MALDI Application: JMS-S3000 "SpiralTOF™"とTOF-TOFオプションを用いた高分子材料に含まれる添加剤の高エネルギー衝突誘起解離による構造解析

  • 概要

MSTips No.254

はじめに

高分子材料には、酸化防止剤・光安定剤・紫外線吸収剤など様々な添加剤が使用されている。添加剤の種類によって、得られる高分子材料の特性が変わるため、原料に含まれている添加剤の種類の把握が重要となる。マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間質量分析計(MALDI-TOFMS)JMS-S3000 "SpiralTOF™"は高分子分析に広く利用されており、その特徴である高エネルギー衝突誘起解離(CID)測定による添加剤の構造解析においても有用である。SpiralTOF™は、17mのらせん軌道を実現し、高いプリカーサイオン選択能を実現できる。またらせん軌道を構成する4つの扇形電場によりポストソース分解由来のイオンを除去できるため、高エネルギーCID由来のフラグメンテーションが観測できる。本報告では、BASF社製IRGANOX 1076の M+・と[M+Na]+のプロダクトイオンスペクトルを比較しながら、得られる構造情報について検討したので報告する。

実験方法

試料は、市販の添加剤キットから、IRGANOX 1076を10 mg/ml THF溶液とし用いた。マトリックスには、2,5-ヒドロキシ安息香酸(DHB) 20 mg/ml THF溶液を用いて、MALDIスペクトルを測定した。マススペクトルで確認されたイオン種全て(M+・, [M+Na]+)について高エネルギーCID測定を行い、そのプロダクトイオンスペクトルを取得した。

結果

添加剤IRGANOX 1076のマススペクトルをFigure 1に示す。分子量を反映するイオン種は、m/z 530 に M+・m/z 553 に [M+Na]+ が観測された。2種類のイオンのモノアイソトピックイオンを選択し、プロダクトイオンスペクトルを取得した。

Mass spectrum of IRGANOX 1076

Figure 1 Mass spectrum of IRGANOX 1076

Figure 2-aにm/z 530 M+・、Figure 2-bにm/z 553 [M+Na]+の高エネルギーCIDによるプロダクトイオンスペクトルを示す。イオン種によりフラグメンテーションの起りやすい結合部分などの違いがみられた。赤点線・赤実線で示したm/z 219より低質量側に観測されたイオンは、M+・と[M+Na]+で共通して観測されているため、Naを含まないフラグメントイオンであると推定される。特に、m/z 219のピークは、tert-ブチル基(t-Bu)の付いたフェノール側からのフラグメントイオンであると推定された。青線で示したピークはM+・と[M+Na]+で23uの差があることから、同じ結合部位で切れたフラグメントイオンが観測されていることがわかる。さらに[M+Na]+のプロダクトイオンスペクトルには、m/z 320~540に14u間隔のピークが観測された。これらは、高エネルギーCIDに特徴的なチャージリモートフラグメンテーションによるアルキル鎖切断に由来するピークである。14u間隔で規則的にピークが観測されていることから、アルキル鎖に不飽和結合がないことが示唆される。

まとめ

マススペクトルに観測される同一化合物の異なるイオン種のプロダクトイオンスペクトルをそれぞれ取得することは次の点で有効である。プロダクトイオンスペクトルに現れるピークの質量差を比較することで、フラグメントイオンのイオン種を推定でき、構造解析の一助となる。また、[M+Na]+からは高エネルギーCIDに特徴的なチャージリモートフラグメンテーションもアルキル鎖など特徴的な部分構造を推定できる。

Product ion spectra of IRGANOX 1076 with different ion species

Figure 2 Product ion spectra of IRGANOX 1076 with different ion species, a: m/z 530 M+・ b: m/z 553 [M+Na]+.

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