熱分解GC/AccuTOF™ GC によるABS 樹脂の定性分析(1) :未知成分の解析 [GC-TOFMS Application]
MSTips No.59
はじめに
熱分解 GC/MS とは、温度制御可能な加熱炉や誘導加熱型(キューリー点型)装置内に試料を導入し、発生した熱分解生成物を GC にて分離し、MS で検出する分析手法である。この手法により、溶媒に溶け難い高分子化合物の組成分析が可能となる。従来、熱分解GC/MSのMSには主に四重極型MSが用いられてきたが、これを TOFMS にすることで精密質量を得ることが可能になり、より精度の高い定性分析、組成推定が可能となる。
以下に熱分解 GC/TOFMS 測定例として、EI 法、CI 法、FI 法にてアクリロニトリル(A)-ブタジエン(B)-スチレン(S)共重合体(以下 ABS樹脂)を測定した結果について紹介する。
試料及び条件
試料:ABS樹脂
熱分解 GC 条件
熱分解装置 | フロンティアラボ社製 ダブルショットパイロライザー |
---|---|
熱分解炉温度 | 550°C |
GC | Agilent 社製 6890N |
カラム | DB-5ms、30m×0.25mmI.D. 膜厚 0.25μm |
オーブン | 50℃→5℃min→280(4min) |
注入口 | 280℃、Split(1:50) |
キャリアガス | He(定流量モード:1mL/min) |
MS条件
MS | JMS-T100GC "AccuTOF™ GC" |
---|---|
イオン化法 | EI+ :70eV、300μA CI+ :200eV、300μA、イソブタン 0.1mL/min FI+ :カソード電圧 -10kV、エミッタ電流 0mA |
測定質量範囲 | m/z 35−600 |
スペクトル記録速度 | 0.5 秒(2スペクトル/秒) |
結果及び考察
以下に得られたTICと、観測された未知成分の質量スペクトル・精密質量計算結果を示す。
図1 EI法で得られたTIC(リテンションタイム 6~23分の拡大図)
図2 未知成分の質量スペクトル
表1 未知成分の精密質量計算結果
イオン化法 | 実測値 | 理論値との誤差(mmu) | 推定組成式 | 不飽和数 |
---|---|---|---|---|
EI法 |
51.0230 |
-0.5 |
C4H3 |
3.5 |
77.0392 |
0.1 |
C6H5 |
4.5 |
|
91.0555 |
0.7 |
C7H7 |
4.5 |
|
104.0629 |
0.3 |
C8H8 |
5.0 |
|
115.0545 |
-0.3 |
C9H7 |
6.5 |
|
141.0699 |
-0.5 |
C11H9 |
7.5 |
|
168.0808 |
-0.5 |
C12H10N |
8.5 |
|
183.1035 |
-1.3 |
C13H13N |
8.0 |
|
CI法 |
184.1127 |
0.1 |
C13H14N |
7.5 |
FI法 |
183.1055 |
0.7 |
C13H13N |
8.0 |
図1に示すように各イオン化法で質量スペクトルが得られた。CI法では[M+H]+と考えられる m/z184が、FI法では[M]+と考えられるm/z183が観測されており、各々の精密質量から未知成分の組成式はC13H13Nであると決定された。以上の結果から、観測された未知成分はベンゼン核を1つ、シアノ基を1つもつ有機化合物C13H13Nであると推定された。以下に考えられる生成過程を示す。
図3 未知成分の生成過程
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