GC-TOFMS Application: msFineAnalysis Ver2を用いたアクリル樹脂の統合解析

  • 概要

MSTips No.300

はじめに

ガスクロマトグラフ質量分析法で使用される電子イオン化 (Electron Ionization, EI)法は、フラグメントイオンを生成しやすいハードイオン化法の一つであり、取得したマススペクトルとライブラリー登録されたマススペクトルを比較することで化合物の同定を行うことできる。それに対し、電界イオン化 (Field Ionization, FI)法などのソフトなイオン化法では、フラグメントイオンの生成が最小限に抑えられ、分子イオンの情報を得ることができる。またガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計ではEI法で生じたフラグメントイオンと、ソフトイオン化法で生じた分子イオンの双方の精密質量情報が得られる。これら精密質量情報と従来のライブラリサーチの結果を統合することで、EI法のライブラリーサーチのみを用いた場合よりも同定確度を向上させることができる。
 EI法とソフトイオン化法2つのデータを自動で統合する解析ソフトウェアmsFineAnalysisを2018年に上市したが、今回新たな機能を追加したmsFineAnalysis Ver2の開発を行った。msFineAnalysis Ver.2では新たにデコンボリューション検出機能などを搭載しているが、本MSTipsではVer.2での変更点と、これを用いたアプリケーション例について報告する。

結果

msFineAnalysis Ver.2での変更点: 
Ver.2ではVer.1において開発した統合解析フロー(MSTips275など参照)とTICCピーク検出をそのまま踏襲している。Ver.1からの変更点は大きく3つあり、①GUI(グラフィックユーザーインターフェース)を改善、②デコンボリューション検出機能搭載、③グループ分析機能搭載、である。

GUIを改善:
Ver.2では使用言語に日本語と英語の2つを用意した。GUIを大幅に見直し、統合解析結果の表とクロマトグラムを1画面上に表示するよう変更した。また配色にはカラーユニバーサルデザインを採用した。

②デコンボリューション検出機能:
デコンボリューション検出機能では、観測したイオンの精密質量を用いた抽出イオンクロマトグラム(EIC)中で検出されたピーク情報(m/z値、面積値)を用いてマススペクトルを再構築する。そのため、TICC上で1本のピークとして検出されてしまうような保持時間が近い成分(共溶出成分)の分離検出に効果的な機能である。

③グループ分析機能:
グループ分析機能はデコンボリューション検出後に使用可能なターゲット分析機能である。この機能では、検出成分間で共通しているフラグメントイオンや分子イオンを有している、もしくはニュートラルロスが観測されている成分の解析結果のみを全体から抽出する。これにより似た部分構造を有している化合物群や異性体の分析が容易になる。
 

解析例:
モデル試料として市販のアクリル樹脂を用いた。測定にはJMS-T200GCを用い、試料前処理装置として熱分解装置を使用した。イオン源はEI/FI共用イオン源を用いた。得られたデータをmsFineAnalysis(日本電子社製)にて統合解析した。熱分解 GC/TOFMS測定条件および解析条件をTable 1に示す。

Table 1 Measurement condition

[Pyrolysis condition]
  Pyrolyzer PY-3030D (Frontier Lab)
  Pyrolysis Temperature 600°C
[GC condition]
  Gas Chromatograph 7890A GC (Agilent Technologies)
  Column ZB-5MSi (Phenomenex), 30m x 0.25mm, 0.25μm
  Oven Temperature 40°C (2min)-10°C/min-320°C (15min)
  Injection Mode Split mode (100:1)
[MS condition]
  Spectrometer JMS-T200GC (JEOL Ltd.)
  Ion Source EI/FI combination ion source
  Ionization EI+: 70eV, 300μA
FI+: -10kV, 40mA/30msec
  Mass Range m/z 35-800
[Data processing condition]
  Software msFineAnalysis (JEOL Ltd.)
  Library database NIST17
  Tolerance ±5mDa
  Electron  Odd
  Element set C:0-50, H:0-100, O:0-10
  Fig 1 EIC of OFN 100pg of EI+ mode

Fig.1  Py-GC/EI and Py-GC/FI total ion current chromatograms at 600°C for an acrylic resin polymer

Fig.2  EI and FI mass spectra of related compounds with (a) monomer, (b) dimer and (c) trimer

Fig.1にGC/EI及びGC/FIのTICCを示す。アクリル酸メチル(MA)とメタクリル酸メチル(MMA)が強い強度で観測されている。保持時間10分あたりからダイマー成分が、18分あたりからトライマー成分が観測されている。モノマー、ダイマー、トライマー種の代表的なマススペクトルをFig.2に示す。EIマススペクトル中では分子イオン相対強度が低いもしくは観測されていないが、FIマススペクトルでは分子イオンを高い相対強度をもって検出することができた。アクリル樹脂の熱分解生成物はライブラリデータベース未登録成分が多く、ライブラリ検索・解析だけでは各成分の同定が難しかった。またFig.2にも示すようにEI法では分子イオンが観測し難い成分が多く、ソフトイオン化による測定が必須であった。
msFineAnalysisでGC/EI及びGC/FIデータを用いた自動解析を実施したところ、161成分が検出された。最終的に161成分中154成分(96%)の分子組成式を一意に決定することができた。加えてEIフラグメントイオンの組成式も同時に得ているため、試料分子の構造情報も得ることが可能であった。次にグループ分析機能を用いた、モノマー、ダイマー、トライマーの解析を実施した。得られた結果をTable 2に示す。161成分46成分がモノマー、ダイマー、トライマーの異性体であった。グループ分析機能で確認したい異性体の分子イオンを指定し、それらの解析結果を抽出したため、解析に要する時間を短縮化することができた。グループ分析機能で抽出した結果のみをエクスポートすることも可能であり、Table 2に示すクロマトグラムピーク面積値を用いた相対強度の算出は容易であった。そのほかの成分としてはモノマー、ダイマー、トライマーにアルキル鎖がついた熱分解生成物などが観測された。
 

Table 2  Integrated qualitative analysis result for monomer, dimer, trimer and their isomers

Type Compound Formula Mw Isomer Sum of chromatogram peak area Relative Intensity
[%]
Monomer Methyl acrylate (MA)
Methyl methacrylate (MMA)
C4H6O2
C5H8O2
86
100
2
3
 
55,268,874
837,060,254
5.8
88.0
Dimer MA + MA
MA + MMA
MMA + MMA
C8H12O4
C9H14O4
C10H16O4
172
186
200
3
5
11
1,620,349
11,853,421
23,475,603
0.2
1.2
2.5
Trimer MA + MA + MA
MA+ MA + MMA
MA + MMA + MMA
MMA + MMA + MMA
 
C12H18O6
C13H20O6
C14H22O6
C15H24O6
 
258
272
286
300
 
3
6
9
4
 
1,181,635
7,004,668
5,205,642
9,045,242
 
0.1
0.7
0.5
1.0
 

統合解析手法ではライブラリー登録成分(マッチファクタースコア:高)に対してはライブラリー検索結果と分子組成式を組み合わせた確度の高い定性分析結果を与えることが可能である。従来型GC-MSでは同定することが難しかったライブラリー未登録の未知成分(マッチファクタースコア:低)に対しても、本手法では分子組成式を推定することが可能である。本解析手法ではマッチファクタースコアの高低に関わらず、精密質量情報から分子組成式を推定し候補を絞り込むことが可能であり、本手法がGC/MS定性分析に有効であることを確認できた。

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