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GC窒素キャリアガスソリューション GC-TOFMS精密質量解析におけるヘリウムと窒素の比較 [GC-TOFMS Application]

MSTips No.317

はじめに

GCキャリアガスとして使用されているヘリウム(He)の供給不足が長期化しており、深刻な問題となっている。その対策として水素(H2)や窒素(N2)などの代替キャリアガスが用いられ、中でも窒素は安価で安全であることから使用されるケースが増えている。一方で窒素キャリアのデメリットとしては、クロマトグラムのピーク分離と感度の低下、マススペクトルの変化に起因する定性解析精度の低下が挙げられ、解析結果への悪影響が懸念される。
そこで本報告では窒素キャリアを用いた際に、GC-TOFMSの精密質量解析が十分な性能を発揮できるかを検証したので紹介する。検証のためのモデルアプリケーションとして、既報MSTips300 で紹介したアクリル樹脂の熱分解測定を行った。イオン化法はEI法とFI法を併用し、これらの精密質量情報をmsFineAnalysisにより統合解析することで推定分子式を導出した。上記測定をヘリウムキャリアと窒素キャリアで行い、クロマトグラムや精密質量解析の結果を比較することで、キャリアガスの影響を評価した。なお今回用いたEI/FI共用イオン源は、既報MSTips299 で紹介したとおり一般的なEI法で懸念される窒素キャリアガス使用時の感度低下が少ないという特徴を持つことから、窒素キャリアガスでもヘリウムと同等の解析結果を得られることが期待できる。

実験

測定試料はMSTips300と同様に市販のアクリル樹脂を用い、EI法では0.2mg、FI法では1.0mgとした。熱分解-GC-TOFMSの測定条件はMSTips300の条件をベースとし、カラム流量についてはそれぞれの最適線速度を踏まえてヘリウム1.0mL/minに対し、窒素は0.55mL/minに変更した。主要な測定条件及び解析条件をTable1に示す。
測定結果については、トータルイオンクロマトグラム(TICC)と代表化合物の抽出イオンクロマトグラム(EIC)における、ピーク分離と感度(強度とS/N)を比較した。msFineAnalysisによる統合解析では、強度上位100ピークに対し推定分子式を導出し、公平を期するため自動解析結果のままで比較を行った。推定化合物の導出にはクロマトグラムのピーク分離と感度に加え、質量精度、同位体パターンマッチング、EIフラグメントイオンカバー率等が影響するため、精密質量解析の総合的な評価が可能である。

Table 1. Measurement and analysis conditions

Pyrolysis conditions
Pyrolyzer EGA/PY-3030D(Frontier Lab)
Pyrolysis Temperature 600°C
GC conditions
Gas Chromatograph 7890A GC
(Agilent Technologies)
Column ZB-5MSi (Phenomenex)
30m x 0.25mm, 0.25μm
Oven Temperature 40°C(2min)-10°C/min
-320°C(15min)
Injection Mode Split mode (100:1)
Carrier flow He:1.0mL/min
N2:0.55mL/min
MS conditions
Spectrometer JMS-T200GC (JEOL Ltd.)
Ion Source EI/FI combination ion source
Ionization EI+:70eV, 300μA
FI+:-10kV, 40mA/30msec
Mass Range m/z 35-800
Data processing condition
Software msFineAnalysis (JEOL Ltd.)
Library database NIST17
Tolerance ±5mDa
Electron Odd
Element set C:0-50, H:0-100, O:0-10

測定結果

TICCの比較

EI法におけるTICCをFigure1に、FI法におけるTICCをFigure2に示す。アクリル樹脂の熱分解測定では開始直後にモノマーのアクリル酸メチル(MA)とメタクリル酸メチル(MMA)が強い強度で観測され、その後10分あたりから複数のダイマー成分が、17分あたりからトライマー成分が観測される。比較の結果、窒素ではカラム流量を下げたことにより概ね全てのピークについて1分弱程度保持時間が遅くなるものの、ピーク分離はヘリウムとほぼ同等であった。窒素キャリアで懸念された感度低下についても同等~1/2程度の低下に留まった。この理由としては、EI法においてはチャンバ構造を持たない開放型のEI/FI共用イオン源の特性により、ソフトイオン化法であるFI法においてはイオン化エネルギーが低いことにより、感度低下の原因となる窒素イオンの生成が抑制されたためと考えられる。

TICCs of EI method

Figure 1. TICCs of EI method

TICCs of FI method

Figure 2. TICCs of FI method

EICの比較

代表的なトライマーMMA3について、EI法およびFI法におけるベースイオンのEICをFigure3に示す。EICにおいてもピーク形状はヘリウムと窒素でほぼ同等であり、ピーク強度およびS/Nについても、窒素での低下幅は1/2程度に留まった。

EICs of MMA3

Figure 3. EICs of MMA3

msFineAnalysisの解析結果

msFineAnalysisの解析結果画面のスクリーンショットをFigure4に示す。画面上部にはEI法とFI法のクロマトグラムが表示されている。下部のピークリストには推定分子式等が表示されており、全体の解析精度を直感的に理解できるよう、推定分子式の候補数に応じて自動的に色分けされる。

Screenshot of msFineAnalysis (Result of N2 carrier)

Figure 4. Screenshot of msFineAnalysis (Result of N2carrier)

コンパウンドピークの比較

msFineAnalysisではデコンボリューションにより得られたコンパウンドピークに対してピークアサインを行う。EI法におけるTICCとコンパウンドピークをFigure5に示す。ヘリウムと窒素では保持時間が異なり、TICC上で重なり合うピークの分離状態が僅かに異なるが、デコンボリューション機能によりこれらのオーバーラップピークについても同じように区別してピークのアサインが可能となる。自動解析の結果では強度上位100ピーク中92ピークがヘリウムと窒素で同じ成分となった。残りのピークについても、強度下位(100位付近)ピークの入れ替わりによるものであり、ほぼ同等の結果を得られることが確認できた。

TICCs and compound peaks of EI method

Figure 5. TICCs and compound peaks of EI method

推定分子式の候補数分布の比較

強度上位100ピークの推定分子式の候補数分布をFigure6に示す。この円グラフでは前述のmsFineAnalysisの色分けを反映し、推定分子式の候補が一つに絞れたものを青、候補が複数あるものを橙、候補を導き出せなかったものを灰で色分けした。比較の結果はヘリウムと窒素でほぼ同等であり、いずれも9割近いピークの分子式を一意に決定することができた。

Number distribution of estimated molecular formula

Figure 6. Number distribution of estimated molecular formula

まとめ

GCキャリアガスにヘリウムと窒素を用いてパイロライザーとGC-TOFMSによるアクリル樹脂の熱分解測定を行い、得られた結果を比較した。クロマトグラムのピーク形状・分離はヘリウムと窒素で同等であった。窒素キャリアで懸念された感度低下についても、EI/FI共用イオン源を用いたことにより、同等~1/2程度の低下に留まった。
msFineAnalysisを用いて、強度上位100ピークに対して推定された分子式の候補数の分布についても、ヘリウムと窒素でほぼ同等の結果が得られ、質量精度等の性能が窒素キャリアにおいても損なわれていないことが示唆された。これらの結果によりGC-TOFMSの精密質量解析が窒素キャリアにおいても有効であることが確認できた。

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