ESR 測定条件**マイクロ波パラメータの調整**
ER240006
マイクロ波パラメータの調整
マイクロ波発振器から出力されるマイクロ波は主回路と参照回路に分岐されます。主回路上でマイクロ波を検出器(キャビティー)に導入する際、周波数
(Frequency) はキャビティーの共振周波数に設定されます。また反射が最小になるよう結合度 (Coupling) を調整することで損失を回避できます。キャビティー内で生じた信号マイクロ波は、参照回路から来るマイクロ波とともに検波器に導入されますが、その際、参照回路上の位相器 (Phase) を調整することで最適な位相で ESR 信号を検波することが可能となります。
マイクロ波パラメータの調整は ESR 測定の感度に影響する重要な操作であり、ESR測定に先立ってマイクロ波の共鳴周波数 (Frequency)、位相(Phase)、結合度(Coupling) を最適な状態に調整しておく必要があります。
具体的には、Q-Dip screen にてFrequency、Phase、Coupling のボタンやスライダーバーを使って、Q-Dip の先端が深く、また左右対称になるように画面の波形を観察しながら調整します(図 1)。
Q はキャビティーの性能である共振特性を表す因子です。具体的には、キャビティーがどれぐらい効率よくマイクロ波を集めて強くできるかを示しています。Q の数値は、キャビティー内に蓄えられたエネルギーとその壁やその他の要因によって消費されたエネルギーの比から算出されます(Q= ν0/ Δν) 。
測定例
TEMPOL のベンゼン溶液(1x10-6 mol/L)を用いて、同じ ESR 測定条件にて Q-Dip の調整の違いによる ESR 信号の変化を観測しました(図 2)。下記の (1) ~ (4) の状態で測定して比較した結果、(1) が他と比べて感度良く ESR 測定ができていることがわかります。
(1) Microwave Power を 0 ~ 200 mW まで変えた時に、Phase が最小で Detector current が 0 mW の時と同じ状態を保つように調整しました(Just coupling)。
(2) Just coupling から Coupling を Over coupling の状態に調整しました。
(3) Just coupling から Phase を反転した状態に調整しました(図 3 (D) のような状態)。
(4) Just coupling から Frequency を数 MHz 動かした状態に調整しました。
図 2. Q-Dip の調整の違いによる ESR 信号の変化
マイクロ波パラメータの調整が難しい場合
試料によっては、Q-Dip の確認が難しい場合や、Q-Dip の確認ができても Microwave Power の投入に伴いDetector current が大きく変動してマイクロ波を調整しきれない場合もあります。主に下記のような要因があります。
溶液試料:溶媒の誘電損失
固体試料:固有の電気伝導性、誘電損失、含有水分量など
そのような現象が確認された際には、マイクロ波のロスが大きい試料である可能性もあるため、試料管や試料の採取量を再度検討してください。試料の調整については、アプリケーションノート(ER230004,
ER230005,ER230006,ER230009)をご参照ください。
マイクロ波のマニュアル調整手順
マイクロ波のマニュアル調整は以下の手順で行います。
① ESR 測定画面にて、Microwave Power を 1 mWの状態で Q-Dip screen を開く(図 3 (A))。
② [REF] ボタンを OFF にし、Q-Dip の先端が画面の中心位置に合うようにFrequencyを調整する(図 3 (B)) 。
③ Q-Dip がより深くなるように Coupling を調整する(図 3 (C)) 。
④ [REF] ボタンを ON にして、Q-Dip が左右対称になるように Phase を調整する(図 3 (E)) 。
※[REF] ボタンを ON にした際に、図 3 (D) のような状態になった場合は、図 3 (E) のように調整してください。
⑤ [AFC] ボタンを ON にして、Microwave Power を 0 mW にする (図 3 (F)) 。その際の Detector current の値を覚えておく(図 3 (G)) 。
⑥Microwave Power を 1 mW にした時に、0 mW の時と Phase と Detector current の値が変化がないことを確認する。
■変化がある場合(例えば、図 3 (H) )
Phase と Coupling を調整して、Phase は最小に、Detector current は 0 mW の時と同じ状態にする(図 3 (G)) 。
■変化がない場合
Microwave Power を徐々に上げていき、変化が現れたら Phase と Coupling を調整する。
⑦ 目的の Microwave Power まで Phase と Coupling を調整した後、1 mW に戻し、[CLOSE]ボタンを押す。
⑧ ESR 測定条件を設定して測定を開始する。
Microwave Power は ESR 測定に使用する値より大きい値まで調整できていれば問題ありません。
最大 200 mW までマイクロ波を調整をすることで、Just coupling となり高感度での ESR 測定が可能です。
[MOD]ボタン:周波数を振って Q-Dip を表示します。
[AFC]ボタン:キャビティーの共鳴周波数を固定します。
[REF]ボタン:参照マイクロ波を ON / OFF にします。
図3. Q-Dip の調整画面