• 概要

直進形電子銃は、真空中で数10~数100kWもの高出力の電子ビームを発生させる電子ビーム源です。幅広長尺フィルムや大面積基板への真空蒸着、または高融点金属の真空溶解用として使用されます。ここでは直進形電子銃の構造や特長、用途について述べます。

1.構造

直進形電子銃は、以下の Fig.1 に示す電子光学系を採用しています。

 

(1) 照射系 : フィラメント、カソード、ウェネルト、アノードからなる構成
(2) 結像系 : ファーストレンズ、セカンドレンズからなる構成
(3) 走査系 : X、Y走査コイルからなる構成  

 
Fig.1 直進形電子銃の電子光学系 概略図
Fig.1 直進形電子銃の電子光学系 概略図
(※30kW型は中間室がなく排気口は1箇所、また結像系はレンズが1つのみ)


照射系は、ボンバード方式を採用しています。ボンバード方式とは、フィラメントの加熱により熱電子を発生させカソードを加熱し、カソードから電子ビームを発生させるものです。このボンバード方式は以下の点で優れています。

(1) 高い電流密度のビームが得られる
(2) カソード面からのエミッションは電子ビームの集束に有利
(3) カソードがディスク形状のためイオン衝撃の影響を受けにくく長寿命

また、フィラメントやカソードをグリッドアセンブリとしてユニット化することで位置決めを簡便化し、メンテナンス性を向上させています。
結像系は、ファーストレンズ及びセカンドレンズを用いてビームを材料表面で集束させる機能を持ちます。
走査系は、X、Y 走査コイルにより、材料表面でビームスキャンを行います。
また、真空チャンバー内の圧力の影響を受けることを避け、安定したエミッション出力を得るために、電子銃室の他に中間室を設け、差動排気を行っています。

2.特長

2.1) 電子ビーム走査制御

直進形電子銃のオプションである偏向制御装置:ST-500DC(H)を用いることにより、材料表面上で様々な電子ビームの走査 (スキャン) が可能です。走査制御パラメータとして、Fig. 2 に示すX 方向の振幅 (XA) 、Y 方向の振幅 (YA) 、電子銃のX, Y軸と試料上のX, Y軸方向を補正するローテーション (X-ROT、Y-ROT) 、停滞時間 (DT) などがあります。

Fig.2 直進形電子銃の走査制御パラメータ
Fig.2 直進形電子銃の走査制御パラメータ


スキャン例として、Fig. 3 に示すようなラインスキャン、ラインスキャンにX-ROTを加えたスキャン、ラインスキャンにYA を加えたスキャンなど、様々なスキャンが可能です。このようなスキャンにより材料表面を均一に加熱したり、逆に照射箇所や停滞時間比を変更して成膜時の膜厚分布補正を行うことが可能です。

Fig. 3  JEBG-3000UB電子銃によるスキャン例
ラインスキャン
ラインスキャンにX-ROTを加えたもの
ラインスキャンにYAを加えたもの
Fig. 3 JEBG-3000UB電子銃によるスキャン例


2.2) 90度偏向コイルを利用したチャンバーレイアウト

90度偏向コイルは、直進形電子銃から出力される電子ビームを偏向させることができます。直進形電子銃をチャンバーに取り付ける際、レイアウトによっては、材料表面に対して電子ビームが斜めに照射される場合があります。その際、材料表面上で電子ビーム径が広がってしまい、電流密度の低下が懸念されます。90度偏向コイルを用いれば、電子ビームをより高い角度で入射させることができ、電流密度の低下を抑えることができます。
Fig.4に90度偏向コイルを利用した設置例を示します。90度偏向コイルを組み合わせることにより、チャンバー側面へ取り付けることが可能になります。
尚、Fig.4のように電子銃を並列させることも可能で、幅広いフィルムへの成膜に有効です。

Fig.4  90度偏向コイルを利用したチャンバーレイアウト例
Fig.4 90度偏向コイルを利用したチャンバーレイアウト例

3. 用途

3.1) 真空蒸着

電子ビームによる蒸着法は、エネルギーの変換効率 (電子ビーム出力を熱エネルギーへ変換) の高いプロセスです。真空中で材料を直接蒸発させ、基板やフィルムに蒸気粒子を堆積させることにより薄膜を形成します。電子ビームは高い出力密度 (ex.104~105 W/cm2) が得られるため、高融点金属や融点の高い酸化物も蒸着ができます。 直進型電子銃は高出力のため、毎秒 1µm 以上等、ハイレートでの成膜が実現可能です。 また、材料の表面 (蒸発面) を直接加熱するため、るつぼを水冷することができ、るつぼ内壁材の混入が避けられます。さらに、ビームの出力や位置、滞留時間を制御できるため、膜厚分布の調整が可能となり、高品質の成膜プロセスを実現できます。
(※抵抗加熱や誘導加熱は、るつぼを加熱する間接加熱となり、るつぼ材の混入や化学反応を伴う場合があります。また瞬間的な温度制御が難しいため、成膜レートの制御には不向きとなります。)

  応用例
  • 保護膜 (プラズマディスプレイパネル)
  • バリア膜 (太陽電池バックシート、包装材料)
  • 電極膜 (リチウムイオン電池、フィルムコンデンサ)
  • 磁性膜 (高密度記録テープ)
  • 導電膜 (電磁波シールド)
  • ホログラム、転写箔

3.2)真空溶解

電子ビーム加熱は、ビームの集束性が強く高いエネルギー密度のため材料を急速・高温に加熱ができ、高融点金属の溶解に用いることができます。真空中で金属を溶融させれば、含有ガス・不純物が蒸発除去されるため、金属を精製することができます。 1台の溶解炉に複数台の電子銃を搭載し、材料供給部、ハース部、鋳型部など照射箇所を分けて使用することも可能です。

  応用例
  • 太陽電池用多結晶シリコン溶解
  • チタン、タンタル、ニオブ、モリブデン等の高融点金属の溶解

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