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JMS-S3000 "SpiralTOF™" とTOF-TOFオプションによるメラトニンと関連化合物の構造解析 [MALDI Application]

MSTips No.256

はじめに

マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)は、イオン化促進剤としてマトリックスと呼ばれる低分子化合物を用いる。MALDIはリフレクトロン型飛行時間質量分析計(TOFMS)と組み合わせて用いられることが多いが、一般的にm/z 500以下の低分子量有機化合物の測定が困難とされている。その理由は、 MALDIでは目的化合物だけではなくマトリックスやその他夾雑成分もイオン化されるためである。低分子領域においては、マトリックスや夾雑成分のピークと目的化合物のピークが混在するが、リフレクトロン型TOFMSは質量分解能が不十分なため、それらを分離することが困難である。また、MALDIでは、ポストソースディケイ(PSD)由来のシグナルもバックグランドイオンとして観測されるためより解析を困難にする。JEOL特許技術であるらせん軌道型イオン光学系をもつ、JMS-S3000 "SpiralTOF™"は、17mと長い飛行距離を持ち、高質量分解能を実現できる。また、イオン光学系を構成する扇形電場によりPSD由来のイオンを排除できるため、バックグランドノイズの影響が低いマススペクトルの取得が可能である。これら特徴により、低分子領域においても精密質量測定が可能である[1]。低分子化合物においては、目的化合物と類似構造をもつ化合物の分析も目的となることが多く[2]、MS/MS解析による構造解析が有効となる。SpiralTOFのTOF-TOFオプションを組み合わせると、高質量選択能によりプリカーサイオンのモノアイソトピックイオンのみを選択でき、高エネルギー衝突誘起解離による情報量豊富な開裂経路が観測できる。本報告では、メラトニン、その代謝物である5-メトキシトリプタミン、セロトニンからメラトニンの合成中間体であるN-アセチルセロトニンのMS/MS解析について報告する。

実験

試料には、メラトニン、5-メトキシトリプタミン、N-アセチルセロトニンの標準試薬を用いた(Fig. 1)。それぞれを1mg/mLのメタノール溶液として調製した。マトリックスには、2,5-ヒドロキシ安息香酸(DHB)のメタノール溶液を用いた。サンプル溶液とマトリックス溶液を1:1 v/v で混合し、ターゲットプレートに1uL滴下・風乾した。プロダクトイオンスペクトルはTOF-TOFモードの正イオンモードを用いて取得した。

メラトニン C13H16N2O2
メラトニン C13H16N2O2
5-メトキシトリプタミン C11H14N2O
5-メトキシトリプタミン C11H14N2O
N-アセチルセロトニン C12H14N2O2
N-アセチルセロトニン C12H14N2O2

Fig. 1 Structural formulae of melatonin, 5-methoxytryptamine and N-acetylserotonin

結果

Fig. 2にメラトニン、5-メトキシトリプタミン、N-アセチルセロトニンそれぞれの[M+H]+のモノアイソトピックイオンをプリカーサイオンとして選択したプロダクトイオンスペクトルを示す。全体的なスペクトルのパターンは似通っているので類似構造をもつ化合物であることが推定される。その中でメラトニンと5-メトキシトリプタミンにのみに観測されているm/z 174、メラトニンとN-アセチルセロトニンにのみ観測されている低質量領域のm/z 43が特徴的である。Fig.3に3つの化合物の開裂経路を示す。m/z 174uのピークは、メラトニンおよび5-メトキシトリプタミンではそれぞれ、C2H5NO, NH3が脱離して同じ構造のフラググメントイオンとなったものである。N-アセチルセロトニンではC2H5NO脱離したピークは、m/z 160に観測されている。m/z 43のピークは、C2H3O+に相当し、メラトニン、N-アセチルセロトニンの共通の構造に由来する。

Product ion spectra of melatonin, 5-methoxytryptamine and N-acetylserotonin

Fig. 2 Product ion spectra of melatonin, 5-methoxytryptamine and N-acetylserotonin

Fragmentation channels of melatonin, 5-methoxytryptamine and N-acetylserotonin

Fig. 3 Fragmentation channels of melatonin, 5-methoxytryptamine and N-acetylserotonin

まとめ

以上のように、"SpiralTOF™"とTOF-TOFオプションを用いて取得した、高エネルギー衝突誘起解離のプロダクトイオンスペクトルを解析することにより、類似構造をもつ低分子化合物の解析が可能である。特に今回示した解析結果では、アセチル基の脱離にともなうm/z 43の出現の有無により置換基の末端部分の解析が可能であった。

参考文献

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