GC-TOFMS Application: 高分解能TG-TOFMSを用いた酸化雰囲気におけるシュウ酸カルシウムおよびポリスチレンの発生ガス分析

  • 概要

MSTips No. 350

はじめに

熱重量-質量分析法 (TG-MS法) は、加熱に伴う質量変化と発生ガスの定性情報を相関付けて取得する手法であり、各種樹脂や合成ゴム製品の評価に用いられる。通常TGの雰囲気ガスにはヘリウム、窒素といった不活性ガスが用いられるが、実際に製品が使用される空気などの酸化雰囲気下での分析で得られる情報は、製品開発や品質管理において極めて重要である。一方でMSの標準的なイオン化法である電子イオン化 (EI) 法は、酸素が流入する状況下ではフィラメントの劣化により長時間の安定した分析が困難という問題があった。これに対し弊社では耐酸化性能を高めた新しい線材を使用した低真空用フィラメントを開発し、MSTips No. 320にて四重極質量分析計 (QMS) におけるアプリケーション例を紹介した。本報告では高分解能TOFMSにおけるアプリケーション例を報告する。

実験

TGには示差熱分析 (DTA) にも対応可能なNETZSCH社製のSTA2500 Regulusを用い、発生したガスを低真空用フィラメントを装着したJMS-T2000GCに導入して分析した (Figure 1)。サンプルには①シュウ酸カルシウム、②ポリスチレンを用いた。TG雰囲気ガスには純ヘリウムまたは酸化ガス (ヘリウム : 酸素 = 4 : 1の混合ガス) を導入し、その差異について確認を行った。Table 1にTG-MS測定条件の詳細を示す。

Table 1. Measurement conditions

Sample ①Calcium oxalate 20mg
②Polystyrene 5mg
TG STA 2500 Regulus (NETZSCH社製)
Furnace temp. ①60°C→20°C/min→1,000°C
②60°C→20°C/min→600°C
Transfer-line temp. 300°C
Transfer-line column Blank capillary tube, 3m, I.D.0.32mm
Atmosphere Pure He, 100mL/min
Oxidation (He : O2 = 4 : 1), 100mL/min
Split ratio 30 : 1
MS JMS-T2000GC (JEOL)
Ionization EI, Ionization Energy 70eV, 100μA
Mass range m/z 10~800
Ion source temp. 300°C
GC-ITF temp. 300°C
JMS-T2000GC with TG

Figure 1. JMS-T2000GC with TG

シュウ酸カルシウムの分析結果

Figure 2にシュウ酸カルシウムのTG曲線、Figure 3にDTA曲線、Figure 4にTICクロマトグラムを示す。各グラフ黒線が純ヘリウム、赤線が酸化 (ヘリウム : 酸素 = 4 : 1) 雰囲気での結果である。
純ヘリウム雰囲気での各ピークの反応式は以下の通り。

  • [1]CaC2O4H2O → CaC2O4+H2O
  • [2]CaC2O4 → CaCO3+CO
  • [3]CaCO3 → CaO+CO2

酸化雰囲気では、更に
[2]CO+1/2O→ CO2となる。

DTA曲線からは[2]の反応が発熱反応(グラフ下に向かって凸)であることが確認できた。[1]および[3]は雰囲気ガスによって反応式は変化しないが、TICCパターンには多少の変化が見られた。

Figure 2. TG curves of Calcium oxalate

Figure 2. TG curves of Calcium oxalate

Figure 3. DTA curves of Calcium oxalate

Figure 3. DTA curves of Calcium oxalate

Figure 4. TIC chromatograms of Calcium oxalate

Figure 4. TIC chromatograms of Calcium oxalate

Figure 5にシュウ酸カルシウムのピーク[1]~[3]のマススペクトルを示す。酸化雰囲気では[2]CO+1/2O2→CO2の反応によりCOが減少し、CO2が増加することが確認できた。

Figure 5. Mass spectra of Calcium oxalate

Figure 5. Mass spectra of Calcium oxalate

ポリスチレンの分析結果

Figure 6にポリスチレンのTG曲線、Figure 7にTICクロマトグラムを示す。酸化雰囲気では反応開始温度が低くなる傾向が確認できた。

Figure 6. TG curve

Figure 6. TG curve

Figure 7. TIC chromatograms of Polystyrene

Figure 7. TIC chromatograms of Polystyrene

Figure 8にポリスチレンのピーク[1]、[2]のマススペクトルを示す。純ヘリウム雰囲気ではトルエン、スチレン、スチレンダイマーといったポリスチレンの代表的な熱分解生成物が観測された。一方酸化雰囲気ではピーク前半[1]でスチレンの酸化物であるベンズアルデヒドやスチレンダイマーの酸化物由来と推測されるピークm/z 221.09 (組成推定の結果はC16H14O) が推測された。ピーク後半[2]では純ヘリウム雰囲気と同様にトルエン、スチレン、スチレンダイマー等のピークが観測された。

Figure 8. Mass spectra of Polystyrene

Figure 8. Mass spectra of Polystyrene

Figure 9に酸化雰囲気におけるTICクロマトグラム、ベンズアルデヒド (m/z 105.03)、スチレン (m/z 104.06) のベースイオンにおける抽出イオンクロマトグラム (EIC) を示す。前半でベンズアルデヒドが、後半でスチレンが生成されていることが確認できた。

Figure 9. TIC chromatogram and EIC of Polystyrene in oxidation atmosphere

Figure 9. TIC chromatogram and EIC of Polystyrene in oxidation atmosphere

まとめ

JMS-T2000GCに低真空用フィラメントを装着し、酸化雰囲気におけるシュウ酸カルシウムとポリスチレンの酸化生成物を確認することができた。また一連の測定における酸化雰囲気中でのフィラメント点灯時間は累計50時間以上となり、耐久性にも問題がないことが確認できた。本TG-MSシステムを用いた酸化雰囲気下での分析は各種樹脂や合成ゴム等の分析に有効であり、製品開発や品質管理での活躍が期待できる。

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