MALDI and GC-QMS Application: 高分解能MALDI-TOFMSおよび熱分解GC-QMSを用いたポリスチレンの紫外線照射による酸化劣化解析

  • 概要

MSTips No.322

はじめに

高分子材料は光、酸素、熱などの影響により劣化することが懸念され、それに伴う構造変化を評価することは非常に重要となる。熱分解ガスクロマトグラフ四重極質量分析計 (Py-GC-QMS) およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計 (MALDI-TOFMS) は、ポリマーの分子レベルの構造変化を分析するための強力なツールである。Py-GC-QMSは、パイロライザーで試料を瞬間的に加熱して生じる熱分解生成物をGC-MSで分析する。熱分解生成物の大半はモノマーやダイマーとなるためポリマー種の同定が容易であり、ポリマー主鎖の変化を議論できる。MALDI-TOFMSは、代表的なソフトイオン化であるMALDIでポリマー分子そのものをイオン化可能である。MALDIは高分子量の化合物であっても主に1価イオンが生成するため、マススペクトルの横軸がイオンの質量となり解釈が容易となる。高分解能MALDI-TOFMSを使えば、モノマーや末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別、精密質量解析による組成推定、イオン強度の分布からポリマーの分子量分布を算出できる。本報告では紫外線照射前後のポリスチレン (PS) について、Py-GC-QMSと高分解能MALDI-TOFMSを用いて差異分析を行い、構造変化について考察した。
 

JMS-S3000 “SpiralTOFTM-plus”
JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus"
JMS-Q1500GC
JMS-Q1500GC

実験

サンプルには、PS (A-5000 分子量5000, 東ソー社製) を使用した。このPSの末端基はH/C4H9である。 サンプルの一部は、紫外線硬化装置のハンディキュアラブ (セン特殊光源社製) を用いて、3時間紫外線照射を行った。 Py-GC-QMSの測定は、パイロライザーを装着したJMS-Q1500GCを使用した。紫外線照射前後のサンプルをそれぞれ約0.2mgに秤量し、Table 1の条件で測定した。 得られたデータはAnalyzerPro(SpectralWorks社製)を用いて差異分析を行い、顕著に差があった化合物のマススペクトルに対してライブラリーサーチを行った。 MALDI-TOFMSの測定は、JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus"を使用した。紫外線照射前後のサンプルをそれぞれ1mg/mL THF溶液とし、マトリックスにDCTB 20 mg/mL THF溶液、カチオン化剤にトリフルオロ酢酸銀 (AgTFA) 1mg/mL THF溶液を用いた。サンプル溶液、マトリックス溶液、カチオン化剤溶液をそれぞれ1:10:1 (v/v/v) で混合し、ターゲットプレートに滴下風乾した。マススペクトルは、SpiralTOF 正イオンモードで測定を行った。ケンドリックマスディフェクト解析にはmsRepeatFinderを用いた。

Table 1 Measurement condition of Py-GC-QMS

Pyrolysis conditions
Pyrolyzer PY-3030D (Frontier Laboratories Ltd.)
Pyrolysis Temperature 600°C
GC conditions
GC 7890A GC
(Agilent Technologies, Inc.)
Column ZB-5MSi (Phenomenex Inc.) 
30m x 0.25mm I.D., 0.25μm
Injection port temperature 320°C
Oven temperature 40°C (2 min)→20°C/min→320°C (20 min)
Injection mode Split 100:1
Carrier gas He,1.0mL/min (Constant Flow)
MS condition
Spectrometer JMS-Q1500GC (JEOL Ltd.)
Ion source temp.
 
250°C
Interface temp. 320°C
Ionization mode EI
Ionization energy 70eV
Ionization current 50 µA
Measurement mode Scan (m/z 29~600)
Relative EM Voltage 100 V

Py-GC-QMS 測定結果 

Fig. 2に紫外線照射前後のトータルイオンカレントクロマトグラム (TICC) を示す。TICC上ではPSモノマーの1~3量体が主に観測されており、照射前後で大きな差はみられなかった。そこで、Analyzer Proにより差異分析を行ったところ、RT 6.17, 7.05minにおいて紫外線照射後にのみ検出されているピークを確認した (Fig. 3 左TICC中の[1], [2]) 。これらのピークについてライブラリーサーチを行ったところ、それぞれアセトフェノン、安息香酸と推定された (Fig. 3 右) 。各化合物のライブラリーとの類似度 (M.F.) についてもあわせて示した。さらにこの2つ化合物に共通したフラグメントイオンであるm/z 106 (C7H6O) のEICを作成したところ、RT 5.26minにおいても照射後にのみ検出されたピークが確認できた(Fig. 3 左TICC中の[3]) 。このピークはライブラリーサーチの結果、ベンズアルデヒドと推定された。参考文献[1]によれば、PSの主要な熱分解生成物には酸素は含まれない。また、今回用いたPSの末端基はH/C4H9であり元来酸素を含まないことが分かっている。以上の結果より、前述の紫外線照射後に新たに検出された3つの熱分解生成物は紫外線照射による光酸化反応由来と推測される。

Fig. 2 TICCs of PS before and after UV irradiation using Py-GC-QMS.

Fig.2 TICCs of PS before and after UV irradiation using Py-GC-QMS

Fig. 3  Difference of TICC before and after UV irradiation.

Fig. 3  Difference of TICC before and after UV irradiation

MALDI-TOFMS 測定結果

Fig. 4aに紫外線照射前後のMALDI-TOFMSのマススペクトルを示す。紫外線照射前のマススペクトルに観測されているのは、末端基 (H/C4H9) をもつPSの[M+Ag]+である。Fig. 4bにm/z 5000付近の拡大図を載せる。紫外線照射後のマススペクトルには、+16uが1~3個付加したピークが観測されたが、これらは精密質量から酸素原子の付加であることが分かった。両マススペクトルのRKMプロットをFig. 5に示す。RKMプロットから酸素が加わり、かつ低分子量化している様子を可視化できた。また酸素が1~3個増えていることからFig. 6のような主鎖に酸素が加わる構造が示唆される[2]。

Fig. 4  Mass spectra of PS before and after UV irradiation using MALDI-TOFMS.

Fig. 4  Mass spectra of PS before and after UV irradiation using MALDI-TOFMS

Fig. 5  RKM plot of PS before and after UV irradiation.

Fig. 5  RKM plot of PS before and after UV irradiation

Fig.6 Estimated structure of PS after UV irradiation

Fig. 6 Estimated structure of PS after UV irradiation

まとめ

Py-GC-QMS, MALDI-TOFMSの両方の測定結果から、紫外線照射による酸化劣化を確認することができた。MALDI-TOFMSの結果から、主鎖に酸素が加わるような構造変化が示唆された。MALDI-TOFMSは、ポリマーそのもののイオン化が可能であるものの、精密質量による末端基解析が可能なのは概ね分子量1万程度までである。一方Py-GC-QMSは断片化された情報ではあるものの、注目すべき熱分解生成物が決まれば、より高分子量のサンプルでも差異分析に期待ができる。以上のようにPy-GC-QMS, MALDI-TOFMSを相補的に利用することで、ポリマーの劣化についてより多角的な検証が可能である。

参考文献

[1] 柘植新・大谷肇・渡辺忠一 (2006) 「高分子の熱分解GC/MS 基礎及びパイログラム集」 テクノシステム
[2] Mailhot and Gardette, Macromolecules, Vol. 25, No. 16, 1992

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