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低真空SEMの耐火物試料への応用

※ 本稿は、耐火物協会発行の「耐火物」Vol.54 No.4 P188-192, 2002(ISSN 0039-8993)特集号:耐火物の分析・評価技術 に掲載された論文です。

レンガなどの耐火物は、一般に組織がポーラスなため、走査電子顕微鏡(SEM)に試料を挿入してもアウトガスが多く、なかなか所定の真空度に達しません。また、ポーラスな組織であることに加えて絶縁物であるため、試料表面を導電性にするための金属コーティングが必要で、それなくしては帯電現象(チャージアップ)のために観察が困難です。このような問題を解決したのがSEMの試料室を低真空に維持することのできる低真空SEMです。低真空SEMは、入射電子と残留ガス分子の相互作用を利用して絶縁物試料をチャージアップさせることなく観察することを主目的にしています。当然ながらアウトガスの多い試料においても、真空度を気にせずに大きな試料をそのまま入れて観察を行うことができます。本稿では、反射電子を検出して低真空モードでの観察を行う低真空SEMと、低真空SEMの耐火物への応用例を紹介します。

1. 緒言

レンガなどの耐火物は、一般に組織がポーラスなため、走査電子顕微鏡(SEM)に試料を挿入してもアウトガスが多く、なかなか所定の真空度に達しません。また、ポーラスな組織であることに加えて絶縁物であるため、試料表面を導電性にするための金属コーティングが必要で、それなくしては帯電現象(チャージアップ)のために観察が困難です。このような問題を解決したのがSEMの試料室を低真空に維持することのできる低真空SEMです。低真空SEMは、入射電子と残留ガス分子の相互作用を利用して絶縁物試料をチャージアップさせることなく観察することを主目的にしています。当然ながらアウトガスの多い試料においても、真空度を気にせずに大きな試料をそのまま入れて観察を行うことができます。本稿では、反射電子を検出して低真空モードでの観察を行う低真空SEMと、低真空SEMの耐火物への応用例を紹介します。

低真空SEMの真空排気システム

図.1 低真空SEMの真空排気システム

左:高真空モードでの排気系統図
右:低真空モードでの排気系統図

2. 低真空SEMの原理

2.1 低真空SEMの真空排気系 

図.1(a)(b)は低真空SEMにおいて高真空モードと低真空モードを切り替えたときの真空排気系統図です。電子銃室や電子レンズ部分の鏡筒は10-4Pa程度の高真空に保たれており、試料室の真空度のみが調節可能になっています。高真空部分と低真空部分はオリフィスによって仕切られており、それぞれが個別に真空排気されています。試料室へのガス導入を止めれば試料室の真空度は上がり、通常の高真空SEMとして利用できます。

2.2 低真空SEMにおけるチャージアップ防止

通常10~15keVのエネルギーに加速された入射電子は対物レンズ下端のオリフィスを通過して低真空試料室に入ってきます。その後、入射電子は試料室に残留するガス分子と衝突してガス分子をイオン化しながら最終的に試料に入射します。また、試料表面から放出される比較的エネルギーの高い電子も残留ガス分子と衝突してガス分子をイオン化します。一方で絶縁物試料表面は入射電子の電荷が溜まり負に帯電しようとするが、試料室で発生した陽イオンが負の電荷に引き寄せられ、結果的にチャージアップが防止されます。

2.3 信号の検出

試料から放出される電子にはエネルギーの低い二次電子と、入射電子が試料内部でエネルギーを失う前に再び真空中に飛び出してきた比較的エネルギーの高い電子(反射電子)があります。一般にSEMで形態観察を行うためには二次電子を検出して画像(二次電子像)を作っていますが、二次電子検出器には二次電子捕捉のため約10kVの高電圧が印加されています。この高電圧は10-4Pa程度の高真空では使用できますが、低真空では放電のため使用できません。日本電子(株)の低真空SEMでは、低真空モードにおいて、二次電子を検出する代わりに反射電子を検出しています。反射電子検出器としては半導体検出器、YAG(イットリウム/アルミ/ガーネット)検出器、ロビンソン検出器などがあります。

図.2に示す一対の半導体検出器を使うと、試料からの反射電子信号を組成に依存した画像(組成像)と凹凸に依存した画像(凹凸像)に分離して表示することが可能となります。この反射電子凹凸像は二次電子像では観察しにくい試料表面のなだらかな凹凸に強いコントラストを示してくれますが、逆に急峻な凹凸に対しては鈍感です。したがって低真空SEMでは一対の半導体検出器にさらに半導体検出器を一枚加えることにより、急峻な凹凸に対しても十分なコントラストが得られる工夫がなされています。この画像は組成像や凹凸像と区別するために立体像と呼ばれます。

