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高分解能TG-TOFMSを用いたスチレンブタジエンゴムの発生ガス分析① [GC-TOFMS Application]

MSTips No.343

はじめに

スチレンブタジエンゴム (SBR) は自動車のタイヤや工業用品の他、リチウム電池の負極バインダー材料など様々な製品に使用されている。SBRを含む多くの合成ゴム製品には加硫促進剤など様々な添加剤が使用されておりており、加熱により発生するガスの情報は、製品の特性や品質、および安全性を評価する上で極めて重要となる。
熱重量-質量分析法 (TG-MS法) は、加熱に伴う質量変化と発生ガスの定性情報を相関付けて取得することが可能であり、合成ゴムの分析に有効である。一方でクロマトグラム分離を介さない手法であることから、大量発生するゴムの熱分解物 (主に炭化水素) により、微量成分の分析が困難という課題がある。この対策として、高分解能TOFMS JMS-T2000GCによる質量分離について検討を行い、有用な結果が得られたので報告する。なお本報告では一般的なイオン化であるEI法で得られた結果を、続報 MSTips344 では電子捕獲イオン化 (Electron Capture Ionization:ECI) 法で得られた結果について報告する。

実験

サンプルには市販のSBRゴムを用いた。TGにはNETZSCH社製のSTA2500 Regulusを用い、加熱により発生したガスをJMS-T2000Gに導入し分析した (Figure 1)。JMS-T2000GCのイオン化法はEI法を用いた。Table 1にTG-MS測定条件の詳細を示す。

Table 1. Measurement conditions

Sample 1mg
TG STA 2500 Regulus (NETZSCH社製)
 Furnace temp. 45°C → 10°C / min → 600°C
 Transfer-line temp. 300°C
 Transfer-line column Blank capillary tube, 3 m, I.D.0.32 mm
 Atmosphere He, 100 mL / min
 Split ratio 50:1
 Furnace 600°C
MS JMS-T2000GC (JEOL)
 Ionization EI, Ionization Energy 70 eV
 Mass range m/z 10~800
 Ion source temp. 300°C
 GC-ITF temp. 300°C

Figure 1. JMS-T2000GC with TG

結果

Figure 2にSBRゴムのTG曲線とTICクロマトグラムを示す。220°C付近および430°C付近に重量減少を伴う発生ガスのピーク (Peak 1、2) が観測された。

Figure 2. TG Curve and TIC chromatogram

Figure 3にPeak1および2のマススペクトルを示す。いずれのマススペクトルからもm/z 14 (CH2) 間隔のイオンが多数観測されており、ライブラリーサーチによる定性解析は困難であるが、高分解能TOFMSを用いることで組成推定により、主要なイオンの定性が可能である。Peak 1の主要成分は添加剤のDEHP、Peak 2の主要成分はSBRの主要熱分解物であるTolueneと推定された。

Figure 3. Mass spectra of TICC' peak 1 / 2

Figure 4にm/z 34付近およびm/z 64付近を拡大したPeak 2のマススペクトルを示す。m/z 33.9872はH2S、m/z 63.9611はSO2m/z 64.0303はC5H4と推定された。低分解能MSではイオンが干渉し分析が困難となる低分子ガスについても高分解能TOMSを用いることで分離して検出する事が可能である。

Figure 4. Mass spectra of TICC' peak 2 (Around m/z 34 and 64)

Figure 5に300°C付近および400°C付近のマススペクトルを示す。300°C付近のマススペクトルからは乳化剤として使用されるロジン成分のDehydroabietic acidおよび老化防止剤として使用されるTri-styrenated phenol (=2,4,6-Tris(1-phenylethyl)phenol)と推定されるイオンが観測された。400°C付近のマススペクトルからは加硫促進剤として使用される2-Mercaptobenzothazoleおよびその熱分解物であるBenzothiazoleと推定されるイオンが観測された。

Figure 5. Mass spectra at 300°C and 400°C

Figure 6にTICクロマトグラムおよび主要成分のモニターイオンにおける抽出イオンクロマトグラム (EIC) を示す。微量成分を含む各成分の発生温度を確認することができた。

Figure 6. TICC and EIC (m/z ±0.01 Da)

まとめ

TG-MS法での合成ゴム分析における課題であった微量成分の分析に対し、高分解能TOFMSが持つ高い質量分離能力と組成推定による定性の有効性が確認できた。この手法は合成ゴムや樹脂製品の開発や安全性の評価において活躍が期待できる。

参考文献

[1] 渡辺壱, 寺前紀夫:日本ゴム協会誌, 90, 12, (2017)
[2] 安藤慎二, 深町真治:日本ゴム協会誌, 82, 2, (2009)
[3] 有我望:日本ゴム協会誌, 79, 6, (2006)
[4] 原田美奈子:日本ゴム協会誌, 88, 6, (2015)
[5] 山中樹好, 横山晃, 小池芳弘:日本ゴム協会誌, 51, 4, (1978)

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