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ガスクロマトグラフ -高分解能TOFMS と統合データ解析ソフトウエア msFineAnalysis AI を用いたワイン香気成分の2検体比較について

MSTips No. 449

はじめに

JMS-T2000GC AccuTOF™
GC-Alpha

ワインに代表される香りが重視されるアルコール飲料は、その味わいに「香り」成分が大きく関与していることが知られている。ワインにはその産地に限らず、ワインに共通した香りが存在する一方で、ワインの原料となるブドウの品種や製造産地によってその味・香りが大きく異なる。特にワインの場合、産地による味わい・香りの違いが良く議論されることもあり、その違いにどのような化学物質が寄与しているかは興味のあるところである。
香気成分のみならず、揮発性の高い化学物質をより効率高感度で測定する方法として、マイクロ固相抽出 (SPME) とガスクロマトグラム質量分析計 (GC-MS) を組み合わせる方法が広く用いられている。
そこで、今回、フランスワインの2大産地として代表的なボルドーとブルゴーニュの2種類の赤ワインについて、その香り成分の比較を行い、各々のワインに特有な化学成分の検出同定を試みた。また、各々のワインに特異的に含まれている化学物質を同定することを目的とし、香気成分の GC-MS 分析には、電子イオン化法 (EI法) とソフトイオン化法の一つである光イオン化法 (PI法) を組み合わせ、さらにそれらの測定データを統合して解析可能な msFineAnalysis AI ソフトウエアを用いて、それぞれのワインに特異的な成分の探索及びそれらの同定を試みたので、その結果を報告する。

実験

スーパーマーケットで一般的に購入できる代表的なボルドー産・ブルゴーニュ産の2種類の赤ワインをテストサンプルとして用いた。 
容器から取り出したワイン2 mLを15 mLのガラス容器に入れ直ちに密栓した。そのガラス容器のヘッドスペース部分にマイクロ固相抽出 (SPME) を挿入し、室温で20分間抽出を行った後直ちに GC の注入口にて抽出成分を熱脱着させそのまま GC-MS で測定した。
測定には、日本電子 (株) 製高性能ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計 JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha を用いた。また、2種類の香気成分の比較には、同社製データ解析ソフトウエア、msFineAnalysis AI を用いた。 SPME-GC-MS による測定条件は Table 1 に示した。なお、2種類のサンプルの差異分析を行うためEIイオン化での測定は、各々3回行い、測定回数 n=3 における差異分析を実施した。 

Table 1. Measurement condition

GC Condition
MS Condition, SPME Condition

結果

ボルドー・ブルゴーニュ それぞれのワインの香気成分をEIイオン化にて測定した結果、得られたTICCをFig 1に示した。また、ボルドー産ワインを Sample A (青) とし、ブルゴーニュ産ワインを Sample B (赤) として、差異分析を実施した結果、得られたボルケーノプロットをFig 2 に示した。msFineAnalysis AI では、差異成分の特定を容易にするため、2サンプル間における強度比 (Log2 (B/A)) を横軸tに、統計的再現性 (-log10 (p-value))を縦軸に採用したボルケーノプロットを描画している。よって、Fig. 2 に示した青色を背景とした領域にプロットが存在するものはSample Aに特徴的で、逆に、赤色を背景とした領域のものはSample Bに特徴的であることを示している。

Fig.1

Fig.1 TICC with EI for Sample A (Blue) and B (Red)

Fig.2

Fig.2 Volcano plot of Bordeaux (Blue) vs. Bourgogne (Red)

Table 2. Integrated qualitative analysis results for the characteristic compounds for Sample A (Bordeaux) and Sample B (Bourgogne)

Table 2

Sample AおよびBそれぞれに特徴的な成分をTable 2 に示した。ボルドー産ワインに特徴的な9種の化合物及びブルゴーニュ産ワインに特徴的な5種類の化合物、合計14種類の推定化合物のうち8種類の推定化合物については、いずれかのイオン化法で分子イオンが検出されており、その精密質量数が推定化合物の精密質量とよく一致していることがわかる。また、EIマススペクトルのフラグメントイオンの精密質量数から得られた化学組成と推定化合物の化学組成の同一性を示すEI Fragment Coverageの値も非常に高い値であることから、単純なライブラリサーチ結果よりも確度の高い同定結果を得ることができている。
ワインの香りを特徴づける物質としては「カルボン酸エステル」のエステル香が知られている。今回の差異分析の結果、双方のサンプルに共通して検出されている物質としては、低級脂肪酸のメチル・エチルエステルが多く含まれており、ワインの香りにはこれらのエステル香が大きな役割を果たしていることがわかる。Fig. 3及びFig.4に示したのは、双方のワインから共通して検出された成分「Hexanoic acid, ethyl ester」のEI・PI測定時のTICCの比較表示、及び同化合物のボルケーノプロット上での位置である。msFineAnalysis AI の2検体差異分析では、検出された個々のピークを個別に確認することが可能であり、より詳細なデータ解析が可能となっている。

Fig.3

Fig.3 TICC of EI and PI for Hexanoic acid ethyl ester detected in Sample A and Sample B

Fig.4

Fig.4 Relative position of Hexanoic acid ethyl ester in Volcano plot

Fig.5

Fig.5 TICC of EI and PI for 3, 4, 4a, 5, 6, 7-hexahydro-1, 1, 4a-trimethyl-2(1H)-Naphthalenone detected only in Sample B (not in Sample A)

Fig.6

Fig.6 Mass spectrum of 3, 4, 4a, 5, 6, 7-hexahydro-1, 1, 4a-trimethyl-2(1H)-Naphthalenone detected in Sample B

一方で、同じ脂肪酸のエステルであっても比較的炭素数の多い脂肪酸のエステル類がブルゴーニュ産ワインに特徴的な物質として検出されている点は興味深い。また、ボルドー産ワイン中のPropylene GlycolやMethyl salicylate、ブルゴーニュ産ワインに特徴的な 3, 4, 4a, 5, 6, 7-hexahydro-1, 1, 4a-trimethyl-2(1H)-Naphthalenone のように、片方のワインからのみ検出される化合物が見い出された。3, 4, 4a, 5, 6, 7-hexahydro-1, 1, 4a-trimethyl-2(1H)-Naphthalenone についてのEI・PI測定におけるTICCをFig.6に示した。検出されたピークはEI測定でのTICCにおいて隣接ピークのショルダーの形で検出されているが、msFineAnalysis AI のデコンボリューションの結果明確なピークとして検出されている。またPI測定のTICC上では明確なピークがブルゴーニュ産ワインからのみ検出されており、この物質が今回測定に用いたブルゴーニュ産のワインに特徴的に含まれる物質であることが示唆された。同ピークに対して得られたEI・PI測定でのマススペクトルをFig.6に示した。 
今回、双方のワインに特徴的に見いだされた成分の種類は14種類であったが、これらの化合物が双方のワインの香り・味わいに何らかの寄与を果たしていることが示唆された。

結論

本MSTipsでは、msFineAnalysis AIの差異分析機能を用いた異なる産地のワイン香気成分差異分析例について紹介した。本機能により、サンプル間の差異成分と共通成分を容易に抽出することができ、各成分の定性も容易に行うことが可能であった。msFineAnalysis AIを用いることで、GC-TOFMSを用いた定性解析の定性確度向上や効率的な解析作業が期待される。

 

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