GC-MS Application: HS/GC/MSを用いた硬化エポキシ系接着剤中の揮発成分分析

  • 概要

MSTips No.217 奥田 晃史、草井 明彦
日本電子株式会社

 電子イオン化(EI)法は、ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)において最も使用頻度の高いイオン化法である。EI法は、高感度、高再現性、およびライブラリー検索による化合物推定が行えるなどの特長を持つ。しかし、EI法では通常70eVのエネルギーを持つ電子を用いて測定するため、有機分子のイオン化エネルギーに対して過剰なエネルギーを与える。このため、生成したイオンが壊れやすく、熱分解などを伴うことから分子イオンが観測されない場合が多い。分子イオンの観測は化合物の確認を行う上で重要なため、ソフトイオン化法の併用が必須となる。
 日本電子では、ソフトイオン化法の1つである光イオン化(PI:Photoionization)法を可能とするイオン源を実用化している。PI法は一般的な有機分子のイオン化エネルギー付近のエネルギーをもった光子をサンプルへ照射しイオン化するため、イオン化過程における分子の開裂が起こり難く、分子イオンが生じやすいイオン化法である。
 本報告では、硬化したエポキシ系接着剤から発生する揮発性化合物をヘッドスペース/GC/MS(HS/GC/MS)法で測定したので、その結果を報告する。

測定条件

 エポキシ系接着剤を121℃、1時間で硬化し、これを測定に供した。測定条件はTable1に示す。

【Table1 Measurement conditions】
Measurement conditions

測定結果と考察

 測定で得られたTICクロマトグラムをFig.1に示した。ここで、各ピークのEIマススペクトルをライブラリ検索し、検索結果の類似度が最大で、かつ妥当と考えられる化合物の構造式を図中に示した。

TIC chromatograms with EI (top) and PI (bottom)
【Fig.1 TIC chromatograms with EI (top) and PI (bottom)】

 Fig.1で示したEI法でのTICクロマトグラム上に検出された各ピークに対するEI法およびPI法で得られた質量情報をTable2にまとめた。ピーク番号、保持時間(R.T.)と、ライブラリ検索結果から類似度が最も高い化合物名とその化合物情報、およびPI法で検出されたイオンのm/z値とその帰属を示している。なお、類似度が最も高い化合物のノミナル質量とPI法で検出されたイオンのm/z値が一致した化合物は、表中に太字で示した。

【Table2 Analytical results of epoxy adhesive】
Analytical results of epoxy adhesive

【Fig.2 Mass spectra of 1-methoxy-2-propylacetate (C6H12O3)】 【Fig.3 Mass spectra of 2,3-dihydro-1H-indene (C9H10)】

 エポキシ系接着剤からの発生ガスに含まれる化合物の多くは、芳香族化合物(ピーク番号3~8, 10~15)であった。一例としてピーク番号9のEIおよびPIマススペクトルをFig.3に示す。ピーク番号9 の化合物はライブラリ検索結果からではその化合物構造の推定はできなかったが、化学式は妥当と考えられた。また、PI法による測定結果では類似度が最も高い化合物のノミナル質量と同じm/z値のイオンが検出された。ピーク番号2(Fig.2)はライブラリ検索により1-methoxy-2-propyl acetateが最も類似度の高い化合物であったが、PI法で検出されたイオンはこの化合物のノミナル質量とは異なる結果だった。酢酸エステル類は10eV以上のイオン化エネルギーの化合物が多いため、この化合物においてはPI法では分子イオンが検出されなかったと考えられる。

まとめ

 今回測定した接着剤硬化物について、PI法により検出されたイオンはEI法によるライブラリ検索から推定された化合物のノミナル質量とよく一致しており、PI法は分子イオンの確認に有用なイオン化法であることがわかった。
 分子イオンが検出されない化合物もあったが、ほとんど化合物で分子イオンが確認でき、このPI法の測定結果はライブラリの照合結果を精査する上で有用な情報を与えた。PI法により検出される分子イオンがEI法でのライブラリ結果を補完できるため、EI法とPI法の両方を用いた定性分析を行うことで、より確度の高い化合物の推定が行えることがわかった。

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