JMS-T100GC "AccuTOF GC" による精密質量測定 ~液晶成分の同定~

  • 概要

MSTips No.40

ガスクロマトグラフ質量分析計(以下GC-MS)は、有機化合物(比較的低沸点な成分)に対して優れた定性能力・定量能力を有した複合分析装置である。前段のガスクロマトグラフにより試料成分を分離し、後段の質量分析計にてその成分の質量スペクトルを得ることで定性分析を行い、また観測された各成分のイオン強度から定量分析を行う。
通常 GC-MS にて定性分析を行うには、得られたスペクトルのパターンと、ライブラリデータベースに登録してある既知のスペクトルとを照らし合わせることでその成分を同定する。また、ライブラリデータベースにはない未知の成分に対しては、フラグメントイオンからその構造解析を行う。しかし、整数質量だけの情報では構造解析が困難な場合が多い。そのよう場合は各イオンの精密質量から組成や構造を推定することが可能となる。
今回、弊社質量分析装置 JMS-T100GC "AccuTOF GC"を用い、EI 法及び CI 法における各イオンの精密質量から、液晶の未知成分を同定した例を紹介する。

測定条件

試料

測定試料

市販品電卓の液晶を溶媒(ヘキサン)に溶かしたもの

質量校正用試料

2,4,6-Tris(trifluoromethyl)-1,3,5-triazine(以下 TTT と略)

CI ガス

イソブタン(0.1mL/min)

GC

注入法

スプリット(1:400(EI 法)、1:200(CI 法))

注入量

1.0 μL

カラム

DB-5、内径 0.18mm×長さ 10m、膜厚 0.18μm

オーブンプログラム

40℃(1min)→ 50℃/min → 300℃(1min)

結果

液晶の TIC(上段:EI 法、下段:CI 法)

図1. 液晶のTIC(上段:EI法、下段:CI法)

EI法、CI法ともスプリット注入にて試料を注入しているので非常にシャープなピークが得られた(図1)。測定結果例として、リテンションタイム5.0分付近に出現している最初のピーク(成分A)の解析結果を以下に示す。未知の液晶成分Aの各イオン化法における質量スペクトルを図2に示す。この成分AはEI法では m/z111がベースピークとして観測され、次いでm/z69、195のイオンが観測されている。この成分をCI法にて測定するとm/z334にベースピークが観測され、またEI 法でも僅かにm/z333のイオンが観測されていることから、m/z333のイオンが成分Aの分子イオンであると推測される。しかしながら、EI法にて得られた質量スペクトルをNISTライブラリデータベースにて検索しても、第一位候補の化学物質でさえそのスペクトルパターンは一致せず(Match:557)、また分子量は333ではなかった。その他の候補に上がった化学物質の中にも分子量333というものはなく、スペクトルパターン、分子量の2点から、この成分はNIST ライブラリデータベースには未登録の成分である可能性が高いと考えられる。そこで各イオンの精密質量を計算し、そこから組成を推定した。
まず分子量は333と奇数が予想されるため、『窒素ルール』より含まれる窒素原子数は奇数個であると考えられる。また推定するにあたり、代表的な液晶同族列から推測される元素種、個数の見当をつけて推定を行った[1]。以下にCI法にて得られた質量スペクトル中のm/z334の精密質量から組成推定した結果を表1に示す。組成推定にあたりエラー値は2mmu以内で計算を行った。②の組成に関して、代表的な液晶同族列の成分で酸素原子を3つ含むものはアゾキシ化合物系とp-アルキル置換安息香酸のp-シアノフェニルエステル系に絞られてくるが、それらの化合物中でフッ素原子を含んだものは報告例がない[1]。そのため、このイオ ンの組成は①の可能性が高く、①の組成式(C22H24NO2)とEI法におけるフラグメントパターンから、その構造を推定した。EI法にて得られた各イオンの組成推定結果を表2に示す。

図2. 成分Aの質量スペクトル

表1.成分AのCI法にて観測された[M+H]+の組成推定結果

実測値 理論値 誤差(mmu) 推定組成式 不飽和数
334.18021 334.18070 -0.49 C22H24NO2 11.5
334.18185 -1.64 C19H25FNO3 7.5
 

表2.成分 A の EI 法にて観測された各イオンの組成推定結果

イオン(m/z) 実測値 理論値 誤差(mmu) 推定組成式 不飽和数
333 333.17432 333.17288 1.44 C22H23NO2 12
195 195.06891 195.06841 0.5 C13H9NO 10
111 111.11872 111.11738 1.34 C8H15 1.5
69 69.07151 69.07042 1.09 C5H9 1.5

表1の①の組成には1つの窒素原子が含まれているが、液晶同族列にはアミノ基(-NH2)やニトロ基(-NO2)の存在する化合物は知られていないことから、この窒素原子はシアノ基(-CN)として成分中に存在していると考えられる。また酸素原子は2つあり、これはエステルを形成していると考えられる。さらに[M]+の不飽和数は12であることから、ベンゼン核は1つないし2つは含まれていると考えられる。これらの点から推測される構造は、図3に示すp-シアノフェニルエステルとシクロヘキサンカルボン酸アリールエステル置換体の2つである。
m/z111はアルキル基の単純開裂にて生じ、m/z69はシクロヘキサン環内での水素転移を伴い生じていると考えられ、これら2つのイオンは構造[Ⅰ]と[Ⅱ]どちらからでも生じ得る。しかし、m/z195は構造上[Ⅱ]からの生成は考え難く、[Ⅰ]にて水素転移を伴ったアルコキシ基の単純開裂により生成していると考えられる。したがって EI 法にて観測されているフラグメントイオンから、成分Aの構造は図3の[Ⅰ]であることが示唆される。

成分 A の予想される構造

図3.成分Aの予想される構造

まとめ

JMS-T100GC"AccuTOF GC"は本質的に、質量精度が高く、質量校正における系統的誤差が少ないという特長を持つ。そのため、"AccuTOF GC"では内部標準イオンが1つあれば精密質量測定が行える。従来機種では難しかったCI法における精密質量を簡単に得ることが出来るので、目的成分の構造解析、定性分析などを高い信頼性で行える。

参考文献

  • 液晶辞典、日本学術振興会 情報科学用有機材料第 142 委員会 液晶部会編、㈱培風館
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