MALDI Application: SpiralTOF™ を用いたSolvent-free法による低分子量 ポリエチレンの分析

  • 概要

MSTips No.235 日本電子株式会社 MS事業ユニット

マトリックス支援レーザー脱離イオン化 (MALDI) は、主に1価イオンが生成するため、分子量分布をもつ合成高分子であっても理解しやすいマススペクトルが得られる。そのため、繰り返し構造の推定・末端基の推定・分子量分布の確認といった合成高分子のキャラクタリゼーションにおいて強力なツールとなっている。MALDI では、その名が示すとおり、イオン化促進剤として機能する有機化合物 (マトリックスと呼ばれる) を使用する。また、合成高分子など極性が低い化合物の分析では、カチオン化剤を用いることもしばしばである。一般的にはマトリックス溶液、カチオン化剤、試料溶液を混合し、1μL程度ターゲットプレート上に滴下・風乾させることで共結晶を作成する。その上に紫外レーザーを照射することで、試料由来の成分をソフトにイオン化することができる。溶液を混合することから、マトリックス、カチオン化剤、試料が同一溶媒に溶解できることが望ましい。言い換えれば、不溶性・難溶性試料を MALDI でイオン化するためには、工夫が必要となる。これまでに不溶性・難溶性試料を、溶媒を使わずに MALDI で測定するための手法についてはいくつか報告がなされている[1-4] (Solvent-free法と呼ぶ)。本報告では、これら文献を参考に、高質量分解能MALDI-TOFMS JMS-S3000 SpiralTOF™ を用いて、難溶性ポリマーの1つである低分子量ポリエチレンの分析を試みたので紹介する。

実験

試料: Polyethylene analytical standard, for GPC, 1,000 (Sigma aldrich PN 81219) (PE1000)
マトリックス: DCTB
カチオン化剤: トリフルオロ酢酸銀(AgTFA)
調製: PE1000, DCTB, AgTFAの粉末をメノウ製の乳鉢でよく混合し、スパチュラを用いてターゲットプレート上に押し付け固定した(※)。(Fig.1イラスト参照)
測定: JMS-S3000 SpiralTOF™ を用いて、SpiralTOF 正イオンモードを用いてマススペクトルを取得した。

Solvent-free sample preparation.
Fig.1 Solvent-free sample preparation.

(※)試料粉末の押し付け方が弱い場合には粉末が飛散し装置内部を汚染する恐れがあるため実験には注意が必要である。
 

結果

PE1000のマススペクトルをFig.1に示す。[H(C2H4)nH + Ag]+m/z 1000を中心に観測することができた(Fig.2a)。またFig.2bには、[H(C2H4)nH + Ag]+( n=28~30 )が観測されている m/z 890~960の拡大図を示す。それぞれのピークの間隔は、C2H4の質量 28.031 uと±0.001 uの質量誤差でよく一致している。各ピークの質量分解能は概ね50,000以上が得られている。本報告で使用した方法では、マトリックス・カチオン化剤・試料を混合した粉末をターゲットプレート上に押しつけて固定する。そのため、マトリックス・カチオン化剤・試料の混合溶液をターゲットプレート上で滴下・風乾させる方法よりも測定対象の凹凸は大きくなる傾向にある。それでも高質量分解能・高質量精度でマススペクトルの取得が可能なのは SpiraTOF™ の特徴であるといえる。

Mass spectrum of PE1000. Distribution of [ H ( C2H4)n H + Ag ]+ was observed around m/z 1000.
Fig. 2 Mass spectrum of PE1000. Distribution of [H(C2H4)nH + Ag]+ was observed around m/z 1000.

参考文献

  • R. Sketlton, F. Doubois, K. Zenobi, Anal. Chem. 72 (7) (2000) 1707–1710
  • L. Przybilla, J. D. Brand, K. Yoshimura, H.J. Räder, K. Müllen, Anal. Chem. 72 (2000) 4591–4597
  • A. Marie, F. Fournier, J.C. Tabet, Anal. Chem. 72 (2000)5106–5114
  • S. Trimpin, A. Rouhanipour, R. Az, H.J. Räder, K. Müllen, Rapid Commun. Mass Spectrom.15 (2001) 1364–1373

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