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高分解能MALDI-TOFMSおよび熱分解GC-QMSを用いたポリメタクリル酸メチルの紫外線照射による酸化劣化解析 [MALDI and GC-QMS Application]

MSTips No.324

高分子材料は光、酸素、熱などの影響により劣化することが懸念され、それに伴う構造変化を評価することは非常に重要となる。熱分解ガスクロマトグラフ四重極質量分析計 (Py-GC-QMS) およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計 (MALDI-TOFMS) は、ポリマーの分子レベルの構造変化を分析するための強力なツールである。Py-GC-QMSは、パイロライザーで試料を瞬間的に加熱して生じる熱分解生成物をGC-MSで分析する。熱分解生成物の大半はモノマーやダイマーとなるためポリマー種の同定が容易であり、ポリマー主鎖の変化を議論できる。MALDI-TOFMSは、代表的なソフトイオン化であるMALDIでポリマー分子そのものをイオン化可能である。MALDIは高分子量の化合物であっても主に1価イオンが生成するため、マススペクトルの横軸がイオンの質量となり解釈が容易となる。高分解能MALDI-TOFMSを使えば、モノマーや末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別、精密質量解析による組成推定、イオン強度の分布からポリマーの分子量分布を算出できる。本報告では紫外線照射前後のポリメタクリル酸メチル (PMMA) について、Py-GC-QMSと高分解能MALDI-TOFMSを用いて差異分析を行い、構造変化について考察した。

実験

サンプルには、PMMA (分子量5000, アジレントテクノロジーズ社製) を使用した。このPSの末端基はH/Hである。サンプルの一部は、紫外線硬化装置のハンディキュアラブ (セン特殊光源社製) を用いて、0.5時間紫外線照射を行った。Py-GC-QMSの測定は、パイロライザーを装着したJMS-Q1500GC を使用した。紫外線照射前後のサンプルをそれぞれ約0.2mgに秤量し、Table 1の条件で測定した。得られたデータはAnalyzerPro (SpectralWorks社製) を用いて差異分析を行い、顕著に差があった化合物のマススペクトルに対してライブラリーサーチを行った。MALDI-TOFMSの測定は、JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus" を使用した。紫外線照射前後のサンプルをそれぞれ1mg / mL THF溶液とし、マトリックスにDCTB 20 mg / mL THF溶液、カチオン化剤にトリフルオロ酢酸ナトリウム (NaTFA) 1mg/mL THF溶液を用いた。サンプル溶液、マトリックス溶液、カチオン化剤溶液をそれぞれ1:10:1 (v/v/v) で混合し、ターゲットプレートに滴下風乾した。マススペクトルは、SpiralTOF 正イオンモードで測定を行った。ケンドリックマスディフェクト解析にはmsRepeatFinder を用いた。

Table 1 Measurement condition of Py-GC-QMS

Pyrolysis condition
Pyrolyzer PY-3030D (Frontier Laboratories Ltd.)
Pyrolysis temperature 600°C
GC condition
GC 7890A (Agilent Technologies, Inc.)
Column ZB-5 (Phenomenex Inc.)
30 m × 0.25 mm I.D., df=0.25 µm
Injection port temperature 320°C
Oven temperature 40°C (2 min) →20°C / min→320°C (20min)
Injection mode Split 100:1
Carrier gas He, 1.0 mL / min (Constant Flow)
MS condition
Spectrometer JMS-Q1500GC (JEOL Ltd.)
Ion source temp. 250°C
Interface temp. 320°C
Ionization mode EI
Ionization energy 70 eV
Ionization current 50 µA
Mesurement mode Scan (m/z 29~600)
Relative EM Voltage 100 V

Py-GC-QMS 測定結果

Fig. 1に紫外線照射前後のトータルイオンカレントクロマトグラム (TICC) を示す。TICC上ではPMMAモノマーの1~3量体が主に観測されており、照射前後で大きな差はみられなかった。そこで、Analyzer Proにより差異分析を行ったところ、保持時間 9~10 minにおいて紫外線照射後にのみ検出されているピークをいくつか確認できた (Fig. 2A)。 この中でピーク[1]についてNISTライブラリー検索を行ったところ、もっとも高い類似度 (M.F.) でも715であり (Fig. 2B)、PMMAの構造から考えて妥当ではなかった。ピーク[1]のライブラリー検索で上位5番目に推定された化合物は、類似度は低いもののPMMAの部分構造に近しいものであった (Fig. 2C) 。ピーク[1]のマススペクトルはFig. 3Aに示す。これらの結果と次ページのMALDI-TOFMSの結果をあわせて考えると、Fig. 3Bに示す構造が推定された。以上の結果より、Py-GC-QMSの結果紫外線照射前後で明確に差が観測されたものの、ライブラリー検索では熱分解によるポリマーの部分構造は得られなかった。

Fig. 1 TICCs of PMMA before and after UV irradiation using Py-GC-QMS

Fig. 1 TICCs of PMMA before and after UV irradiation using Py-GC-QMS

Fig. 2  Difference of TICC before and after UV irradiat

Fig. 2 Difference of TICC before and after UV irradiation

Fig. 3 Mass spectrum of Peak [1] in Figure 2A

Fig. 3 Mass spectrum of Peak [1] in Figure 2A

MALDI-TOFMS 測定結果

Fig. 4に紫外線照射前後のMALDI-TOFMSのマススペクトルを示す。紫外線照射前のマススペクトルに観測されているのは、末端基 (H/H) をもつPMMAの[M+Na]+である。Fig. 4bにm/z 3700付近の拡大図を載せる。紫外線照射後のマススペクトルには、60u分の脱離が1~3か所で起こったピークが観測されたが、これらは精密質量からC2H4O2の脱離であることが分かった。両マススペクトルのRKMプロットをFig. 5に示す。RKMプロットからC2H4O2が1~3個脱離し、かつ低分子量化している様子を可視化できた。Py-GC-QMSの結果と合わせて考えるとFig. 6のような主鎖構造の変化が示唆される。

Fig. 4  Mass spectra of MMA before and after UV irradiation using MALDI-TOFMS

Fig. 4  Mass spectra of MMA before and after UV irradiation using MALDI-TOFMS

JFig. 5  RKM plot of PMMA before and after UV irradiation

Fig. 5 RKM plot of PMMA before and after UV irradiation

Fig. 6 Estimated structure of PMMA after UV irradiation

Fig. 6 Estimated structure of PMMA after UV irradiation

まとめ

Py-GC-QMS, MALDI-TOFMSの両方の測定結果から、紫外線照射による酸化劣化を確認することができた。MALDI-TOFMSの結果から、主鎖からC2H4O2が脱離する構造変化が示唆された。MALDI-TOFMSは、ポリマーそのもののイオン化が可能であるものの、精密質量による末端基解析が可能なのは概ね分子量1万程度までである。一方Py-GC-QMSは断片化された情報ではあるものの、注目すべき熱分解生成物が決まれば、より高分子量のサンプルでも差異分析に期待ができる。以上のようにPy-GC-QMS, MALDI-TOFMSを相補的に利用することで、ポリマーの劣化についてより多角的な検証が可能である。

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