行い、全同族体の定量値を合計しトータルPCB濃度とする。DioKを用いることにより、これらの複雑な処理を自動化することが可能となり、GC-MSを用いたPCBの測定・定量処理にかかる労力を大幅に低減できる。

RRFの自動計算

上述のように GC-MSによる PCBの定量計算では、同族体ごとに平均RRFを算出する(Fig. 1-⑤)。 DioKは複雑なRRFの計算を自動で行うことができ、検量線作成用のPCB標準液中の異性体ごとの平均RRF、それら RRF の相対標準偏差(RSD: Relative standard deviation)、個別RRFを一覧表示できる(Fig. 2)。マニュアルでは、平均RRFのRSDは20%以下という基準値が設けられている。DioKではRRFに対するRSDの許容値(20%)をあらかじめテンプレートに設定してあるため、許容値を満足しているかFig 2に示すように「OK」 又は「NG」として表示され、RRFの妥当性を一目で判断することができる。
これらの結果は全てExcel形式(xlsx)によるエクスポートが可能であり、報告書作成の際に役立つ機能となっている。

Fig. 1 Quantitative analysis flow with DioK

Fig. 1 Quantitative analysis flow with DioK

定量対象試料の定量計算

PCBの定量解析では、上記で求めた同族体ごとの平均RRFを用いて定量対象試料の定量値を算出する(Fig. 1-⑥)。KC-mixのヘキサン希釈溶液の測定結果をDioKで定量解析した結果の一覧表の抜粋をFig. 3に示す。定量値の算出に使用したRRF(同族体ごとの平均RRF)や定量値等の結果が一覧として表示される。
これらの結果も全てExcel形式(xlsx)によるエクスポートが可能である。

Fig. 2 RRF reproducibility list

Fig. 2 RRF reproducibility list

Fig. 3 Quantitative results list

Fig. 3 Quantitative results list

個別データの確認方法

DioKはクロマトグラム上のピーク検出と異性体アサインメントを自動で行い(Fig. 1-①~④)、ピークごとに「異性体に対するアサインの『あり・なし』」及び「レシオチェック値の『許容値以下・以上』」の状態を色分けして表示する。各ピークの色分けはFig. 4に示したように4色に区別されており、各々の色の意味は以下の通りである。

  • 緑色:レシオチェックは許容値内、異性体としてアサインされており定量値としてカウントする
  • 黄色:レシオチェックは許容値外、但し異性体としてアサインされており定量値としてカウントする
  • 水色:レシオチェックは許容値内、しかし異性体としてはアサインされておらず定量値としてカウントしない
  • 青色:レシオチェックは許容値外、また異性体としてはアサインされておらず定量値としてカウントしない

レシオチェックでは、定量イオンと確認イオンのそれぞれのクロマトグラム上で対応するピークの面積比が計算値と比較し、許容値以内(マニュアルでは20%以下)であるか調べている。PCB測定の場合、比較基準となる計算値は、各同族体の安定同位体パターンのうち定量イオンと確認イオンの存在比から算出することが一般的である。このように、レシオチェックは PCBの同族体のピークであるか夾雑物由来のピークであるか判定するのに有用である。
Fig. 5 に KC-mix ヘキサン希釈溶液の測定結果のうち五塩化ビフェニル(P5CB)の 定量対象異性体(Native)、 および IS のクロマトグラムをDioKを用いて表示した例を示した。DioKでは、同族体ごとに定量イオンと確認イオンで得られたシグナルを平均して得られた「Nativeの平均クロマトグラム」と、あらかじめテンプレートに登録された「計算保持時間」、またNative と同様にISに対する「ISの平均クロマトグラム」の3種類の情報を同一画面に表示することができる。さらに、NativeクロマトグラムとISクロマトグラムは定量イオンと確認イオンそれぞれの個別のクロマトグラムとして二段に分けて表示することもできるため、前述の各ピークの色分け機能と合わせて用いることにより、夾雑物による妨害の状況、それらの定量値への影響などを一目で確認することができる(Fig. 5 右上)。また、夾雑物が多いサンプルでは自動アサインできないピークもあるが、計算保持時間バーから対象異性体のラベルをドラックアンドドロップ操作することで容易に手動アサインすることができる。逆に夾雑物由来のピークを誤認識して自動アサインした場合には、手動でアサインを解除することも可能である。

Fig. 4 Ratio check and assignment identification

Fig. 4 Ratio check and assignment identification

Fig. 5  Quantitative analysis display (P5CB) with DioK

Fig. 5 Quantitative analysis display (P5CB) with DioK

まとめ

本報告では、ダイオキシン分析プログラムDioKを用いたPCBの定量解析の流れを、DioKの特長とともに報告した。DioKは異性体ごとの平均RRF、相対標準偏差(RSD)を自動計算できるため、RRFの妥当性を一目で判断することができる。また、ピーク検出と異性体アサインメント、レシオチェックも自動で行い、ピークごとにアサインとレシオチェックの結果を色分けして表示する。DioKは「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法」に基づいたPCBの定量解析を行う上で、有用なプログラムといえる。

参考文献

「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法(第4版)」. 環境省 環境再生・資源循環局 廃棄物規制課 ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理推進室. 令和元年10月.
「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3版)」.環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課. 平成23年5月.
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