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ABS樹脂に含まれるDeBDEの熱抽出-GC/MS法による測定 [GC-QMS Application]

MSTips No.51

ポリマーの難燃剤として現在使用されているポリ臭素化ジフェニルエーテル (PBDEs) は生態圏への影響が懸念されており、特に欧州連合 (EU) ではいくつかの PBDEs の使用が規制されています。今回、PBDEsの同族体の中で難燃剤としての利用が最も盛んなデカブロモジフェニールエーテル (DeBDE) を対象に、ABS樹脂中に含まれている濃度を熱抽出−GC/MS法を利用して測定する方法を検討しました。尚、測定には弊社の卓上型 GC/MSのJMS-Q1000GCを使用し、ABS樹脂から DeBDEを熱抽出する前処理装置はフロンティアラボ社のPY-2020Dを使用しました。

ポリマーの熱抽出を行なうにあたり、まずABS樹脂からDeBDEが熱抽出される最適な温度を知る必要がある。更に熱抽出−GC/MS法ではポリマーそのものを分解してしまうとクロマトグラフィーによる分離が難しくなるため、ABS樹脂そのものが分解する温度も知る必要がある。
PY-2020Dには、昇温プログラムを利用してサンプルを加熱し、発生するガス成分をGCの分離カラムを介さずに直接質量分析部で測定する発生ガス分析(EGA)が可能であり、その結果得られるEGA曲線からは主に温度に依存してサンプルから発生するガス成分あるいはサンプル自身の熱分解挙動を観察することができる。そこでDeBDEを10wt.%含有するABS樹脂を表1に示した条件下でEGAで測定し、樹脂からDeBDEが熱抽出される温度とABS樹脂が熱分解する温度を調べた。その結果を図1に示した。図1の実線(——)のEGA曲線は、ABS樹脂から熱抽出されたDeBDEに由来するm/z799の信号であり、破線(-----)はABS樹脂自身が熱分解することにより発生するスチレンモノマー由来のm/z104の信号である。これらEGA曲線から、DeBDEの熱抽出は220°C付近から始まり、またABS樹脂そのものの熱分解は300°C付近から始まることがわかる。これらの結果からABS樹脂に含まれるDeBDEを熱抽出する際の最適な温度は350°Cとした。その他の詳細な測定条件は表2に示した。
次に、DeBDEを含むABS樹脂の標準品を測定して検量線を作成した。標準品に含まれているDeBDEの濃度は、0.1wt.%、1wt.%および10wt.%で、測定の際はそれぞれを約500μg削り取ってサンプルとした。検量線は図2に示した。検量線の直線性の指標である相関係数(R2)は0.9996であり、良好な直線性がた。図3に標準品のうち最も低濃度である0.1wt.%を測定した際のm/z799.38マスクロマトグラムを示した。RoHSにおけるPBDEsの閾値は0.1%(注1)であり、測定結果は、この閾値を十分検出可能な感度が得られていることを示している。以上の結果より、熱抽出−GC/MS法を使用することによりポリマーに含まれるDeBDEを高感度に検出可能であった。
ポリマー中のPBDEsの測定法としては、他に溶媒抽出−GC/MS法が存在するが、前処理に要する時間が長く、何より有機溶媒に難溶なポリマーには適用が難しい等の短所がある。それに比べて熱抽出−GC/MS法は、有機溶媒に不溶なポリマーでも測定が可能であるため、ほとんどのポリマーに対して十分な検出感度が得られると考えられる。

表1. EGAの測定条件

■ PY-2020D条件

加熱炉温度プログラム 

50°C (0分) > 20°C/分 > 800°C (0分) 

インターフェース温度  熱分解炉温度+100°Cで自動制御 
(上限温度を350°Cに設定) 
■ JMS-Q1000GC条件
GCカラム 不活性化処理済フューズドシリカ 
キャピラリーチューブ
長さ5m×内径0.25mm
膜厚なし
オーブン温度プログラム 350°C
注入口温度 350°C
キャリアーガス制御 He、定圧モード、80 kPa
注入モード Split (1:30)
ガスセーバ 未使用
インターフェース温度 350°C
イオン源温度 350°C
フィラメント電流 100μA
イオン化エネルギー 70eV
測定方法 SCAN
SCAN質量範囲 m/z 50~1000
サイクルタイム 10秒
検出器電圧 1,300V

注1 ・・・ この原稿を執筆した2005年10月の時点においてRoHS規制の対象にDeBDEは含まれていません。

図1. DeBDEを10%含有するABS樹脂を発生ガス分析した結果

図1. DeBDEを10%含有するABS樹脂を発生ガス分析した結果

表2. 熱抽出-GC/MS法の測定条件

■ PY-2020D条件

加熱炉温度プログラム

50°C (0分) > 50°C/分 > 350°C (5分) 

インターフェース温度  熱分解炉温度+100°Cで自動制御
(上限温度を350°Cに設定)
■  JMS-Q1000GC条件
GCカラム Agilent DB-5ms
長さ30m×内径0.25mm
0.1μm膜厚
オーブン温度プログラム 90°C (1分) > 20°C/分 > 320°C (5分)
注入口温度 350°C
キャリアーガス制御 He、定流量モード、1.8mL/分 
注入モード Split (1:200)
ガスセーバ 0分、30mL/分 
インターフェース温度 300°C
イオン源温度  300°C
フィラメント電流  100μA
イオン化エネルギー 70eV
測定方法 SIM
モニターイオン m/z 797.38、150msec
m/z 799.38、150msec
m/z 801.38、150msec
検出器電圧 1,300V

図2. DeBDEの検量線

図3. DeBDEを0.1wt.%含有するABS樹脂0.5mgを測定した際の m/z 799.38 マスクロマトグラム

図3. DeBDEを0.1wt.%含有するABS樹脂0.5mgを測定した際の m/z 799.38 マスクロマトグラム

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