電子ビーム蒸着用電子銃
電子ビーム蒸着用電子銃とは

電子ビーム蒸着とは、真空中で電子銃から発生する電子ビームを蒸発材料に照射し、加熱・蒸発させ、基板やレンズ等の被成膜物へ薄膜を形成する方法です。 真空装置内に設置される偏向型電子銃は幅広い分野で使用されており、ここでは偏向型電子銃についてご紹介します。 一方、大型・大出力で高速蒸着が可能な直進型電子銃も、長尺フィルムや大面積基板向けに使用されています。直進型電子銃については技術情報ページをご参照下さい。
電子ビーム蒸着法の概要
偏向型電子銃
真空蒸着装置に内蔵され、電子を発生させ電子ビームとして加速し偏向させる電子銃と、蒸発材料を入れるルツボ(ハース)部に分かれます。 電子銃はEガン,EBガン,E型電子銃とも呼ばれます。
下図に電子ビーム蒸着装置のイメージを示します。

電子ビーム蒸着法の特長
加熱源が電子の運動エネルギーであり、直接蒸発材料を加熱するため、効率が良い。
電子ビームの電力密度は大きく、高融点金属を始め、酸化物や化合物、昇華性物質など様々な材料の蒸発が可能。
電子ビームは、電界や磁界で精度良く制御できる。電子ビームをある一定範囲に高速にスキャンすることができ、蒸発材料に最適な電力密度でビーム照射ができる。
電子ビームは270度または180度偏向されて蒸発材料に照射される。
高真空下(10-2Pa~10-5Pa程度)で使用される。 ※注:超高真空タイプも有り
ルツボや蒸発源を複数用いる事により、1回のプロセスで多層膜の成膜が可能。
成膜方式比較と電子銃の構造
他の成膜方式との比較
スパッタ法やCVD法と比較して、成膜レートが高い。
1µm以上の厚膜作製も容易。
抵抗加熱法や誘導加熱法では蒸発させる事ができない(もしくは難しい)高融点金属や融点の 高い金属酸化物の蒸発が可能。
電子ビームにより瞬時に加熱や出力変更をすることができるため、抵抗加熱法や誘導加熱法で は難しい精密な膜厚制御が可能。
(膜厚コントローラにより所定の膜厚や蒸着レートを制御可能)
水冷銅ルツボ内の蒸発材料を電子ビームで直接加熱するため、蒸発材料はルツボ材質からの汚染の影響を受けない(不純物の混入や合金を作製しない)。※1
抵抗加熱法や誘導加熱法ではボートやルツボと溶着や反応を起こす場合がある。
電子ビーム法の場合も、水冷銅ルツボ内にハースライナーを使用する場合は、ライナー材質と溶着や反応を起こす場合があるので注意が必要。
電子銃構造


フィラメントに通電して加熱し、熱電子を放出させます。
フィラメントにはマイナスの高電圧(通常-4~-10kV)が印加されており、熱電子をアノード間との電圧差で加速します。
飛び出た電子を磁場(永久磁石または電磁石)で偏向させ、ルツボ内の蒸発材料に照射します。
必要に応じてスキャンコイルに電流を流してビームをスキャンさせ、照射エリアを拡大させます。
電子ビーム蒸着の利用分野
用途
1) 光学膜・酸化膜
屈折率の異なる金属酸化物を蒸着し積層することで、反射防止膜や、ある波長帯を透過または反射させるフィルター膜・ミラー膜など、様々な特性の光学薄膜を作製できます。
一例として、ガラス基板に赤外線カットフィルターを成膜したときの特性を示します。
可視光は透過させ、赤外線は反射させます。赤外線(熱線)を透過させないため、コールドフィルターとも呼ばれます。

酸化物薄膜としては、他にも保護膜や絶縁膜、透明導電膜等にも使用されています。
【最終製品例】
眼鏡,カメラ(デジタルカメラ・ビデオカメラ・携帯電話カメラ),液晶プロジェクター,ブルーレイ/DVD/CD機器,半導体レーザー,光ファイバー,ガスバリアフィルム 等
2) 金属膜
パワーデバイスやLED素子などの電極や配線膜を形成するのに、低抵抗な金属材料を蒸着します。
他にも、装飾膜、電磁波シールド膜、硬質膜、反射ミラー等にも使用されています。
【最終製品例】
LED ,半導体レーザー,パワーデバイス,SAW フィルター,有機EL,無機EL,リチウムイオン電池,フィルムコンデンサ,PCや携帯電話等の筐体,時計・宝飾品,工具 等