MALDI-TOFMS Application: 精密質量を使用したポリマーの末端基の元素組成推定

  • 概要

MSTips No. 357

マトリックス支援レーザー脱離イオン化 (MALDI) 法、電界脱離イオン化 (FD) 法、エレクトロスプレーイオン化 (ESI) 法などソフトイオン化法と飛行時間質量分析計 (TOFMS) など高質量分解能で精密質量測定が可能な質量分析計を組み合わせることで、ポリマーの分子量を確認することができる。得られたマススペクトルからポリマー種の識別 (モノマーの識別)、末端基の違いの識別、それぞれのポリマーシリーズの分子量分布の計算などが可能である。近年は複雑なポリマー混合物のマススペクトルに含まれる情報をケンドリックマスディフェクト (KMD) 解析用ソフトウェアmsRepeatFinderを利用することで効率的に俯瞰することが可能である。このように識別したポリマーシリーズの末端基の元素組成推定を行うことは、ポリマーの合成反応の状態確認や、製品の品質管理、劣化機構解析を行う上で重要である。本報告では、ポリマーの精密質量情報から末端基の元素組成推定を行う手順を紹介する。

末端基の組成推定の手順

まずポリマーイオンの一次構造を示す (Figure 1)。ポリマーの構造は繰り返し単位であるモノマーが重合度の数だけつながっており、その両端に末端基 (α末端、ω末端) が存在する。マススペクトル上に観測されるポリマーのイオンは、測定条件によってはこれに付加イオンが加わったものである。
つまり、ポリマーイオンの質量 (Mn) は、

Mn = M× n + Me + Mc (Mr: モノマー質量、Me: 末端基の合計質量、Mc: 付加イオン質量) (1)

となる。Figure 2に両末端基の組成推定手順を示す。式 (1) から「両末端基の合計と付加イオンの質量」を計算するには、ポリマーイオンの質量からモノマー質量を重合度の数だけ差し引けばよいことが分かる。ここでいうモノマー質量は、重合度が1つ異なる2つのピークの質量差から元素組成推定を行ったモノマーの計算質量を使用する。モノマーの計算質量を使用する必要があるのは、観測されたモノマー質量 (2つのピークの質量差) には質量誤差が含まれるためである。モノマー質量に質量誤差が含まれる場合、その質量誤差が重合度の数だけ積算され、末端基の組成推定に影響する。 たとえば、モノマー質量の質量誤差が1 mDaと小さくても、20量体のポリマーの末端基組成を計算する場合には20 mDaと大きな誤差となる。さて、ポリマーイオンの質量からモノマーの計算質量を重合度の数だけ減算した質量が、両末端基と付加イオンの質量を合計したものになるので、これに対して元素組成推定を行う。ただし、マススペクトルから得られる精密質量からは重合度は決定できないので、手順の中では末端基と付加イオンの合計質量に範囲設定を行い、順次モノマー質量を差し引く過程で、その質量範囲内に入った場合にのみ組成推定を行う。そのため、組成推定結果にはモノマー組成の整数倍だけ不確定さが残る。

Figure 1

Figure 1 The primely structure of polymer ion

Figure 2

Figure 2 The procedure for composition estimation of polymer end-groups

末端基の組成推定例

ここでは末端基の異なるポリエチレンオキシドの混合物をmsRepeatFinder V5.0 (ポリマー組成推定機能はmsRepeatFinder V4より実装された) を用いて解析した手順を説明する。Figure 3はマススペクトル、KMD 、KMRであり、Base unitにC2H4Oを指定したのでKMDプロットで横軸に平行に並んでいるのがポリエチレンオキシドである。KMRプロットでは、末端基が同一のシリーズが1点に集約するので、この中マススペクトルには5個の末端基の異なるポリエチレンオキシドのシリーズが確認できた。各ポリマーシリーズはグループ化し色分けを行った。

Figure 3

Figure 3 KMD/KMR plot of the mixture of polyethylene oxides

Figure 3のKMRプロットで四角で囲んだ緑のシリーズを例に末端基の組成推定の手順を示す。まずピーク1, 2に重合度の1つ異なる1261.85633 Da, 1305.88291 Daを選択すると、2つのピークの質量差(Δm) 44.02658 Daは自動計算される (Figure 4の1)。この質量差からモノマー (価数0) の元素組成推定を行うが、設定条件は一般的なイオンの元素組成推定と同じく、誤差範囲、電子数、DBE、元素情報である。得られた組成推定結果からモノマー組成を1つを選択する (Figure 4の2)。これは前述の通り、ポリマーの観測質量 (ピーク1) からモノマーの計算質量を順次減算した残りの質量で末端基の元素組成推定を行うためである。末端基の元素組成推定の設定条件は、モノマー組成の選択以外に「末端基と付加イオンの質量範囲」を指定する点が一般的な組成推定条件と異なる。これは、前述のとおり精密質量から重合度を決定できないため、ピーク1の観測質量からモノマー計算質量を順次減算し、この質量範囲に入った場合にのみ組成推定を実施するためである。末端基の組成推定結果は、重合度、付加イオンとともに表示される (Figure 4の3)。末端基の組成推定結果を確認すると、4つの候補が表示されているが、これらはすべてポリマーの元素組成としては同一であり、重合度が異なるものである。

Figure 4

Figure 4. The GUI for elemental compositions estimation of end-groups in msRepeatFinder

末端基組成推定結果の履歴確認

msRepeatFinder V5では組成推定結果は履歴に保存することができる (Figure 5)。末端基の組成推定結果から1つ選択し、「履歴に保存」をクリックするとリストに組成推定結果が保存できる。保存した結果は「組成推定履歴」を表示することで、組成推定条件および組成推定結果を確認できる。さらに、「詳細」ボタンを押すと選択した組成推定結果以外の候補も記録されている。末端基組成の結果を変更したい場合は、その行を指定し、 「末端基組成式の変更」を押すことで組成推定履歴の内容を変更できる。

Figure 5

Figure 5 GUI for history of elemental composition estimations of polymers

まとめ

本報告では、精密質量を用いたポリマーの末端基の元素組成推定方法について説明した。ポリマーの一次構造は、モノマーと末端基の組み合わせで構成されていることから、ポリマーのイオンの質量が大きい場合でも、組成推定を行う対象は比較的質量の小さい部分構造となる。そのため元素情報がある程度確定していれば、構造の推定は行いやすい。一方で精密質量だけでは、重合度が確定できないこと、組成推定結果として得られるのは両末端基の合計のみが得られることから、末端基の構造、特に質量範囲が想定されていることが重要となる。

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