MALDI Application: JMS-S3000 “SpiralTOF™”のスパイラルモードを用いたタンパク質の高分解能測定

  • 概要

MSTips No.297

はじめに

JMS-S3000は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)を採用した飛行時間質量分析計(TOFMS)である。 MALDIは、ソフトイオン化であるが、一方でポストソースディケイ(PSD)と呼ばれる自発的な開裂が起こることも知られている。 特に分子量が大きくなるにしたがいその影響は顕著になり、 JMS-S3000のスパイラルモード(8周回、 飛行距離17m)ではその飛行距離の長さ故PSDを起こさずに検出器まで到達するイオン量が減少する。 このPSDによる影響は、マトリックスの種類に依存する。 今回は、タンパク質の測定に有用なマトリックスであるClCCA(4-クロロ-α-シアノケイ皮酸)[1]を用いてスパイラルモードの測定を試してみた。 その結果、良好なマススペクトルを得ることができたので報告する。

試料及び測定条件

 マトリックスのClCCA(4-クロロ-α-シアノケイ皮酸)を10mg/ml (70%AcN-0.1%TFA水溶液)に調整した。 試料は、インシュリン(10pmol/µl 1%-TFA水溶液)、ユビキチン(100pmol/µl水溶液)とシトクロムC(10pmol/µl水溶液)を用いた。 また、インシュリンのみタンパク質の測定で一般的に使用されているマトリックスのCHCA(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸)とSA(シナピン酸)を使用し測定した。
試料とマトリックスの混合溶液をターゲットプレートにスポットし風乾させ、スパイラル、リニアの正イオンモードでマススペクトルを取得した。
 

結果

3種類のマトリックス(CHCA, SA, ClCCA)を用いてリニアモードで取得したインシュリンのマススペクトルをFig. 1に示す。 全てのマトリックスで同等の測定条件で、 分子量を反映するシグナルが確認された。 これはリニアモードのマススペクトルが、加速領域直後の状態を反映するためである。 ただCHCAのピーク幅が少し広いのはPDSの影響があると推測される。
 次に、スパイラルモードで測定を行った。 Fig. 2に各マススペクトルを示す。 結果として、どのマトリックスでも分子量を反映するシグナルが確認された。 但し、CHCAを用いた場合は、SAやClCCAと同条件ではイオンを検出することができなかったため、検出器の電圧を上げたり、積算回数を増やしている。  そのためスパイラルモードの各マススペクトルを比較すると、CHCAはPSDに由来するベースの盛り上がりが大きく、ピークのS/Nも低い。SAは良好なスペクトルが得られたものの、ClCCAを用いた場合よりもPSDの影響があり、ピークのS/Nも若干低かった。 これらの結果から、スパイラルモードではClCCAを用いた場合、PSDの影響が最も抑えられ、良好なスペクトルが得られることが分かった。
 

Fig. 1 Mass spectra of insulin acquired  with a LinearTOF mode using CHCA(A), SA(B) and ClCCA(C)

Fig. 1 Mass spectra of insulin acquired  with a LinearTOF mode using CHCA(A), SA(B) and ClCCA(C)

Fig. 2 Mass spectra of insulin acquired  with a SprialTOF mode using CHCA(A), SA(B) and ClCCA(C)

Fig. 2 Mass spectra of insulin acquired  with a SprialTOF mode using CHCA(A), SA(B) and ClCCA(C)
 

 次に、ClCCAを用いてスパイラルモードで取得したユビキチンとシトクロムCのマススペクトルをFig. 3に示す。 それぞれのマススペクトルで最もイオン強度が高い同位体ピークは[M+H]+である。 Fig. 3よりClCCAを用いるとPSDの影響を抑えられ、良好なスペクトルを取得できることが分かった。 また、 [M+H]+の同位体ピークを拡大した結果、両者とも分離できており、それぞれの分解能は 48000、36000 程度であった。 
Fig. 3 Mass spectra of ubiquitin (A) and cytochrome C (B) with a SpiralTOF mode using ClCCA

Fig. 3 Mass spectra of ubiquitin (A) and cytochrome C (B) with a SpiralTOF mode using ClCCA

 

まとめ

以上のように、ClCCAを用いれば、分子量5000以上のタンパク質の測定においても、PSDによる感度低下の影響が少なく、スパイラルモードでも高分解能測定が可能であることが分かった。
 

参考文献:
[1] Jaskolla TW, Lehmann WD, Karas M. 4-Chloro-α-cyanocinnamic acid is an advanced, rationally designed MALDI matrix. Proc Natl Acad Sci USA 2008;105:12200–12205.
 
このページの印刷用PDFはこちら。
クリックすると別ウィンドウが開きます。

PDF 695KB

関連製品 RELATED PRODUCT