半導体反射電子検出器
図.2 半導体反射電子検出器

3. 利用上の注意

3.1 チャージアップの見極め

一般的な絶縁物試料を低真空SEMで観察する場合、試料室の真空度を20~30Paに設定すればチャージアップは消滅します。この真空度でまだチャージアップが消滅しないときはさらに真空度を下げる必要があります。ただし、真空度を下げることは、得られる画像のざらつきと解像度(どのくらい高い倍率でどのくらい細かい構造が観察できるか)に影響を及ぼします。低真空にすればするほどざらつきが増し、解像度が落ちることを認識して低真空SEMを使うことが望まれます。

3.2 低真空モードにおける元素分析

SEMでは一般にエネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)を装着することによって、観察部位の元素分析が可能になります。この元素分析は低真空SEMにおいても可能です。ただし、低真空モードにおいては、入射電子は試料に入射する前に残留ガス分子との衝突を繰り返すため、軌道を変えられてしまう可能性が大きい。高真空モードでは入射電子は試料上の一点に入射しますが、低真空モードでは入射電子が広がりをもって試料に入射することを認識しなければなりません。したがって試料表面の局所的な元素分析が必要なときには、カーボンコーティングによるチャージアップ対策を行った上で高真空モードによる分析が必要です。

4. 応用例

低真空SEMによる応用例として、数cm角の大きな塊状の電融鋳造煉瓦(Zirconia 33%, AZS fused cast refractories、未使用のもの)の形態観察および元素分析例を示します。当然ながら、試料は導電性に乏しい。したがって、試料表面への金属コーティングなくしては、激しいチャージアップのために鮮明な二次電子像を得ることができません。以下は金属コーティングを施すことなく観察と分析を行った事例です。

低真空モードにおける反射電子組成式
(a)低真空モードにおける
反射電子組成式
低真空モードにおける反射電子凹凸像
(b) 低真空モードにおける
反射電子凹凸像
低真空モードにおける反射電子立体像
(c)低真空モードにおける
反射電子立体像

観察条件 : 加速電圧 15kv、撮影倍率 ×500、LVモード 20Pa

図.3(a),(b),(c)はそれぞれ、低真空SEM(JSM-5610LV)によって得られた同一視野の反射電子組成像、反射電子凹凸像、反射電子立体像である(以下それぞれを組成像、凹凸像、立体像と呼びます)。観察条件は、加速電圧が15kV、撮影倍率が500倍、SEM試料室の真空度は20Paです。(a)の組成像は、明るい部位が暗い部位よりも平均原子番号の大きな物質があることを示しています。(b)の凹凸像は、組成のコントラストを排除して凹凸に依存したコントラストのみを示しています。(c)の立体像は、組成の情報と凹凸の情報が重畳しています。

電融鋳造煉瓦の低真空モードでのEDS分析(定性・定量)例

図.4 電融鋳造煉瓦の低真空モードでのEDS分析(定性・定量)例

図.4は図.3に示した領域を低真空モードのままEDS(JED-2201)で元素分析を行った例で、(a)にスペクトルによる定性分析の結果と、(b)に数値による定量分析結果を示します。Zr33%の電融鋳造煉瓦であるにも関わらず定量結果はZrの酸化物として23.56%という定量値を示していますが、これは、電子ビームに照射された試料上の局所的な部位での定量結果であるためと考えられます。

Alの元素マップ
(a)Alの元素マップ
Siの元素マップ
(b) Siの元素マップ
Zrの元素マップ
(c)Zrの元素マップ

図. 5 電融鋳造煉瓦の低真空モードにおけるEDS元素マップ例(図.3と同一視野)

図.5(a),(b),(c)は同一視野におけるアルミニウム(Al)とシリコン(Si)とジリコニウム(Zr)の分布を示すX線像です。これらのX線像からAlとSi、あるいはAlとZrが交じり合った相のあることが分かります。ここで応用例に使用した電融合鋳造煉瓦の試料は旭硝子(株)からご提供をいただきました。

5. まとめ

本稿では反射電子を検出するタイプの低真空SEMを紹介し、耐火物のようなアウトガスの多い絶縁物試料への有効性を解説しました。実際の低真空SEMにおいては、反射電子を検出することに加えて、高真空SEMの二次電子像に匹敵するような信号の検出も可能になっています。これらの信号の特徴を理解し目的に応じて利用することが望まれます。今回本稿で示した応用では、反射電子組成像がEDSによる元素マップとよく一致しており、反射電子を検出するタイプの低真空SEMの有効性を理解していただけたと思います。一方、本稿では試料作製法(前処理)に関しては記述しませんでしたが、目的に応じた前処理を行って、高真空モードでの観察や分析を行い、その情報と低真空モードで得られた情報とを比較検討することで、より多くの試料情報が得られる可能性があることを忘れてはなりません。

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