試料調整 ①
ER230004
固体試料のサンプリング

図 1. キャピラリーチューブでのサンプリング例
固体試料では、固有の誘電損失や電気伝導性あるいは含有水分量などの影響を受ける場合、試料量や適切な試料管を選択してサンプリングする必要があります。それらの影響が大きい場合、試料にマイクロ波電流が流れてマイクロ波パワーを損失させます。その際には、試料をそれらの特性が減少する極低温にするか、少量を標準試料管や径の細い試料管に入れて用いることをお勧めします。含有水分量が多い場合は、試料を乾燥させて標準試料管や径の細い試料管を用いたり、生体組織などの試料はティッシュセル (ES-LC20) のステージに試料を置きカバーをして測定することもできます。粘性の高い試料の場合、(A) のように先端に取り、それを試料管に入れて使用します。塗料のように乾燥する試料では、(B) のようにキャピラリーチューブの表面に塗って乾燥させそれを試料管に入れて測定できます。
固体試料の ESR 測定例 - DPPH (粉末)
遊離基(フリーラジカル)には不安定で反応性に富むものから、反応性の少ない安定なものまでさまざまあります。一般的にフリーラジカルの反応性は特定原子上の不対電子密度に依存します。不対電子が分子内の多数の原子上に非局在化していて、特定原子上の不対電子密度が少ないようなフリーラジカルは安定です。一方で、不対電子が分子の特定原子上に局在しているようなフリーラジカルは不安定になります。そのため、その物質は安定でも他の活性なフリーラジカルが接近した場合には反応して共有結合を作ります。
図 2 に有機物のフリーラジカルの中で安定なジフェニル・ピクリル・ヒドラジル(DPPH)の粉末の ESR 信号を示します。この試料は線幅が鋭く、スピン量や g 値の決定に用いられています。室温にてg=2.0036 付近に 1 本線の ESR 信号を与えます。この試料はほぼフリーラジカルとして市販されており、ごく少量(数 mg)でも明瞭な ESR 信号が観測されます。
図 2. DPPH の ESR 信号