熱分解GC-MSによる酢酸ビニル樹脂 2検体間の詳細比較 - 分散分析 Volcano Plotを用いて - [GC-TOFMS Application]

はじめに

質量分析装置の高性能化に伴い、今まで観測できなかった微量成分や未知成分を分析できる時代がはじまっている。得られる情報量が増える一方で、観測された数多くの成分を簡便に分析する手法を望む声は多く、多変量解析をはじめとする網羅的解析の需要と必要性が高まっている。
本報では高分解能型GC-TOFMSを用いて、GC-MS分析ではもっとも広く用いられているイオン化法であるEI法により得られたデータをもとに、２種類の試料の比較を網羅的解析手法により試みたのでその結果について紹介する。

測定方法

モデル試料として市販の酢酸ビニル樹脂（接着剤）6種を用いた。測定には、ガスクロマトグラフ-飛行時間型質量分析計 (GC-TOFMS)を用いた。接着剤のようなエマルジョン試料はそのままでは測定が困難なため、試料前処理装置として熱分解装置を使用した。また、通常用いられるGCカラムよりも短いカラムを用い、オーブン昇温速度を速めることで測定時間の短縮が可能なFast GC法を今回採用した。
得られたデータをAnalyzerPro（SpectralWorks社製）を用いて解析し、Volcano Plotによる2検体比較を行った。熱分解Fast GC/TOFMS条件をTable1に示す。

Table1 Measurement condition
[Py-GC-TOFMS condition]

結果

MSTips243では6種類の酢酸ビニル樹脂をPCA分析したが、今回はTICパターンが比較的似ていた試料Cと試料F、MSTips243に示したPCA分析では明確に分離することができなかった試料Aと試料C (Fig.3参照)、それぞれの2検体間での比較をVolcano Plotを用いて行った。Volcano Plotでは2検体間の差となっている個別の成分を、再現性を含めた形で表現することが可能である。Volcano Plotの特徴、見方は以下の通りである。

[Volcano Plot]

• 横軸に検体間の強度比の対数、縦軸に分散分析のp値の対数の負の値を採用したプロット。
• 各点は、１つ１つの成分に該当する。
• プロット上で縦軸の値が大きい点 (成分) ほど差の再現性がある成分とみなせ、横軸の絶対値が大きい点 (成分) ほど検体間の強度比が大きい成分とみなせる。
• Fig.1、2のプロットでは一般的に有意水準とされる5% (p=0.05) を超えた点を緑色で表現している。
• 図中両脇に一直線上に並んでいて□で表記されている成分は、各々のサンプルでのみ観測された成分を示している。

Fig.1に試料CとFのTICクロマトマトグラムとVolcano Plotを示す。試料CとFは共通成分が多いが、共通成分は全て試料Fの方が多く含まれていた。CとFはかなり似た成分を有しているものの、添加剤などの含有成分量に差があることが示された。 Fig.2に試料AとCのTICクロマトマトグラムとVolcano Plotを示す。試料AとCは共通成分は少なく、各々独自の成分が多いことが示された。
分散分析結果を用いるVolcano Plotでは、2検体間の詳細な差異分析を行うことが可能であった。2検体間の差となっている特徴的な成分を、横軸 (強度比)と縦軸 (再現性)から即座に知ることが可能であった。Volcano Plotは2検体比較に有用なツールであると言え、特徴成分抽出に有効な手法であった。

Fig.1　TIC chromatograms and Volcano plot for the sample C and F.

Fig.2　TIC chromatograms and Volcano plot for the sample A and C.

Fig.3　PCA score plot for Polyvinyl acetate samples.

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