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HS GC-QMSおよび統合定性解析手法による水質汚染物質識別の迅速化 ~河川への流出事故を想定したアクリル塗料分析~ [GC-QMS Application]

MSTips No. 359

はじめに

全国の一級河川水系における油類や化学物質の流出等による水質事故については、近年増加傾向にある。水道水源で流出事故が発生した場合、汚染源を特定し流出防止および浄化対策が実施されるため汚染物質とその種別を迅速に識別する必要がある。この分析手法の一つであるGC-QMS法では、 溶媒抽出による前処理を行い、クロマトグラムのパターンおよび特定成分の定量などから識別している。そこで、今回、前処理が不要なヘッドスペース法と我々が開発したGC-QMSで得られる整数質量データに対応した統合定性解析ソフトウェアを用いて流出事故を想定したアクリル塗料水溶液の迅速な識別を試みた。その結果、塗料の特徴的な成分を識別することができたので報告する。

実験

測定にはトラップ型ヘッドスペース装置MS-62071STRAPと、GC-QMS装置JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを用いた。イオン化法はEI法およびソフトイオン化法として光イオン化 (PI) 法を用いた。全ての解析には統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQを用いた。測定試料として、精製水に市販のアクリル塗料を添加した希釈水溶液 (10,000倍) 10 mLをヘッドスペースバイアルに封入した。これを80°Cで30分間加熱した際の気相ガス成分についてEI法とPI法で測定した。HS GC-QMS測定の詳細条件をTable 1に示す。この測定データを用いて統合定性解析を試みた。

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta w/ MS-62071STRAP

Table 1 Measurement Condition

HS
Sample temp. 80°C
Heating time 30 min
Sampling mode Trap
Number of sampling 1
Trap tube AQUATRAP1
(GL Sciences Inc.)
GC
Column HP-5 (Agilent Technologies)
30 m × 0.32 mm id, 0.25 μm
film thickness
Oven temp. 50°C (3 min) → 5°C / min → 300°C (5 min)
Carrier gas 2 mL / min (Constant Flow)
Injection temp. 250°C
Injection mode Split 50:1
MS
Interface temp. 300°C
Ion source temp. 250°C
Acquisition mode Scan (m/z 29-600)
Ionization EI (70 eV, 50 μA)
PI (10.78 eV)

測定結果

msFineAnalysis iQを用いたアクリル塗料の統合解析結果をFigure 1に示す。主な成分は有機溶媒・溶剤で中でもメチルイソブチルケトン (MIBK) が顕著に検出され、アクリル樹脂製造の原料モノマーであるメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルが検出された。

msFineAnalysis iQ 解析結果画面のスクリーンショット

Figure 1 Integrated qualitative analysis result of acrylic paint

特徴的な成分の拡大クロマトグラムをFigure 2に示す。顕著なピーク [019] だけでなく微小ピーク [015] も検出できていることがわかる。これらのマススペクトルをFigure 3, Figure 4に示す。EI法、PI法のどちらのマススペクトル上においても分子イオンと推定されるm/z 100のイオンを検出することができ、PI法では分子イオンがベースピークとなるマススペクトルが得られた。また、msFineAnalysis iQによる統合解析結果をTable2, Table3に示す。この結果より、ピーク [015] はライブラリーDBとの類似度が905と算出された「Methyl methacrylate (メタクリル酸メチル)」、ピーク [019] はライブラリーDBとの類似度が943と算出された「Methyl Isobutyl ketone (メチルイソブチルケトン)」であると推定された。以上のように、HS GC-QMS法で特徴的な成分を検出でき、msFineAnalysis iQの統合解析により容易に一意の候補に決定することができた。

Figure 2

Figure 2 Enlarged total ion current chromatograms

Figure 3

Figure 3 Mass spectra of peak [015]

Figure 4

Figure 4 Mass spectra of peak [019]

Table 2 Integrated qualitative analysis result of peak [015]

化合物名 CAS# 類似度 類似度
(リバース)
Lib. RI [iu] ΔRI [iu] 組成式 EIベースピーク
(Lib.)
分子量 分子量確認
Methyl methacrylate    80-62-6  905 910 714 6 C5 H8 O2 41 100

Table 3 Integrated qualitative analysis result of peak [019]

化合物名 CAS# 類似度 類似度
(リバース)
Lib. RI [iu] ΔRI [iu] 組成式 EIベースピーク
(Lib.)
分子量 分子量確認
Methyl Isobutyl Ketone 108-10-1 943 946 735 13 C6 H12 O 43 100

まとめ

本報告では、HS GC-QMSおよび統合定性解析手法による水質汚染物質の識別例について紹介した。前処理が不要なヘッドスペース法による特徴的な成分の検出と新規に開発したmsFineAnalysis iQの統合解析により、各成分の定性を容易に行うことができた。本手法を用いることで、定性解析精度の向上、作業時間の短縮、作業効率の向上が実現でき水質汚染物質の迅速な識別に有効といえる。

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