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熱分解GCxGC-MSを用いたエチレン・プロピレン・ジエンゴムの定性分析 [GC-TOFMS Application]

MSTips No.273

はじめに

第5世代のGC-TOFMS、JMS-T200GC AccuTOF GCx-plusは、GC-MSで一般的に使用される電子イオン化(EI)法の他に、電界イオン化(FI)法、光イオン化(PI)法といった多彩なイオン化法を用いた測定が可能な高分解能GC-MS装置である。
FI法は、イオン化される際に与えられるエネルギーが1eV以下程度であると言われ、イオン化された分子イオンの内部エネルギーはEI法に比べてかなり低い。そのため、フラグメンテーションが起こりにくく、ソフトなイオン化法に分類される。特に飽和炭化水素化合物のような極性が低い化合物に対しても分子イオンを検出できるイオン化法である。
PI法は、イオン化室内に真空紫外(VUV)光を照射し、8~10eV程度の光エネルギーを試料分子に与えてイオン化する方法である。一般的な有機化合物のイオン化エネルギーは8~11eVであるため、イオン化する際の内部エネルギーが低くフラグメントイオンの生成を抑制できるソフトなイオン化法に分類される。
本MSTipsでは、熱分解GCxGC-MS法と上記3つのイオン化法を用いてエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)の定性分析例について紹介する。

結果

熱分解GCxGC/TOFMS条件をTable1に示す。
はじめに熱分解法とGCxGCを組み合わせた方法の高い分離能を評価するために、通常の「熱分解 1DGC」と「熱分解 GCxGC(2DGC)」のピーク分離についてEIイオン化のデータにおいて比較検討した。Fig.1に熱分解 1DGC と熱分解 GCxGC(2DGC) のTICクロマトグラムを示す。熱分解1DGC では多くのピークが共溶出しているため、各ピークの成分を正確に同定することは困難であった。一方、熱分解GCxGC(2DGC)データでは、1次元カラムでは共溶出している成分も2次元カラムにより分離することができた。今回測定したEPDMの熱分解 2DGC データを自動解析したところ、1,023成分が検出された。

Table 1 Measurement condition

[Pyrolysis condition]
Pyrolysis Temp. 650°C
[GCxGC condition]
1st column BPX5(SGE), 30m x 0.25mm, 0.25um
2nd column BPX50(SGE, 2m x 0.1mm, 0.1um
Oven temp. 50°C (1 min) → [5°C/min] → 320°C (10 min)
Inj. Temp. 300°C
Inj. Mode. Split mode (100:1)
Column flow 1.8 mL/min
Modulation period 5 sec
[MS condition]
Ion source EI/PI combination ion source
EI/FI combination ion source
Ionization EI+, 70 eV, 300 uA
PI+, D2 lamp: 115-400 nm
(10.8 eV@115 nm)
FI+, -10 kV, 8mA/10sec
Mass range m/z 35-650
Comparison of the 1DGC and 2DGC TICCs

Fig.1 Comparison of the 1DGC and 2DGC TICCs

Fig.2に熱分解GCxGC/EI、PI及びFIのTICクロマトグラムを示す。EIデータのみならず、PIデータ、FIデータでも良好なピーク分離を確認することができた。Fig.3にはNISTライブラリーサーチし同定できた成分を示しているが、それら以外の多くの成分でマッチファクタースコアが低く、ライブラリーデータベースに未登録の未知成分であると推測された。未知成分の定性解析を行う場合、ソフトイオン化法データを用いた分子イオン解析と、EIデータのEIフラグメントイオン解析が有効である。例としてFig.3中の成分Aの解析を行った。Fig.4に成分Aのマススペクトルと精密質量解析結果を示す。FI法とPI法マススペクトルから、成分Aの分子イオンはm/z 330であると判断した。このm/z 330の精密質量解析を元素条件C、H、N、Oで実施したところ、6つの組成式候補が得られたが、その中で同位体パターンが実測値ともっとも近い組成式はC23H26N2であった。次にC23H26N2を精密質量解析条件として(C数:0~23、H数: 0~26、N数:0~2)EIフラグメントイオンの解析を実施したところ、主だったフラグメントイオンのすべての組成式を得ることができ、 成分Aの分子組成式がC23H26N2であることが示唆された。成分Aはゴムの酸化防止剤として用いられる2,2,4-trimethyl-1,2-dihydroquinoline (TMQ)が二量化した成分であると推測される。

GCxGC/EI , PI and FI TICCs

Fig. 2 GCxGC/EI , PI and FI TICCs

GCxGC/EI qualitative analysis result

Fig. 3 GCxGC/EI qualitative analysis result

Mass spectra and accurate mass analysis for the compound A on the 2DGC TICC.

Fig.4 Mass spectra and accurate mass analysis for the compound A on the 2DGC TICC.

まとめ

  • GCxGCと各種イオン化法を組み合わせて測定を行い、EIデータのみならず、PIデータ、FIデータでも良好なピーク分離を確認することができた。
  • EIデータを用いたNISTライブラリーサーチはGC-MS定性解析で有用ではあるが、それだけでは同定できない成分は多数存在する。
  • 未知成分の定性解析を行う場合、ソフトイオン化法データを用いた分子イオン解析と、EIデータのEIフラグメントイオン解析が有効である。
ゴムなどの合成高分子の熱分解測定では、多種多様な成分が生じるが、熱分解GCxGCによる高分離能と、TOFMSならではの精密質量解析が成分同定に有効であることが示された。
TMQ

TMQ

※測定は、ZOEX社製GC×GCシステムを使用。GC×GCクロマトグラム、GC image社製ソフト"GC image"で作成。
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