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JMS-S3000 "SpiralTOF™"と"Remainders of KM" プロット法を用いた多分散度の大きいポリマーの組成マッピング [MALDI Application]

MSTips No.269

マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)などソフトイオン化を用いた質量分析により、多分散度の小さいポリマーの繰り返し単位や末端基の組成分析が可能である。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による分取と、高質量分解能MALDI-TOFMSであるJMS-S3000 SpiralTOF™を組み合わせれば、多分散度の大きいポリマーの場合でも分析が可能となる。その場合、分析対象となる質量範囲は広くなり、4kDa以下では高質量分解能かつ高質量精度の測定が可能である。しかし、より大きい分子量域では同位体が分離できる程度の質量分解能と質量精度となるため、マススペクトル中には多くのピークが観測されるので、1つ1つのフラクションについてマススペクトル解析を行うと、分析全体の律速段階となってしまう。そこで本報告では、「Remainders of KM」(RKM)プロットを用いて広い質量範囲での組成分布を可視化する方法を提案する。

実験

poly(ε-caprolactone) (PCL, Polymer Source, P1302-CL) を 1 mg/mL の濃度でクロロホルムに溶解し、SEC (HLC8220 GPC system, Tosoh, TSKgel multipore HXL-M columns, フローレート: 1 mL min-1, 1フラクションあたり0.5 mL) にて分取した。マトリックスにはDCTBを用い、マススペクトルはJMS-S3000 SpiralTOF™ を用いて取得した。 データ解析は、msRepeatFinder 3.0により行った。

SEC-MALDI-MS

PCLをSECにて分離し、それぞれに多分散度の小さいポリマーシリーズが含まれるように5つのフラクション(#1-5)に分取した(Fig1. A)。最後のフラクション(#5)には、m/z 2000-5000の範囲でポリマーの分布が2つ観測された(Fig. 1B) 。これらは高質量分解能および高質量精度の分析により、末端がHとOH基のナトリウム付加イオン()と、末端がHとC3H7O基のナトリウム付加イオン()にアサインすることができた。
SpiralTOF™の高質量分解能により、フラクション#1-4においては、分子量20,000Daまでも同位体ピークを分離することができた(Fig. 2A)。Fig. 2Bは、#1~5のマススペクトルを同一スペクトル上に並べたものである。本報告では、組成のマッピングを行うことが目的であるため、同一のポリマーピークが異なるフラクションに観測されても、イオン強度の積算や規格化は行っていない。

Fig. 1. (A) SEC chromatogram. (B) Mass spectrum of fraction 5.

Fig. 1. (A) SEC chromatogram.  (B) Mass spectrum of fraction 5

Fig. 2. (A) Mass spectra of the five fractions. (B) Concatenated mass spectra.

Fig. 2. (A) Mass spectra of the five fractions.  (B) Concatenated mass spectra.

Kendrick mass defect (KMD) plots

5つのフラクションのピークリストをKMDプロット[1]で可視化すると、低分子量域では末端がHとOH基およびHとC3H7O基のナトリウム付加イオンのシリーズがかろうじて分離できているものの、分子量が大きくなるにしたがい分離が難しくなった(Fig. 3)。これは、SpiralTOF™の高質量分解能により同位体ピークの分離は可能なものの、質量精度が不足しているためである。
次に分離度を高めるためFraction Base KMD(CL/113)を適用したところ[2]、末端がHとOH基およびHとC3H7O基のナトリウム付加イオンに加えてそれぞれのカリウム付加イオンのシリーズを測定質量範囲全体で分離することができた(Fig. 4)。しかし、やはり高分子量域になるにつれて分離度が低下するのがわかる。

Fig. 3. Regular KMD plot from the concatenated mass spectra of the five fractions (base unit: CL, C6H10O2, 114.0681).

Fig. 3. Regular KMD plot from the concatenated mass spectra of the five fractions (base unit: CL, C6H10O2, 114.0681).

Fig. 4. Fraction base KMD plot from the concatenated mass spectra of the five fractions (base unit: CL/113).

Fig. 4. Fraction base KMD plot from the concatenated mass spectra of the five fractions (base unit: CL/113).

Remainders of KM (RKM) プロット

最後に5つのフラクションのピークリストをRKMプロットを用いて可視化すると、末端がHとOH基およびHとC3H7O基のナトリウム付加イオンとカリウム付加イオンのシリーズを測定領域全体で分離することができた(Fig. 5A)。加えて、開環重合や縮重合の合成で典型的に生じる環状ポリマーのナトリウム付加イオンが低分子領域のフラクション #5に観測された(Fig. 5A中青背景)。また、やはりフラクション#5に末端基がHとONaのナトリウム付加イオンも観測された(Fig. 5A中の紫背景)。これは、末端がカルボキシル基であることを示すものである。前述のKMDプロットと比較するとRKMプロットでは、測定領域全体にわたり、末端基・カチオン化剤の違いが分離できていることがわかる。また、末端がHとOH基のナトリウム付加イオンのシリーズを拡大すると(Fig. 5B)、ポリマーの重合度が増加するにしたがって、同位体ピークの広がりが13Cの数が増加する方向にシフトしていくのもわかる。msRepeatFinderのグルーピングモードを使用すれば、RKMプロットにて分離したシリーズを、マススペクトル上で色付けすることも可能である。たとえば、Fig.6中の赤色のピークは、RKMプロットにてPCLの末端がHとOH基のナトリウム付加イオンのシリーズを2kDa~20kDaでグループ化した結果である。

Fig. 5. RKM plots from the concatenated mass spectra. (A) Full plot with assignments of end-groups. (B) Detail of the sodiated (H, OH) ion series.

Fig. 5. RKM plots from the concatenated mass spectra. (A) Full plot with assignments of end-groups.  (B) Detail of the sodiated (H, OH) ion series.

Fig. 6. Instant selection of the whole sodiated (H, OH)-PCL series throughout the 20kDa mass range (five fractions at once) using the “grouping mode” of msRepeatFinder.

Fig. 6. Instant selection of the whole sodiated (H, OH)-PCL series throughout the 20kDa mass range (five fractions at once) using the “grouping mode” of msRepeatFinder.

展望

RKMプロットは、 SpiralTOF™高質量精度データだけでなく、比較的質量精度の低いデータにも対応が可能である。たとえば、SpiralTOF™の高分子量域、リニアTOFオプション、TOF-TOFオプションのデータも可視化することでき、応用の範囲が広がることが期待できる [3]。

謝辞

本データは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 機能化学研究部門 佐藤浩昭氏、Thierry Fouquet氏との共同研究の成果です。

References

[1] H. Sato, S. Nakamura, K. Teramoto, T. Sato. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2014, 25, 1346–1355.
[2] T. Fouquet, H. Sato. Anal. Chem. 2017, 89, 2682−2686.
[3] T. Fouquet, T. Satoh, H. Sato. Anal. Chem. 2018, 90, 2404–2408.
[4] T. Fouquet, R. B. Cody, Y. Ozeki, S. Kitagawa, H. Ohtani, H. Sato. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2018, 29, 1611-1626.

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