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JMS-S3000を用いたMS/MS測定による低分子化合物の構造解析事例 ー レセルピン光劣化物のMS/MS測定 ー [MALDI-TOFMS Application]

MSTips No. 349

はじめに

JMS-S3000 "SpiralTOF™"シリーズを用いた高質量分解能測定では、イオンの精密質量から化合物の組成推定が可能です。 しかし、精密質量情報からだけでは、分子構造に関する情報は得られません。そこでJMS-S3000 "SpiralTOF™"シリーズとTOF-TOFオプションを組み合わせたTOF-TOF測定が有効になります。 TOF-TOF測定では、高エネルギー衝突誘起解離 (HE-CID) 由来のフラグメントイオンが検出できます。 HE-CIDは1回衝突によりプリカーサイオンを開裂させる手法で、多重衝突により開裂させる低エネルギー衝突有解離よりも構造情報が豊富なプリカーサイオンが得やすことが知られています。一方でMALDI-TOFMSはクロマトグラフィーなどの前分離手法とオンライン接続が難しいことから、同一マススペクト中に質量の近接したピーク (たとえば2 u違い) が観測されることも多く、それぞれの化合物の構造情報を正確に得るためには、高いプリカーサイオン選択能が要求されます。JMS-S3000 "SpiralTOF™"シリーズとTOF-TOFオプションを組み合わせは、第1TOFMSに長い飛行距離をもつSpiralイオン光学系を採用しているため高いプリカーサイオン選択能を実現可能です。本アプリケーションノートでは、MS/MS測定による構造解析事例として、光劣化したレセルピンの化学構造を推定した結果について報告します。

測定フロー&測定条件

Table 1に記した条件どおりにサンプルおよびマトリックスを調製し、それぞれ1:10の比率で混合した溶液をターゲットプレートへ滴下し、自然乾固させました。そのサンプル結晶についてMS測定とMS/MS測定をFig.1の順に行いました。

Figure 1. Measurement flow

Figure 1. Measurement flow

Table 1. Sample preparation and measurement conditions

Sample Reserpine, 1 mg / mL THF solution
Degradation method Daylight (A few days, Indoor)
Matrix DHB, 10 mg / mL THF solution
The way to make a spot Sample + Matrix 1:10 mixed solution was make a spot at target plate
Mass spectrometer JMS-S3000 (JEOL Ltd.)
Measurement mode Exact mass measurement : Spiral mode
MS/MS measurement : TOFTOF mode
Calibration standard PPG 700, 10 mg / mL THF solution

測定結果

Spiralモードによる測定結果をFig.2に示します。レセルピンの質量に相当するm/z 609 、およびその分解物が2 u差のm/z 607に検出されました。m/z 607およびm/z 609についてTOF-TOF測定を行ったところ、Fig. 3aおよびFig. 4aに示すプロダクトイオンマススペクトルが得られました。両方のプロダクトイオンマススペクトルではNaやKなどの付加イオンが確認されなかったことから、プリカーサーイオンはプロトン付加イオン[M+H]+と考えられます。付加イオンの考察をもとに組成推定結果を絞り込むと、それぞれFig. 3bおよびFig. 4bに示すとおりレセルピンおよび2水素脱離したレセルピンの組成と一致しました。さらに、プロダクトイオンマススペクトルの主要m/zシグナルを解析すると、分解物の二重結合位置はヘテロ環部分に存在すると推測されました。 (Fig. 3cおよびFig. 4c)

Figure 2. Mass spectrum of reserpine and its photo-degraded compound (Spiral mode)

Figure 2. Mass spectrum of reserpine and its photo-degraded compound (Spiral mode)

Figure 3. Product ion mass spectrum of reserpine (a). Composition estimation results of reserpine (b) and estimated fragment channels (c).

Figure 3. Product ion mass spectrum of reserpine (a). Composition estimation results of reserpine (b) and estimated fragment channels (c).

Figure 4. Product ion mass spectrum of photo-degraded compound from reserpine (a). Composition estimation results of photo-degraded compound from reserpine (b) and estimated fragment channels (c).

Figure 4. Product ion mass spectrum of photo-degraded compound from reserpine (a). Composition estimation results of photo-degraded compound from reserpine (b) and estimated fragment channels (c).

まとめ

JMS-S3000 "SpiralTOF™"シリーズとTOF-TOFオプションの組みあわせによる高いプリカーサーイオン選択能により、 2 u差の主成分および劣化由来化合物それぞれのプロダクトイオンマススペクトルを取得できました。また、プロダクトイオンマススペクトルから付加イオンを特定できるため、その結果から組成推定の候補を絞ることも可能です。今回得られた2つのプロダクトイオンマススペクトルのパターンは異なり、それぞれの特徴的なプロダクトイオンから構造推定を行うことができました。

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