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JMS-S3000 "SpiralTOF™"を用いた高エネルギー衝突誘起解離 タンデム質量分析法によるオリゴ糖の構造解析 [MALDI-TOFMS Application]

MSTips No. 366

マトリックス支援レーザー脱離イオン化法 (MALDI) は、オリゴ糖などの生体分子の分析によく使用される有用なイオン化法である。オリゴ糖の分析には様々なイオン化法と質量分析計が使用されるが[1]、特にタンデム質量分析法は糖鎖の構造解析によく使用される。SpiralTOF™は、4つの扇形電場で構成され、17 mのらせん軌道状のイオン軌道をもつ飛行時間質量分析計 (TOFMS) である。リフレクトロンTOFMSに比べて長い飛行距離をもつため高質量分解能・高質量精度を実現できる。また、扇形電場を利用することでポストソース分解 (PSD) イオンの排除が可能である。このSprialTOF™を第1 TOFMSとし、リフレクトロンTOFMSを第2TOFMSとして構成したタンデム飛行時間質量分析計 (TOF-TOF) は次のような独自の特徴をもつ、(a) 20 kVの高エネルギー衝突誘起解離 (CID) が可能、(b) モノアイソトピックプリカーサーイオンの選択が可能。(c) プロダクトイオンマススペクトルにPSDイオンが検出されず高エネルギーCID由来のフラグメントイオンのみが観測できる。本報告では、SpiralTOF™およびTOF-TOFオプションを用いていくつかのオリゴ糖を分析した。

実験

すべてのオリゴ糖 (ラミナリテトラオース、スタキオース、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン) は市販品であり、特に前処理として精製することなく水に溶解した。2,5-ジヒドロキシ安息香酸 (DHB) は40%エタノールに10 mg/mLの濃度で溶解した。次に、オリゴ糖標準液とマトリックス液を体積比で1:1で混合した。その後、この混合溶液0.5 µLをMALDIターゲットプレートに滴下し、風乾した後、JMS-S3000のSpiralTOF正イオンモードおよびTOF-TOF正イオンモードを使用して測定を行った。

Figure 1

Figure 1 JMS-S3000 SpiralTOF™-plus2.0

結果

タンデム質量分析法によるオリゴ糖の開裂経路の命名法をFigure 2に示す[2]。オリゴ糖のA、B、およびCは非還元末端を含むフラグメントイオンであり、X、Y、およびZは還元末端を含むフラグメントイオンである。本報告では、すべてのオリゴ糖標準品、マトリックスおよび溶媒を精製していないため、マススペクトルにはナトリウム付加分子がベースピークとして観測された (Figure 3を参照)。これらのナトリウム付加分子をプリカーサーイオンとして選択し、ラミナリテトラオースとスタキオースのプロダクトイオンマススペクトルを取得した (Figure 3)。

Figure 2

Figure 2 Fragmentation pathways of Oligosaccharides

ラミナリテトラオースは、Glc (β1 → 3) Glc (β1 → 3) Glc (β1 → 3) Glcとして結合された、4つのβ-D-グルコースユニットからなる四糖である。スタキオースも四糖であり、2つのα-D-ガラクトースユニット、1つのα-D-グルコースユニット、および1つのβ-D-フルクトースユニットがGal (α1 → 6) Ga1 (α1 → 6) Glc (α1 → 2β) Fruとして結合したものである。これら2つの構造異性体は、大きく異なるプロダクトイオンマススペクトルのパターンを示した。グリコシド結合の切断により生成したBおよびYフラグメントイオンが、それぞれのプロダクトイオンマススペクトルで主要な成分として観測された。ラミナリテトラオースの開裂経路をFigure 5に示す。高エネルギーCIDによる開裂は、低エネルギーCIDよりも短い時間スケールで発生するため、オリゴ糖とその複合糖質に関して有用な構造情報を提供するクロスリング開裂を検出することができる。このクロスリング開裂は、m/z 599、569、555のフラグメントイオンとして、両方のオリゴ糖で観測された (Figure 5を参照)。この情報は各オリゴ糖の構造を決定し、構造異性体を互いに区別するために不可欠である。

Figure 3

Figure 3 MALDI TOF spectra. A) Stachyose, B) γ-Cyclodextrin

Figure 4

Figure 4 MALDI TOF-TOF spectra. A) Laminaritetraose, B) Stachyose

Figure 5

Figure 5 The glycosidic bond cleavage to generate B and Y ion series for Laminaritetraose

シクロデキストリンは、Glc (α1 → 4) Glcとして連結された5つ以上のα-D-グルコースからなる環状オリゴ糖である。各シクロデキストリンのプロダクトイオンマススペクトルをfigure 6に示す。いずれの場合も、グリコシド結合の切断によるBイオン系列が、TOF-TOFスペクトルで観察された主要なイオンであった。さらに、クロスリング開裂の結果であるいくつかのフラグメントイオンが観測された。

Figure 6

Figure 6 MALDI TOF-TOF spectra of A) α-Cyclodextrin, B) β-Cyclodextrin, C) γ-Cyclodextrin

まとめ

本報告では、JMS-S3000のSpiralTOFモードと、TOF-TOFオプションによる高エネルギーCIDを用いて、いくつかのオリゴ糖の構造解析を行った。各プロダクトイオンマススペクトルの主成分としてBおよびYイオン系列が観測された。さらに、クロスリング開裂から生成された多数のフラグメントイオンも確認でき、構造異性体の識別に役立つことが分かった。これらの結果から、MALDI TOF-TOFによる高エネルギーCIDが、他のタンデム質量分析法では一般的に得られないオリゴ糖の構造情報を決定するための優れた手法であることを示すことができた。

参考文献

  • [1] Joseph Zaia, Mass Spectrometry of Oligosaccharides, Mass Spectrometry Reviews, Volume 23, Issue 3, pages 161-227, May/June 2004
  • [2] Domon B, Costello CE. 1988b. A systematic nomenclature for carbohydrate fragmentations in FAB-MS/MS spectra of glycoconjugates. Glycoconjugate J 5:397-409.
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