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熱脱着・熱分解DART-TOFMSによるポリフェニレンスルフィドの末端基構造解析 [DART Application]

MSTips No. 353

熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法 (Py-GC-MS) やマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法 (MALDI-MS) は、ポリマーの分析において強力なツールである。Py-GC-MSは、ポリマー試料を瞬間的に加熱し、熱分解で生じるガス成分をGC-MSで分析する手法である。様々な状態のポリマーに適用可能であり化学情報が得られるものの、ポリマーがモノマーレベルまで分解されるため試料の平均的な情報となり末端基構造解析までは難しい。MALDI-MSは、ポリマーをソフトにイオン化可能であり、適切なマトリックスを選択することで分子量数100 Da~数100 kDaのポリマーをイオン化可能である。高分解能飛行時間質量分析計と組み合わせることで分子量10 kDa程度までであれば、末端基の異なるホモポリマーの混合物、異種ポリマーの混合物、共重合ポリマーであっても質量分離し、分子量分布を求めることも可能である。しかし、精密質量による末端基の元素組成解析は、おおよそ数kDa程度までの範囲に限られる。このようにPy-GC-MS, MALDI-MSによるポリマー分析に一長一短があるなかで、熱脱着・熱分解 (TDP)-DART-MSによるポリマーの末端基解析が提案されている[1]。この手法は昇温加熱デバイスによりポリマーを昇温加熱する際に発生するガスをDART-MSで質量分析する手法である。昇温加熱することでPy-GC-MSとはことなり、適度に断片化されたオリゴマー成分をDART-MSで分析することができる。発生するオリゴマー成分には、主鎖の1回切断により末端基構造を含むものがあり、ポリマーの構造解析の一助となる。本報告では、TDP-DART-MSを用いたポリフェニレンスルフィド (PPS) の分析例を報告する[2]。PPSは、耐熱性・耐薬品性に優れたエンジニアリングプラスチックである。その製法の違いが末端基にあらわれるため末端基構造解析が重要となる。しかしPPSは、汎用溶媒に不溶であることからその末端基解析はLC-MSやMALDI-MSでは困難であったので、TDP-DART-MSでの検討を試みた。

実験方法

試料は、研究用PPS (Scientific Polymer Products製) を使用した。昇温加熱デバイスにはionRocketを用いた。昇温加熱デバイスからの発生ガスは、AccuTOF™ LC-plusにDART™イオン源を装着し測定を行った。PPSは、ionRocket用の銅製試料台に固体のまま配置した。ionRocketの昇温は、最初の1分間を室温で保持しそれ以降100°C / 分で600°Cまで加熱を行った。DART™イオン源のヘリウムガス温度は450°Cとした。測定質量範囲はm/z 250~1,500とし、正イオンモードで測定を行った。ケンドリックマスディフェクト (KMD) 解析にはmsRepeatFinderを用いた。

結果

Figure 1aに昇温加熱にともなう全イオン電流 (TICC) の変化を示した。200°C付近から熱分解によるガスが発生し始め、550°C付近で極大となり、その後急激にガス量が低下した。Figure 2bには、180~500°Cのマススペクトルを示す。マススペクトルに108 u間隔のピーク群が観測されており、これは精密質量からPPSのモノマー単位であるC6H4Sと推定された。

Figure 1 (a)
Figure 1 (b)

Figure 1. Evolution profiles of PPS in the TIC mode during the heating process(a) and
mass spectra of heating temperature 180-500 (b).

Figure 2aは、Figure 1bのマススペクトルをKMDプロット (base unit C6H4S) に展開したものである。KMDプロットからは主に4つのシリーズが観測されていることが分かり、msRepeatfinderにてグループ化を行った。それぞれのシリーズについて精密質量と同位体ピークのパターンから構造推定を実施した。その結果をFigure 2bに示す。シリーズII, IVについては同位体パターンから塩素をそれぞれ1, 2個含むことが分かった。シリーズIIのn=2についてマススペクトルの拡大図と同位体パターンシミュレーションの結果を比較した (Figure 2c)。これら末端基解析の結果から、本試料がPillips法により製造されたものと推定することができる。なお、工業用のPPSを解析した結果は参考文献[2]に記載されているので参照されたい。

Figure 2 (a)

Figure 2
(a) KMD plots of Figure 1b(base unit C6H4S).
(b) The estimated chemical structures of series I-IV found in KMD plot.
(c) Observed and simulated mass spectrum of [H(C6H4S)2C6H4Cl + H]+ in series II.

Figure 2 (b) (c)

まとめ

以上のようにTDP-DART-TOFMSを使用してえられる主鎖の1回切断によりオリゴマーが末端基の情報を含んでいる。このことを利用し、末端基の構造解析ならびにその製法に関する情報を得ることができる。

参考文献

  • [1] 佐藤浩昭他 分析化学 Vol 69, No1・2 p 77-83 (2020)
  • [2] 中村清香他 分析化学 Vol 70, No1・2 p 45-51 (2021)

謝辞

本資料は国立研究開発法人産業技術総合研究所 機能化学研究部門 佐藤浩昭氏、山根祥吾氏、中村清香氏のご協力により作成したものです。DART™用熱脱着・熱分解デバイスionRocketを実験のためにご貸与いただいた (株) バイオクロマトに感謝いたします。

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