• 概要

MSTips No.98

はじめに

FD(Field Desorption 法は試料をエミッター上に塗布し、エミッターに電流を流すことで塗布した試料を加熱し、エミッター表面やウィスカー先端近傍の高電界におけるトンネル効果を利用したイオン化法である。
FD法は、フラグメンテーションが起こりにくく、分子イオンの情報のみを与えるソフトなイオン化法として、難揮発性化合物や高分子ポリマー等の測定に用いられてきた。
今回FD法にてロータリーポンプ(以下RP)オイルを測定し、得られたFD質量スペクトルを用いたタイプ分析を行うことで、オイル劣化に伴う成分比変化を検証した。

測定条件

RP  オイル(左:使用済み、右:未使用)

図1 RPオイル(左:使用済み、右:未使用)

MS:MS-T100GC "AccuTOF™ GC"

測定試料:RPオイル(未使用、使用済みの2種)
FD条件:
カソード:-10kV
エミッタ電流: 0mA → 51.2mA/min → 40mA
測定質量範囲: m/z 50-1,600
スペクトル記録間隔: 0.5s

結果

以下に得られた各RPオイルのFD質量スペクトルを示す。

FD質量スペクトル

図2 FD質量スペクトル

図2に示すように、オイル特有のFD質量スペクトルパターンが得られた。両者を比較すると、若干ではあるがパターンに違いが見られた(未使用RPオイルの方が使用済みRPオイルに比べて、m/z 500前後のイオン量が多い)ので、含有成分比を詳細に検討するべくタイプ分析を実施した。以下にタイプ分析結果を示す。

表1 未使用RPオイルのタイプ分析結果

Series Label Mn Mw Mz PD DPn DPw DPz Percent Series
Total/Average 453.82 483.97 531.27 1.07 25.57 27.73 31.10 100.00
CnH2n+2 447.44 479.98 533.06 1.07 24.78 27.10 30.89 15.47
CnH2n 435.82 462.47 504.05 1.06 24.10 26.00 28.96 23.19
CnH2n-2 451.28 482.02 530.39 1.07 25.34 27.54 30.99 16.70
CnH2n-4 464.22 498.14 551.19 1.07 26.41 28.83 32.61 12.69
CnH2n-6 459.36 486.90 529.76 1.06 26.21 28.17 31.23 18.90
CnH2n-8 478.50 511.38 561.52 1.07 27.72 30.06 33.64 13.06

表2 使用済みRPオイルのタイプ分析結果

Series Label Mn Mw Mz PD DPn DPw DPz Percent Series
Total/Average 446.82 483.77 546.99 1.08 25.05 27.68 32.20 100.00
CnH2n+2 434.74 473.54 544.08 1.09 23.88 26.64 31.68 16.76
CnH2n 425.93 455.81 507.39 1.07 23.39 25.52 29.20 26.43
CnH2n-2 444.90 481.25 543.39 1.08 24.89 27.48 31.91 17.57
CnH2n-4 461.91 506.41 581.41 1.10 26.24 29.42 34.77 12.03
CnH2n-6 458.94 494.97 555.72 1.08 26.18 28.75 33.08 16.65
CnH2n-8 485.15 530.63 603.67 1.09 28.19 31.44 36.65 10.58

今回は不飽和数の異なる各種炭化水素類を用いてタイプ分析を行った。用いた炭化水素類の種類は、CnH2n+2、CnH2n、CnH2n-2、CnH2n-4、CnH2n-6、CnH2n-8、の計6つである。以下に各炭化水素類の含有成分比の違いについて検証した結果を示す。

表3 各RPオイルにおける炭化水素類含有成分比の違い

各RPオイルにおける炭化水素類含有成分比の違い

表3に示すように使用済みRPオイルでは、CnH2n-4、CnH2n-6、CnH2n-8の不飽和数の高い炭化水素類では成分比は減少傾向にあり、一方CnH2n+2、CnH2n、CnH2n-2、の不飽和数の低い炭化水素類は増加傾向にある。これは使用済みRPオイルでは経時変化によって、CnH2n-4、CnH2n-6、CnH2n-8の環状構造が開環した、もしくは二重結合、三重結合が水素付加によって単結合に変化した可能性が示唆される。
また、不飽和炭化水素類の酸化劣化による化合物生成が考えられるが、考えられる酸化化合物と炭化水素類と精密質量が非常に近い値であるため、今回の測定条件で質量分離することは困難であった。このため、不飽和数の低い炭化水素類成分比の増加分と、不飽和数の高い炭化水素類成分比の減少分には、酸化劣化で生じた化合物類の増加が寄与している可能性も考えられる。

以上のように未使用RPオイルと、使用済みRPオイルに対してタイプ分析を行うことで、含有成分比の違いについて明確な差が見られた。

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